表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『その手を言葉にできたら』 ― 行動でしか伝えられない彼女と、言葉でしか繋がれない彼 ―  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/94

5.締め:風と余韻

柚希が時計を見て、手にしたパンを軽く振った。


「ほら、パン冷めちゃうよ。行こ、奏」


「うん……」

奏は立ち上がりかけて、もう一度だけ透のほうを振り返った。


「……また、ここにいるんですか?」


透は本を閉じて、少しだけ目を細める。


「たぶん。風が気持ちいいから」


その言葉は冗談めいていながらも、どこか確かな響きを持っていた。

奏は小さくうなずく。


「……そうですね」


彼女が歩き出すと、春の風がふいに強く吹いた。

枝の先に残っていた桜の花びらが一斉に舞い上がり、

透の膝の上に開いた本のページへ、一枚が静かに落ちる。


透は指先でそれをそっと押さえ、目を細めた。


(彼女の笑い声が、風に混ざって残る)


遠ざかる背中を見送りながら、ページの上で淡い花びらが揺れる。


一方、奏の胸の奥では、なにか柔らかいものが広がっていた。


(この人は、“静けさ”の中で、ちゃんと世界を見ている――)


昼下がりの風が、まだ少し春の匂いを残して通り抜けていく。

その中で、二人の間に生まれた小さな気配だけが、確かに残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ