2.出会い:奏と柚希の登場
購買帰りのビニール袋が、風にぱたぱたと鳴った。
中庭の小道を、奏と柚希が並んで歩いてくる。
手にはそれぞれ、パンと紙パックのお茶。
昼の光に照らされて、二人の笑い声が明るく揺れていた。
「ねえ、今日の購買、すごい行列だったよね」
「うん、チョコパン最後のひとつだったもん」
そんな他愛もない話をしていたとき、
柚希がふと視線を横に向ける。
ベンチの端で、一人本を読んでいる透の姿が見えた。
光を背にして、ページをめくる指の動きがゆっくりと規則的だ。
風にめくられそうになるページを、親指で押さえている。
「また本読んでる、佐伯くん。ほんと静かだね」
柚希が声に出して笑う。
奏も目をやり、少し思い出したように言った。
「……あ、委員の」
柚希は面白そうに微笑む。
「話しかけたら悪いかな?」
透はその声に気づき、顔を上げた。
陽の光の中で目を細め、少し驚いたように、けれど穏やかに笑う。
「もちろん。読むより聞く方が好きなんだ」
柔らかな声だった。
その言葉が、風の音に溶けて届く。
奏は一瞬、意味を測りかねて瞬きをした。
本を読んでいたのに、聞く方が好き――?
柚希は「へぇ、そうなんだ」と笑って、パンの袋を軽く揺らした。
中庭の風がまた吹き抜け、ページの端がひらりと揺れる。
透は何事もないように、それを指で押さえながら、
ふたりの立つ方を静かに見つめていた。




