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『その手を言葉にできたら』 ― 行動でしか伝えられない彼女と、言葉でしか繋がれない彼 ―  作者: 南蛇井


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6.結び:夕焼けの中の余韻

作業がすべて終わるころ、

教室の光は少しずつ薄れていた。


夕陽が黒板の端をかすめ、

白いチョークの粉が金色に光る。

窓の外では、部活帰りの声が遠くに滲んでいる。


透は名簿を閉じ、軽く伸びをした。

静かな音で椅子の脚が床を引きずる。


「もう帰る?」


その声に、奏は顔を上げた。

プリントを束ねたまま、少し考えてから頷く。


「うん。……明日、もう少し早くやったほうがいいね」


「そうだね」

透は窓の外に目をやった。

西の空が、ゆっくりと藍色に沈んでいく。


そして、少し間を置いてから、

ふと笑みを浮かべて言った。


「でも……今日の感じ、悪くなかった」


奏は一瞬、返事を探した。

けれど、うまく言葉が見つからない。

手に持った鞄の紐を、そっと握る。


(“今日の感じ”って、どういう意味?)

(間違えたのに、“悪くなかった”……?)


その疑問が、心のどこかに柔らかく残る。

けれど、それを確かめるほど、今は勇気がなかった。


風がカーテンを揺らす。

オレンジ色の光が、机の上を滑る。

その光の中で、二人の影がゆっくりと重なって――

そして、また離れた。


プリントは、全部揃った。

数も、順番も、もう完璧だ。


けれど、あの“一枚足りなかった時間”だけは、

どこかに静かに残っている。


声にもならず、

理由にもならず、

ただ“余韻”として、春の終わりの空気に溶けていく。


廊下の向こうで、下駄箱の扉が閉まる音がした。

それを合図のように、透も奏も黙って教室を出た。


教室の中には、

まだ淡い夕焼けの匂いだけが残っていた。

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