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第5話 私の友人

ガラッ―



「まだ誰もいないのか…早く来すぎたかな?」



教室のドアを開けると、日本の学校とは違い、長いテーブルが端から端まで並び、階段状に段差がついて配置されていた。

こういう教室は講義用だと思っていたから、ちょっと驚いた。さすが異世界。

なんて思いながら、誰もいない教室で「早く来すぎたかな」とつぶやきつつ、自分の席を探していた。



「日本の学校とは違って、指定席はないのかなぁ?」


「日本…ですか?」


「へっ?!」



一人でぶつぶつ言いながら席を見て回っていると、突然背後から男性の声が聞こえた。

思わず振り返ると、そこに立っていたのは私より背が低く、黒髪で少しふっくらした青年。

その姿を見た瞬間、私は日記に書かれていた友人の一人だと気づいた。



彼の名は―



「あら。ミカミ!おはよう!」


「おはようございます、リオラさん。

突然“日本”と言い出されたので驚きましたが…日本という国をご存じで?」



彼の名前はタカユキ・ミカミ。日記にも書いてあったから間違いない。

そして、絶対に日本人。転生者に違いない!

そう確信した私は、早速で申し訳ないと思いつつも、ミカミに問いかけた。



「私、あなたに聞かなければいけないことがあるの!」


「え?」


「ちょっとこっちに来て、耳を貸して!大きな声じゃ言えないんだから!」


「はい?」


「あなた…日本からの転生者よね?」


「え?!」



こんなこと、黙っていられるはずがなかった。

私はミカミをそっと呼び寄せ、耳元で「日本からの転生者でしょう?」と問いかけた。

その瞬間、ミカミの目がギョッと大きく見開かれたので、私は確信した。

間違いない。この人も転生者だ。

だから私は勢いを止めず、さらに追求した。



「だって“タカユキ・ミカミ”なんて、バリバリの日本人じゃない!

“ミカミ”って“三に上”?それとも“三に神”って書く方?!」


「いやっ…ええ?唐突ですな、リオラさん…。

あ…リオラさん、あなたももしや…」


「内緒よ。絶対に内緒にしてね!

私ね、昨日の朝に記憶が戻ったの。私も日本人で“深見瑠花”っていう名前だったの。」


「なるほど…瑠花さんというお名前でしたか。とても美しいお名前ですな。」


「私の日記に、あなたが友達の一人だって書いてあったから、絶対に聞こうと思ってたの!突然ごめんね?」



嬉しさのあまり、言葉が止まらずマシンガントークになってしまった私。

だけどミカミは、そんな私の話を優しく頷きながら聞いてくれた。

そして、私の名前を「美しい」と言ってくれて、何だかとても嬉しかった。

それにしても、日記にも書いてあったけど、ミカミの喋り方は若者とは思えない。

もしかして…?

そう思った私は、もう少しだけ訊いてみることにした。



「ミカミはいつ頃転生したの?私は30歳前くらい。

犬の散歩してたら、トラックに撥ねられちゃって…。」


「働き盛りの20代のお嬢さんだったのですね。私は…50代だったと記憶しています。

サラリーマンをしておりました。いつも書類作業に追われていて、

毎日遅くまで仕事をしていたのですが…眠ったと思ったら、過労死していました。」


「過労死?!ミカミ、どれだけ働かされてたの?」


「1日20時間ほどですかね。やりがいは感じておりましたが、体は…SOSを出していたようです。」


「それ、完全にブラック企業じゃない!労基に訴えないと!…って、もう転生しちゃったからいいのか…。」



私が転生した時の話をすると、ミカミも自身の転生事情を教えてくれた。

ブラック企業で働きすぎて過労死なんて…可哀想すぎる!

思わず「労基!」と叫んでしまったけれど、今はこうして新しい人生を歩めているのだから、よかったな…としみじみ思った。

すると、ミカミは困ったように笑いながら言った。



「それにしても、新学期早々に転生者の話を振られるとは思いませんでした。」


「あはは、だよね?ごめんね。でも、よかった!同じ“元日本人”に会えて!

改めてよろしくお願いします、ミカミ!」


「ええ。私もとても安堵しましたよ。よろしくお願いします、リオラさん。」



ミカミはそう言って、頭をポリポリとかきながら笑っていた。

確かに、新学期早々に転生者かどうかを問い詰められるなんて、予想外だったよね…。

私も勢いに任せてたくさん話してしまったことを反省しつつ、改めて「よろしくね」と伝えた。

これで、ミカミとは本当の友達になれそう!

そんな嬉しい気持ちでいっぱいになっていたその時―

再び教室のドアが開き、金髪の長髪がクルクルと巻かれ、いかにも“お嬢様”という風貌の生徒が入ってきた。

この子は、そうだ…



「ごきげんよう。リオラさんにミカミ。二人とも相変わらず朝が早いんですわね。」


「セレナ!おはよう!」


「セレナさん、おはようございます。」



金髪の縦ロールを煌びやかになびかせながら朝の挨拶をしてくれたのは、私の友達の一人、セレナ・ウィリアム。

ウィリアム侯爵家の長女である彼女は、本来は魔法はあまり得意ではない家系だったらしいけど、

そのウィリアム家で初めて魔力量が多く聖魔法を得意とするご令嬢。

とても高飛車だけど、憎めない。そう日記に書いてあった。



「聞いてくださる?昨日、予習していたら呪文を間違えて、小さな雷を落としてしまいましたの。

幸い誰もいませんでしたけれど、机が少し焦げましてよ!

お父様からのお咎めはありませんでしたが、お母様にはさすがに怒られましたわ!」



セレナは楽しそうに、昨日の出来事を私たちに話してくれた。

公爵家の私、そして侯爵家のセレナのようなご令嬢は、孤独になりがちだと聞く。

疎まれることも多く、心から「友達」と呼べる人に出会えないこともあるらしい。

だけど、今こうして話しているセレナはとても楽しそう。

きっと、私やミカミが彼女にとって“本当の友達”になれている証なんだろう。

それが何だか誇らしくて、嬉しかった。



「おやおや。いつの間に雷属性が使えるようになったのでしょう?素晴らしいです。」


「そうでしょう?わたくしも驚きましたの!間違えただけとはいえ、使えるなんて!

神はわたくしに次なる魔法をお教えくださったのですわよね、リオラさん!」


「ふふっ。セレナは本当に熱心にお勉強されていますわよね。

わたくしも見習わなければですわ。」


「何を言っているんですの!リオラさんほど魔法力に長けて、魔物と心を通わせる方のほうが、わたくしよりずーーーっと凄いですわ!」



ミカミが褒めると、セレナは嬉しそうにフフンッと顔を上げて笑った。

こういうところが“憎めない”ってことなのかもしれない。

そう思いながら、話を振られた私は、令嬢らしい言葉遣いで丁寧に返した。

するとセレナは、私の方が凄いと言ってくれて、

「魔物と心を通わせることができる方が、ずっと凄い」とまで言ってくれた。

―魔物と心を通わせる…?

その言葉の意味がよく分からず首を傾げていると、再び教室のドアがガラッと開いた。



「はよ。」


「ノアさん、おはようございます。」


「ごきげんよう、ノア。今日は遅刻しなかったのですわね。」


「…るせぇ。」



ドアの向こうから顔を覗かせたのは、黒ヒョウの獣人のイケメン青年。

彼の名はノア。私が仲良しだと日記に書いていた、3人の友人のうち最後の一人。

この学院は、人間だけでなく、獣人や他種族も通っている。

ただし、入学できるのは「この世界を護る意志がある者」かつ「敵意を持たぬと誓える者」に限られている。

ノアはその条件を満たした獣人の一人。金色に輝く瞳がとても印象的な青年だった。



「リオラ…おはよ。」


「おはようございます、ノア。」


「今朝、森で泣いてる魔物を見つけたんだ。放課後、一緒に来てくれないか?」


「え?ええ。いいですわよ?」



今、私の前で優しく笑うノアは、もともと誰とも馴れ合わない、とても孤独な青年だった。

仲良くなってから、彼の口から聞いた話によると、

彼の生まれはこの大陸ではなく、獣人に理解のない人々の中で育ったらしい。

常に迫害されながら生きてきたノアは、元々高い魔力を持っていたこともあり、

その生活を変えるために、学院が年に一度行う魔力適性検査を受け、見事合格。

それを機にこの大陸へ移り住み、ようやく“自分らしく”生きられるようになったのだと話してくれた。


どこの国でも、何かに対する差別は存在している。

けれどノアも、セレナも、ミカミも、こうして笑って過ごせるこの学院があって、本当に良かった。

そう心から感じていた。


それにしても…

なぜ、私を連れて魔物を見に行こうと言ったのだろう?

そういえば、セレナも私が魔物と心を通わせることができると言っていたっけ。

それって、日記に書いてあった“精霊と話す”という内容と関係があるのかな?


まぁ、いずれ分かること。

そう思いながら、皆との会話が新鮮で、朝からとても楽しく感じていた―…



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