第17話 そんなことするなんて許せない
おじい様に鑑定してもらったスキルについて、私は早速ミカミに報告した。
するとミカミは「納得ですな」と、中年のおじさんの反応を見せて笑った。
そして、自分たちが転生者であることは、これからもこうしてこっそり話す程度にしておこうと改めて確認していた。
そんな中、他の生徒たちが何やら貴族令嬢の周りに集まっているのが目に入った。
また珍しい宝石でも見せびらかしているのだろうか?
そう思っていると、その自慢をしていた張本人とバチッと目が合ってしまい、スタスタとこちらへ近づいてきた。
私、何かしたっけ?!
「リオラ様!見てください!」
「どうされましたの?」
「昨日、父上が私にプレゼントしてくださいましたの!魔道具の魔珠ですわ!」
「魔珠…?」
「これはこれは…珍しいものをお持ちですな?」
「そうでしょう?滅多に手に入らない代物らしいのです!
今日から私もこれを使って強くなりますわ!課外授業が楽しみですの!
ぜひリオラ様にも見ていただきたいので、よろしくお願いしますね!」
「え?ええ、分かりました。楽しみにしておきますわね。」
私に手のひらサイズ、直径4センチほどの球体を見せてきたのは、ハリントン子爵家の長女ミラーさんだった。
確か、ハリントン家は魔道具製作に長けた一族だったはず。
あまり詳しくは思い出せないけれど、それよりも見せられた球体の方が気になっていた。
なに?魔珠って。初めて聞く名前。
見た感じは色のついたガラス玉のようで、中央には動物の影のようなものが描かれていたよね。
さらに黒いモヤがかかっているようにも見えた。
なんて、不思議に思っていると、隣にいたミカミが説明してくれた。
「リオラさん、魔珠とは魔道具の一種で、特殊な技術によって魔物を球体内に強制的に封印し、その力を使用するためのものです。
球体の中央に動物の絵のようなものがありましたでしょう?
あれは、封じられた魔物の姿を模した漆黒の影が浮かんでいるのです。」
「え?魔物を封印ですって?!なにそれ…」
「よくアニメでありましたでしょう。ボールに生き物を収納する作品が。大まかに言えばあんな感じです。
ですが、大きく違うのは、閉じ込められた魔物は球体を壊さない限り二度と出ることはできません。
さらに、魔珠を使用して力を発揮すると、封じられた魔物たちは強い苦痛を味わい、叫び声や唸り声を上げるそうです。
私にはとても扱えそうにない魔道具ですな…。」
「私だって嫌だよそんなの…!そんなことをしてまで力なんて欲しくない!
っていうか、違法じゃないの?あれ。」
ミカミが教えてくれた魔珠の正体。
聞いた瞬間、私の中では嫌悪感しか湧かなかった。
命をそんな風に扱っていいの?そう思ってしまうのは、私がこの世界の人間の心を持っていないからなのだろうか。
だけど、絶対に違法だと思った。そんなものを自慢するなんて…。
そう考えてミカミに違法性について尋ねたけれど、期待していた答えは返ってこなかった。
「リオラさんにとってはお辛いでしょうが、この国では違法とされず、力が得られるのならば仕方がないと王家も黙認しております。
他国では禁止されている国もありますよ。
…そうですね、例えばソウリアス王国では厳禁とされ、処罰の対象となっています。
ソウリアス王国のアーロン国王は生き物を大切にされる方だと聞きます。
魔物同士の違法な掛け合わせや改造も、魔珠と同じく厳罰化されているのです。」
「ええ…だったら私、そっちの国がいい!ここにはそういう考えはないの?」
「ギルティス帝国は軍事国家ですからね…。武力こそ正義という考えの国なので、力を得るためには多少の犠牲はやむを得ない、というスタンスなのです。」
「酷い話ね…」
ミカミの言葉で思い出した。この国は「武力こそ正義」。それが世界を救う術だと考える国だということを。
このルミステリア魔導学院も、より多くの腕の立つ人材を育て、この国の役に立つことを目的としている。
だけど、生き物を犠牲にするなんて、私の頭の中にはない。
危険な魔物を討伐対象とするのは心苦しいけれど、仕方がない部分もあると分かっている。
だけど、魔物の自由を奪い、無理やりその力を利用して苦しめるなんて…
そんな外道、許されていいはずがない。
だから、ミラーさんのことが今、とても嫌いになった瞬間だった。
「さてさて、もう忘れましょうリオラさん。
今日は皆で久々にルーナ・マルシェに行くんでしたね。」
「あ、そうだったね!すっごく楽しみ。私、まだ行ったことがなかったから!」
「リオラさんの記憶が戻られてからは、まだ一度も行かれていませんでしたね。
今日は午後から授業がないので、久々に楽しみましょう。」
「うん!案内よろしくね!」
嫌な気持ちでいっぱいになっていた私。
すると、それを察してくれたのか、ミカミが話題をスッと変えてくれた。
そういえば今日は午後から授業がない日。皆で買い物に出かけようと話していたんだった。
ルーナ・マルシェ―
それは、ルミステリア魔導学院に通う生徒と教員だけが入れる特別な市場。
杖屋、魔導書屋、ホウキ屋、魔法道具屋など授業で使う教材が揃っていて、
さらに、美味しい食べ物の露店やおしゃれな喫茶店もたくさんあると聞いて、心がときめいた。
行きたいと思いながらもタイミングが合わず、まだ一度も行けていなかった。
ようやく今日そこに行けるとあって、朝から楽しみにしていたのだ。
もう、魔珠のことはいったん忘れよう。
せっかく今日は楽しい日になりそうなんだから。
そう自分に言い聞かせ、ミラーさんを見ないようにしていた。
だけど…私だったら絶対にそんなものに手を出さないし、頼ることもしない。
それなら、魔物と仲良くなって一緒に戦ってもらう方が、よっぽどいいじゃない。
無理やりその子を縛り付けて、恐怖を与えながら力を奪うなんて…最低よね。
もしそんなものを見つけたら、私がすぐに壊してあげる。
絶対に助けてあげるから。
心の中で、そう固く誓っていた―…




