第16話 ステータス
「さて、二人とも。今日はレオンのことだったな?」
「ええ、そうなんです!レオンが急に転移したり、この間なんて怒った瞬間に、体から虹色のオーラのようなものが湧き出てきましたの。とても綺麗な光でしたわ。
それが何なのか分からなくて…おじい様とおばあ様に見ていただこうと思ったんです。」
「虹色……そうか。転生者や特異体質者に特有の光、というやつじゃな。」
「そうなんですの?」
私たちが落ち着いたところで、おじ様はレオンに視線を向けた。
私がこれまでに起きたことやオーラについて説明すると、まさかの転生者に見られる光だと知り、皆が驚いた。
「自分のオーラというものは、心が強く何かを願った時に発動することが多い。
通常は青や赤、黄色や緑などがあるんじゃが、稀に虹色のオーラを持つ者もおる。
それが、特異体質や転生者に多く見られる虹色のオーラじゃ。
虹色のオーラを持つ者は魔力暴走を起こしやすく、異端児と思われがちなのじゃが…
実は、膨大な魔力量を持ち、無限の可能性を秘めた証でもあるんじゃ。
ただし、転生者に多いという話は、ごく一部の者しか知らぬ秘密じゃ。
知られてしまえば、いろんな意味で標的になる可能性があるからのう。
だから表向きには、“虹色のオーラ持ちは魔力暴走を起こしやすい未完成の魔法使い”ということにしておる。
その結果、虹色のオーラを持つ者を忌避する風潮が生まれてしまったんじゃがな。
それでも、転生者という事実は隠しておかねばならぬ場合もあるからのう。」
「そうでしたの…じゃあ、わたくしのオーラも虹色なんでしょうか?」
「必ずしもそうとは限らん。いつかオーラが現れた時のお楽しみじゃな?」
おじい様から教えてもらったオーラの事情。
まさか転生者に多いという理由が隠されているとは知らず、転生者がいかに誰かの標的になりやすいのかを知った。
私も、誰彼構わず転生者の話をしてはいけない。そう強く思った。
そして、そうなると私のオーラも虹色なのでは?
そう思っておじい様に訊ねると、必ずしもそうとは限らないと聞き、ますます自分のオーラが何色になるのか知りたくなった。
「そのうち、オーラを操れるようにもなるじゃろう。その時を楽しみに待つんじゃな。
それはそうと、鑑定してみるからこちらにおいで、レオン。」
「はい!おじい様、よろしくお願いします!」
「どれどれ……」
私のオーラって、いつ頃現れるんだろう?何だか楽しみだな。
そんなことを思っていると、おじい様がレオンの鑑定を始めた。
レオンには一体どんな能力が隠されているんだろう?きっと犬っぽいに違いないわ!
そう思いながら、おじい様の言葉を待った。
「ふーむ。さすがじゃな。元犬という特徴がよく出ておる。」
「やっぱりそうですの?」
「まず、その嗅覚の鋭さはスキルとして活かされておるな。“ソウル・トレイサー”という珍しいスキルじゃ。
感じ取る匂いはさまざまで、感情までも匂いとしてレオンに届くじゃろう。
そして、姉であり前世での母であるリオラの叫びに駆けつける能力は、“ソウル・コール”というスキルとして身についておるようじゃ。
リオラが『助けて』と念じた瞬間、どこにいてもその場に駆けつけられるスキル。
これはレオンが神様に願ったスキルじゃな。こんなスキルは、ワシも初めて見るからのう。」
「やっぱりレオンったら…」
鑑定してもらい、レオンのスキルが分かると、私は「やっぱり」と思わずにはいられなかった。
神様が与えたスキルだというのは分かるけれど、元犬の特徴を活かしすぎじゃない?
でも、レオンが神様に願ったスキルが「私を救うこと」だったというのは、やっぱり嬉しい。
いつもは私の呼びかけに気が向いた時しか応じないことも多かったのに、こんなにも私のことを想っていてくれたなんて。
その事実は、飼い主だった私にとって最高に嬉しいことだった。
「そしてもう一つ。これも元犬の影響じゃな。
リオラが魔物と対話できる能力を持っているように、レオンにも“ビースト・ハーモニー”というスキルがあるようじゃ。
間違いなく、犬だった頃の性質から来ておるスキルじゃな。」
「へぇ!知らなかった。じゃあ、ママのスキルは何て言うの?」
「リオラの場合はスキルというより加護じゃ。“神獣の加護”と呼ばれるもので、あらゆる生き物の言葉を理解できる能力じゃ。
女神が与えた加護じゃろうな。」
「あー、そういえば転生する前に勝手にスキル選ばれてた気がする。」
「女神は自由じゃのう…まぁ、そういう訳でレオンは通常ではあり得んスキル持ちということじゃ。
あまり知られぬようにせねばならんな?」
「そうだよね…」
私が不思議に思っていたレオンの対話能力。まさかそれもスキルとして身についているとは思わなかった。
でも、よく考えたら、犬としての能力を活かすなら動物との対話は“あり”だな。
そう思いながら、私自身のスキルの名前を初めて聞き、何とも神秘的な響きに驚いた。
“神獣の加護”なんて…そんなものがあるんだ。
私、前世でそんなに動物と戯れていたっけ?と記憶を辿ってみたけれど、人並みだったような…?
それなのに、なぜ“神獣の加護”なんて特別な加護を授けてもらえたんだろう?
そんなことを考えながら、おじい様の「人に知られぬように」という言葉に深く頷いた。
私も危ない目には遭いたくないし、レオンにもそんな危険な状況に置かせたくはない。
これは、私たち家族だけの秘密にしなくちゃ。そう強く思った。
「一通りステータスの確認をしたが、やはり転生者特有の優れた状態じゃな。
じゃが、そんなことは気にせず、これからも自分たちのやりたいことをやっていけばええ。
困ったことがあれば、いつでもワシらを頼るんじゃぞ?リオラ、レオン。」
「はい!おじい様!僕はこれからもママをお護りします!
あ、姉上でした!」
「ふふっ。わたくしは記憶が戻っていない箇所が多々ありますけど、自分なりに面白おかしくやっていきますわね。
おじい様、おばあ様!改めて、これからもよろしくお願いします!」
おじい様が「気にせず学んでいけばいい」と言ってくれて、何だかとてもホッとした。
転生者というだけで、きっと利用価値のある人間として見られてしまうんじゃないかそんな不安があったけれど、私にはおじい様もおばあ様もいる。
何かあれば、すぐに手を差し伸べてくれる人たちに囲まれていることが、私にとっては最高に恵まれた環境だと思う。
それに、またレオンと一緒に人生を歩んでいけるなんて、こんなに幸せなことはないよね。
まぁ、今は犬じゃなくて人間になっちゃってるけど。
それでも、こうしてまた家族になれたことに感謝しながら、また明日から頑張っていこう。
そう思いながら、みんなで楽しくお話しながら過ごした―…。




