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第13話 偽物の笑顔、本当の痛み

「姉上、殿下は大丈夫ですか?」


「どうかしらね…。突然だったから、驚いちゃった。」


「僕はてっきり、ついに姉上がキレて殴っちゃったのかと思いました。」


「あはは、さすがにそんなことはしないでしょう?」



客間のベッドで眠る殿下を放置するわけにもいかず、仕方なく側で様子を見ていた私。

そこへレオンもやってきて、「姉上が殴ったのかと思った」と笑っていた。

さすがに殿下を殴るなんてダメでしょう?と笑い返すと、

少しだけ緊張してこわばっていた体の力が抜けて、ふうっと大きく息を吐き出した。


それにしても、殿下の体には一体何が起きているのだろう。

魔力が漏れ出しているわけではないけれど、

体の中の魔力が外に出たがって暴走している。そんな気がしてならない。

このことを、本人やその周囲は気づいているのだろうか?

まぁ、私がとやかく言うことではないから、口出しするつもりはないけれど。


そう思いながら、先ほどレオンの体に起きた異変についても思い出し、確認してみることにした。



「ねぇ、レオン。さっき怒ってくれた時、体から虹色の光が出てたじゃない?

あれって何だったの?」


「え?よく分かんない。姉上を護らなきゃって思ったら、出てたんだ。」


「へぇ。そうなのね。じゃあ、それについてもおじい様に訊いてみましょうね。」



レオンの体から溢れた虹色の光。その正体について、レオンは何も知らない様子だった。

この学院に通う生徒は、それぞれオーラの色が何種類かあると教えられていた。

でも、虹色なんて聞いたことがない気がする。

それでも、実際にレオンの体からは虹色の光が…。

いったい何なんだろう?

そう考えていると、レオンが思い出したように言った。



「あ、でも姉上が急に“おすわり”って言った時、本当に体が勝手に反応したからびっくりしちゃった。

あれは姉上の魔法ですか?」


「え?!あ、あれはその…何でしょうね?

レオンを抑えなきゃって思ったら、口走っていましたの。」


「そっかぁ。きっと姉上の“制止魔法”なのでしょうね!

姉上は魔法が上手だから!」


「そ、そうなのかしらね?」



レオンは、あの時“おすわり”と言われて体が勝手に動いたことに驚いたと言い、

それが私の魔法なのかと訊いてきた。


そんなはずもなく、ただ咄嗟に口走っただけだと伝えると、

レオンは満面の笑みで「姉上の制止魔法なんだろうね」と言った。


私が何故“おすわり”なんて言ったかなんて…理解できるわけがない。

飼い犬と名前が同じで、言う事を聞かない時にいつも"おすわり"と言っていたから思わず叫んだなんて言えるわけもなく、私は苦笑いを浮かべて、なんとか誤魔化した。



「ん…」


「あ、起きるみたいです。僕、一度部屋を出ますね。」


「ええ。ありがとう、レオン。」



レオンと話していると、殿下の体がピクリと動いた。

それを察したレオンは、私に気遣って部屋を出ていった。

別に出て行かなくてもいいんだけど。

そう思いながら殿下を覗き込むと、その瞼がゆっくりと開いた。



「リオラ…俺は…」


「中庭で倒れたんですのよ。」


「そうか…またか。すまなかった。すぐに帰るっ」


「ああっ!もうっ!勝手に起きないで!」


「…すまない。」



目を覚ました殿下は、見覚えのない天井に目線をキョロキョロと動かしていた。

中庭で倒れたことを伝えると、「すまない」と言いながら、無理やり体を起こそうとした。


けれどすぐにふらついてしまい、思わず「勝手に起きないで」ときつく言ってしまった。

殿下は力なく「すまない」と言い、再びベッドに横になった。

そんな中私は、先ほど少し気になったことを訊ねてみた。



「殿下。先ほど、“またか”とおっしゃいましたわね。

以前、療養されていたのも同じ症状でしたの?」


「…ああ。小さな頃から、いつも興奮するとこうなる。理由は分からない。」


「そう…でしたの。」


「この意味不明な病のおかげで、俺は誰からも…

王家に相応しくない“不完全な継承者”として扱われている。

俺がいることで、王族の血に“おかしな病気”が入ったとまで言われてな。」


「そんなっ…なんて言い方…!」


「おまっ…リオラとの婚約も、不完全な第二王子を最強の公爵家と結びつけることで、公爵家の強大な権力で俺の弱さをカバーするために利用するためだ。

本人にこんなことを言うのは、あれだけどな。」


「…まぁ、政略結婚とはそういうものですよね。」


「そうだな…。」



どうやら殿下は、幼少の頃からこの“病気らしき症状”と向き合ってきたらしい。

しかも、王家の人間に…身内にすら疎まれている存在だったとは、思いもしなかった。

酷い話だよね。

何の病気かも分からないから怖がるのは分かるけれど、自分の家族が苦しんでいる時に、なぜ心配しないのか。

さすが王族。

何よりも国の利益を優先して、不利益になりそうなものには容赦がない。

その無慈悲ぶりが、なんだか恐ろしいなぁ…。



「…もう大丈夫だ。今日はすまなかった。」


「いえ…。お気をつけてお帰りください。」


「ああ…」



しばらくすると、殿下の症状は落ち着いたようで、ベッドから起き上がり、

「すまなかった」と言い残して客間を後にした。


そのまま帰らせるわけにもいかず、私は一応外までお見送りをした。

馬車が見えなくなるまで見送り、ようやくホッとした気持ちで家の中へ戻った。


その後、お父様とお母様に今日あった出来事を、少し嘘も交えて説明すると、

「喧嘩はほどほどにして、きちんと殿下を支えてやりなさい」とだけ言われた。

そして、「レオンをあまり呼び出さないように」とも言われ、

私は苦笑いを浮かべながら、素直に頷いた。


自室に戻った私は、ゴロンとベッドの上に寝ころびながら大きなため息を吐いた。

今日は何だかとんでもない日になってしまったな。

不敬罪で処刑されてもおかしくないような発言をし、

殿下の病気についても知ってしまった、なんとも奇妙な一日。

そして、レオンに「おすわり」と叫んでしまい、

それに本当に反応されてしまった日。


これを“おかしな一日”と言わずして、何と言うのよね。

忘れないように、今日のことはきちんと日記に記しておこう。

そんなことを考えていた―…


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