05.
魔族の国フリューゲル。
大陸の最北端に位置し、魔族だからこそ住むことができる過酷な土地。
日常的に、人間と戦争を繰り広げている。
今の領土は、最盛期の三分の一程度。
数の暴力に押され、負け越している。
戦っている国は三ヶ所。
ミルド王国、マーヤ王国、イ・シン王国。
この三国は、神殿の信者が多く、影響が強い国でもある。
―――――
ミルド王国国境線。
現在進行形で、魔族と戦争中。
私はその上空で、姿を隠している。
魔族は個人主義が多く、故に集団戦が苦手。
対して人間は、集団戦が得意。
今最前線で戦っているのは、人間ではない。
奴隷だ。
しかも、人間以外の他種族の奴隷。
本当、ふざけた真似をしてくれる。
一人一人解放するには、時間が必要。
ならばまずは、動きを止める。
〈停止〉〈防御〉〈治癒〉
種族指定し、神術をかける。
人間には停止のみ、他の種族は全て。
魔力の糸を辿り、奴隷が誰と紐付いているのかを探す。
一、ニ、……七人。
〈圧縮〉
奴隷主七人を、圧縮で潰す。
原型を留められず、血と肉片が飛び散る。
人間たちから、悲鳴が上がる。
動けないのに、混乱して無理矢理動かそうとするから、身体中から血が吹き出している。
それを見て、さらに恐怖が広がる。
さっきまで騒がしかった戦場が、静まり返っている。
私は姿を現し、上空から降下する。
フード付きのローブを着ているから、色も顔も知られることはない。
獣人の一人に近づいて、観察する。
魔力反応は、首輪と腰…奴隷紋だろうか。
〈消失〉
首輪も奴隷紋も、纏めて消し去る。
獣人は、酷く驚いている。
これならば、一気に消すことができる。
種族指定して、再び消失の神術を使用する。
〈解除〉
人間以外にかけられた、神術を消した。
神術を消しても、誰も動こうとしない。
いや、動けない。
動けば死ぬとでも、思っていそうだ。
「首輪も奴隷紋も消した。あなたたちは、自由だ。戦う意思がない者は、投降しなさい。」
私の言葉に次々と投降し、集まり始めた。
結局、全ての人間以外の他種族が投降する事になったのだった。
「ま、待ってくれ!俺たちも投降する!」
「いや、その必要はない。お前たちは、いらない。ここで死ぬの。」
「じ、条約で、投降した者は、捕虜にすると決まっているだろう!」
「?それは、お前たち人間のルールだろう?私には関係ない事だ。それに、今まで他種族を、好き勝手に扱ってきたのだろう?ならば今度は、お前たちの番だと言うだけ。」
「い、嫌だ!死にたく……」
〈圧縮〉
この場にいる全ての人間に、神術をかける。
悲鳴を上げる暇さえなく、血と肉片が飛び散る。
かなりの人数を殺したせいか、あたりに血の匂いが充満している。
生きている者たちは、皆一様に顔色が悪く、恐怖で身を竦ませている。
「さてと。ここの魔族の、代表は誰か?」
「俺だ。バルシュミーデと言う。」
誰何すると、一人の竜人が名乗りでる。
「何処か、落ち着ける場所で、話がしたいのだけど。後、彼らの保護も。」
「わかった。砦ならば、落ち着けるだろう。案内しよう。」
「聞いた通りよ。あなたたちもいらっしゃい。悪いようにはしないわ。」
「俺は、奴隷のまとめ役だったリトヴェルクと言う。あんたに従おう。」
そうして、戦場にいた、魔族たちと多種族の者たちは、一番近い砦に移ることになった。