04.
国王陛下との謁見から、早数ヶ月。
セテラディート公爵邸は、想定通りに警備が強化された。
私にも、常に護衛がつく事になった。
母は何か喚いていたが、聞く価値がなかったので聞いていない。
この数ヶ月で変わった事、それは、父とクレア、クリスとの関係。
父は宣言通り、基本的に夜には邸に帰って来た。
夕食の前後で、必ず話し合いの時間を取るようになった。
心なしか、雰囲気が柔らかくなったと感じる。
そして、クレアとクリス。
父から二人に話をしたらしく、時々邸に帰ってくる事になった。
まだまだ距離は遠いが、少しずつ話をするようになった。
私が地上に降りて来た当初では、考えられないほどの進歩だ。
だが、良い方向に変化する毎に思う。
全て、無駄なのに、と。
彼らは、いつか知るだろう。
とっくの昔に、セレンは死んでしまったのだと。
それがいつになるかわからないが、知らないままと言うことは、ない。
そしてもう一つ。
神力を使って、広げた噂。
あれも、順調に進んでいる。
そろそろ、侵入者が来そうな感じがする。
ここ数日、外から誰かが見ている気配がする。
護衛たちは気づいていないようなので、相当な腕の持ち主かと思われる。
一体、いつ来るのかと期待しながら、今日もベッドの中で眠りにつく。
―――――
深夜。
灯りが消え、殆どの生き物が眠りにつく頃。
音も立てずに、扉が開いた。
男はベッドで眠る少女を確認し、窓を開けて、合図を送った。
念の為、眠り薬を嗅がせ、抱き上げる。
そしてまた、音を立てずに窓から外に出た。
少し離れたところに、仲間が待機している。
多少、警備が厳しくなっていたが、男たちにとっては関係がなかった。
全力でその場を離れ、取り引き現場であるスラム街に向かった。
スラム街では、不機嫌な男が一人、男たちを待っていた。
「遅かったではないか!」
「これでも急いだ。依頼は完了したんだ。文句はないだろう。」
「ちっ…確認する。」
誘拐犯は、少女をドサッと置いた。
「確かに、間違いない。ご苦労。」
「ええ、本当に、ご苦労様。」
その場に、場違いな女の声が響いた。
誘拐犯たちは、瞬時に武器を取り、警戒する。
よいしょっと、と言う声と共に、少女が服の誇りを払って起き上がった。
三人の男は、少女を凝視する。
瞼を閉じたままの少女は、警戒心がないかのような微笑みを浮かべる。
その光景に、不気味な何かを感じたのは、気のせいではない。
「ありがとう。そして、おやすみなさい。」
声が聞こえるや否や、目の前が闇に閉ざされた。
―――――
セレンは丁寧に挨拶すると、自分に血がかからないよう、一瞬で首を刈った。
「さて、これで時間が稼げるはず。」
何処から手をつけようか?
魔族、半精族、獣人族…
まずは、安全地帯の確保。
それから、奴隷の解放。
この順番でやって行こう。