51.
部屋から退出した私を、案内役の侍従が、滞在する部屋に誘導してくれた。
部屋に移動している中、考えるのは、先ほどの呪い。
病気と勘違いされるほど、巧妙に呪っていた。
なのに媒体は、特定されそうな特殊な染料とガラス。
その違和感に、気持ち悪さが感じられる。
呪いをかけた人物と、花瓶を用意した人物が、別人という事だろうか?
それとも、わざと気づかせるように?
考えても、答えは出ない。
皇帝が直々に調べるのだ。
きっと、結果はすぐに出るだろう。
私も一種の関係者だ。
何かあれば教えてもらえるだろう。
その時を待とう。
私は、答えの出ない気持ち悪さを飲み込んだ。
ーーーーー
結果が出たのは、三日後の事だった。
関係者ということで、その結果を、皇帝から教えてもらった。
あの特殊な染料とガラスは、神殿のガラスに使われているものと、同じものだった。
神殿のガラスは、専属の職人が作っている。
専属の職人に確かめたところ、一、二年前に、花瓶を作ったことがあるとの話だった。
神殿の神官の依頼だったが、誰かまでは不明。
だが、別のところから、思わぬ情報が上がってきた。
神殿の他種族の奴隷の何人かが、突然急死したのだ。
詳しく探らせたところ、呪詛返しのような症状だったとわかった。
時間の一致を考えて、皇妃の呪いに関係していると考えられている。
皇帝たちは、奴隷が神殿の花瓶に呪いをかけ、たまたまそれが献上品になったのでは、と考えている。
私は、何故その考えになったのか、疑念を抱いた。
私としては、奴隷を生贄に、花瓶を媒体にしたのだと考えている。
おそらく、犯人は神官だろう。
でもそれを、証明する術がない。
それに、他国の皇帝に反意を示すのはまずい。
女神といえど、人間の枠内で何かを成そうとすると、制限がかかってしまう。
それが、とても歯痒く思う。
この件が、他種族排斥に、追い風を与えないか心配だ。
皇妃の呪殺未遂事件は、犯人の奴隷が死んだことで、表向きの幕を閉じたのだった。
関係者に、数々の疑念を抱かせながら。
皇帝に事件のことを聞いた後、元気になった皇妃に誘われて、お茶をする事になった。
私はそこで、被害者である皇妃に、奴隷のことを聞いてみた。
「そうねぇ。奴隷が犯人という人もいれば、神官が犯人と考える人もいるわ。けれど、神殿と敵対する訳にはいかないから、こう言う決着になったのだと思うわ。」
やはり、疑問を持つものもいるようだ。
だが、追求できないほどに、神殿の権力が強い。
「確かに、他種族の排斥や奴隷に対して、思うことはあるわ。だから、皇城や良識のある貴族家では、奴隷として権利を守っている人もいるわ。人の意見は、それこそ人それぞれだから。」
皇帝や皇妃の考えは、奴隷としての権利を守る、と言う考えなのか。
あくまで、他の奴隷と同じように、と言うこと。
そこだけ見れば、人として扱っていると言えなくはない。
人間の考え方は、人間それぞれで違う。
国の考え方も、国によってちがう、と言うこと。




