50.
部屋の中に入った瞬間、ベットに意識が引き寄せられた。
お見舞いに来ていたのは、皇帝陛下と専属の医師だった。
私の到着を聞いて、こちらにやって来たのだとか。
私は、それらの話を、半分の意識で聞いていた。
どうにも、ベットの住人が気になって仕方がない。
ベットにいるのは、皇妃だろう。
ここで違うと言われたら、それはそれで驚くが。
私は断りを入れ、ベットに近づいた。
近づいてみて、はっきりとわかった。
「呪われている…。」
部屋中から、息を呑む音が聞こえる。
呪いを解くことは簡単だが、近くに呪いの媒体があるはず。
呪いの媒体を壊さないと、治療してもすぐに元通りになる。
呪いと言えど、かけるときは魔力を使う。
魔力の痕跡を辿れば、呪いの媒体に行き着く。
皇妃から出ている魔力の線を辿り、部屋の中を歩く。
私が辿った先は、見舞い用の花を生けている花瓶。
「おそらく、この花瓶が呪いの媒体かと。どういたしましょう?」
「少し待ってくれ。魔法師を呼ぶ。」
「かしこまりました。」
皇帝が誰かに命じ、魔法師を呼びに行かせた。
「だが何故、呪いだとわかった?」
「治癒魔法と鑑定魔法のおかげでしょうか。私も何となくわかっただけですので…これ以上は、何とも…。」
「そうか…。だが、皇妃の身体がよくならなかった事に説明がつく。」
皇帝は呪いに関して、心当たりがないそうだ。
正確には対象が多すぎて、一番可能性が高い人物に心当たりがない、と。
皇帝の妃なら、知らないうちに嫉妬を買っていても、不思議ではない。
皇帝の話を聞いているうちに、魔法師が到着した。
年齢の高いその人は、宮廷魔法師の筆頭だとか。
彼に花瓶を見てもらうと、確かに呪いの媒体だと言う事が証明された。
そうと思って見なければ、わからないほどの微かな形跡だった。
「誰が犯人かわかるか?」
「そこまでは…。ですが、この花瓶に使われているガラスは、普通のガラスと違うように思います。特殊な染料で着色されたガラスですね。」
「特殊な染料とガラスか…そこから炙り出せるか…?侍従長、ガラス職人に調べさせてくれ。」
「かしこまりました、陛下。」
皇帝の指示のもと、侍従長が退出した。
特殊なももだと言うのなら、すぐに犯人か関係者が引っ掛かるだろう。
私が手を出すのはここまで。
もともと、皇妃の治療のために呼ばれたのだから、治療さえすれば、あとは皇帝たちの仕事だ。
「陛下、皇妃様の治療を行っても?」
「ん?ああ、待たせたな、よろしく頼む。」
「はい。」
再び皇妃の側に近寄る。
両手を翳し、神術を発動させる。
皇妃の身体が、柔らかい光に包まれた。
しばらくすると、徐々に光は弱まり、空気に同化して消えた。
「ん…あら?私は…。」
治療が完了すると、すぐに皇妃が目を覚ました。
皇妃は、自分の周りにいる人間たちを見て、首を傾げる。
「皇妃よ、目が覚めたのだな。良かった。」
皇帝が皇妃を抱きしめ、感慨深く呟く。
部屋に漂っていた緊張も、いくらか和らいだ。
私はこの空気を壊さないように、そっと部屋から退出した。




