03.
控え室で待っていると、やって来たのは父だった。
「話は終わった。帰ろう。」
「お父様ですか?」
「……っ、ああ、そうだ。」
「お仕事は、よろしいのですか?」
「今日はもう、終わっている。」
「分かりました。」
手探りでぶつからないように、父に近づく。
「抱き上げても良いか?そのままでは、その、時間がかかる。」
「お願いします。」
父に抱き上げられ、そのまま馬車まで移動する。
父の表情を見る限りではわからないが、何か心境の変化でもあったのだろうか?
ただ、今更遅いけれど。
父の行動を、冷めた目で観察した。
父は、馬車の中でもずっと無言だった。
お互い話をしないまま、公爵邸に着いた。
馬車を降りてからも、父に抱き上げられたまま。
使用人たちが、とても驚いていることがよく分かる。
そのまま、父の執務室へ連れてこられた。
ソファに座らされ、隣に父が座ったのがわかった。
「話をしよう。今まで放っておいて、悪かったと思う。」
「どうして、ですか?」
「髪が…いや、年々我儘が強くなっていくのが見ていられなかった。」
嘘つけ。
「だってそれは…我儘を言ったら、私を見てくれるから…。」
父が、息を呑む。
身体も強張っているようだ。
「すまない、私のせいだな。これからは、今みたいに話をしよう。父として、未熟だった。すまなかった。」
何て、無駄な謝罪だろうか。
「いえ、私もたくさん困らせて、ごめんなさい。」
お互いの謝罪で、雰囲気が温かくなった。
父と私は、この時初めて、まともな会話を交わしたのだった。
父は、忙しくない時は、邸に帰ってくることを約束した。
また、出来るだけ、話をする時間を作るそうだ。
私は父の話を聞くたび、心が冷めていくのを感じていた。
だって、今更何を言ったところで、本物の娘であるセレンはもう、帰ってこないのだから。
父からすれば、今までの時間を埋めたいのだろう。
けれど、私からすれば、父との時間は、時間の無駄でしかない。
私は、親子ごっこをするために来たのではない。
最高神の命令で、この世界を監視しに来たのだ。
少しの時間も、無駄にしたくない。
きっと今もなお、神に助けを求める者たちがいる。
早くなんとかしなければ。
私は父と雑談をしながら、心の中で、どうやって状況を変えようか考えた。
自分で出て行ったところで、誘拐されたとしか考えられない。
それならいっそのこと、誘拐して貰えばいいのでは?
確か神殿は、誘拐してでも治癒師を手に入れると言う。
父も国王陛下も、その辺りのことを考えて、警備を厳しくすると言っていた。
ならば、私の噂を大袈裟に伝わるようにして、誘拐するように誘導しよう。
誘拐された後は、そこから逃げ出して、当初の目的を果たせば良い。
お金は…あれば良いが、全部神力で何とかなるから、考えなくて良いだろう。
私は、早々にこの家を離れる事に決めた。