43.
問題が起こったのは、午後の討伐が始まって、一時間ほどが経過した頃。
昼食時間は休憩時間も兼ねているので、長めに設定されている。
昼食時間が終わると、またグループごとに分かれて、森に入っていった。
私はレース編みを再開しようとしたが、思うところがあったので止めておいた。
代わりに食後の運動と称して、広場内を少し歩いた。
森の気配が近いのは、いいことね。
またテントの椅子に戻り、待機していた時だった。
森の気配が、騒がしくなる。
グレアムが緊張する。
森では静かにしないといけないのに、草の擦れる音と慌てた足音が、この広場に近づいてくる。
「た、助けてくれー!」
「ま、魔獣が!!」
森から次々と、どこかしら怪我をした生徒が駆け出てきた。
待機中の教師と騎士が、すぐに事態の把握に動く。
事情を聞いた彼らは、半数を連れて森に入っていった。
「お嬢様、離れませんよう。」
「ええ。」
グレアムが私のすぐ側に近づき、警告する。
「カロット様、まずは彼らの怪我を治しましょう。」
「は、はい!」
動けないでいる聖女候補を促し、大きな怪我をしている生徒の治療にあたる。
また新たに、大怪我をした生徒が、森から出てきた。
「お、奥に、怪我をして動けない者が!助けてくれ!」
治療しようとした聖女候補の腕を、縋るように掴んで訴える。
「わ、私、私…。」
聖女候補の視線が、森の奥と目の前の彼の間でウロウロする。
聖女候補の呼吸が荒くなり、震えが大きくなる。
彼女はこう言う事態を、経験したことがないのか。
今の彼女に、森の奥に行けというのは、酷な話だ。
私は彼女に近づき、背中を軽く叩いた。
「落ち着いて、ゆっくり深呼吸するの。吸ってー、吐いてー。もう一度、吸ってー、吐いてー。上手よ、大丈夫。」
背中をゆっくり叩きながら、彼女を落ち着かせる。
「あなたにここを任せるわ。私は森の奥に行く。出来る?」
聖女候補が、コクコクと頷く。
視線がちゃんと合っているから、大丈夫だろう。
「グレアム、そう言うことだから。護衛をお願いね。」
「はっ!」
「私が森の奥に行き、怪我人を治します。数名、付いてきてください。」
声を張り上げ、護衛を依頼する。
三人の騎士の気配が、近くに来た。
それを確認して、騎士を先頭に森の奥に向かった。




