間話3
ドルテア王国、セテラディート公爵邸。
セレンが行方不明になってから、三年もの月日が過ぎていた。
公爵家は今なお、必死に捜索を続けているが、国は捜索の規模を縮小した。
生きている希望が薄いからだ。
公爵邸は、あれからずっと暗いまま。
公爵は線が細くなり、憂いを帯びた顔のままだ。
「あれから三年…本当なら今頃、11歳になるんだな。」
セレンは疎まれていた時期が長かったため、肖像画の一つもない。
それを思い出し、公爵はまた後悔の念に駆られる。
思い出しては後悔の繰り返し。
関わりが薄かったクレア、クリスは、表面上は心を切り替えているように見える。
仲の良かったルヴィクは、部屋に籠る時間が長くなっている。
今では、外に出てくる方が珍しい。
皆んなが心配と後悔で落ち込んでいる間、いつもと変わらないのは公爵夫人だけ。
公爵夫人は、誰が居ようといまいと、自分がよければ良い。
ただ、今の暗い公爵家の雰囲気を感じて、イライラしながら過ごすことが多い。
そんなある日。
「だ、旦那様ー!手がかりが、手がかりが、見つかりました!」
「何!?本当か!?」
「紫紺の髪と空色の目を持つ、目の見えない少女が、隣国の奴隷市場にいるとの情報が!」
「すぐに向かうぞ!」
公爵は真偽を確かめるため、わずかな望みにかけて、急いで隣国に向かった。
ーーーーー
隣国セントリング王国。
世界で一番の、奴隷の生産国だ。
女子どもが一人で歩けば、すぐに攫われて奴隷にされると有名な国でもある。
男でも、よほど腕に自信がある者以外は、複数で行動することが多い。
そんな治安の最悪な国のとある奴隷市場。
檻の中に、商品として並べられている少女たち。
皆一様に、虚で諦めた目をしている。
その中に、紫紺の髪と空色の目の少女がいた。
目が見えないのか、視線が合わずにウロウロしている。
「あ、ああ…セレン、セレン…。」
少女の檻の前で、公爵が涙を流しながら、その名を呼ぶ。
少女はその声に全く反応しない。
だが、公爵はわかった。
その子がセレンだと。
「この少女を買おう。」
見るからに高貴な男性に、奴隷商はにこやかに対応する。
公爵は奴隷商が言うがままにお金を払い、その少女を買い取った。
公爵はその少女を、大切に腕に抱きながら帰路についた。
少女は公爵の腕の中で、いつの間にか意識を失っていたのだった。




