20.
エインズワースの案内で、マーヤ王国との国境に来ている。
元ミルド王国の戦いから、数ヶ月が経過していた。
当初は、マーヤ王国も大人しくしていたそうだ。
時間が経って、魔族側が攻め込んでこないと知ると、途端にちょっかいを出してくるようになったのだとか。
流石にそろそろ鬱陶しくなってきたため、私を呼びにきたと言うことらしい。
私としては、もう少し早くきてくれても良かったのだが。
おかげで、魔族の国を観光できたし、良い休暇を過ごすことができた。
けれど、そろそろ本腰を入れて、マーヤ王国を攻略しよう。
足がけとなるのは、コラン砦。
マーヤ王国側の、最前線の砦である。
攻略にちょうど良いものを、仲良くなった魔女のグリューネから貰っている。
「今回は、毒で行こうと思うの。」
「毒ですか?」
「そう。作戦はこうよ。」
グリューネから貰った毒は、人間にのみ作用する。
潜入が得意な魔族が、普段砦の人間が利用する井戸に毒を入れる。
私が、奴隷紋と首輪を消す。
毒にあたっている間に、砦を攻略する。
内側から攻略するのに、他種族に協力してもらう。
彼らも、報復の機会が欲しいだろうから。
魔族の部隊は、外からの援護と終わった後の保護。
「こんな感じでどうかしら?」
「了解しました。それでいきましょう。決行はいつに?」
「次にマーヤ王国側が攻めてきたら、そこに魔族側を紛れさせるわ。」
「了解!」
ーーーーー
三日後、マーヤ王国が攻めてきた。
今回の戦いは、できるだけ致命傷を負わないように、相手を痛めつけて、追い返すのが目的。
深追いはしない。
その戦場の混乱を用いいて、魔族側の間者を数名紛れ込ませる。
合図が来た。
潜り込むのは、成功したようだ。
じゃあ、私も少しだけ助力しよう。
〈光槍〉
敵に当たるか当たらないかの、ギリギリを攻めて撃ち込む。
敵が、撤退を始めた。
こちらも合図を送って、撤退させる。
「首尾はどう?」
「問題なく。今の所、バレてはいません。」
「そう。では次の合図を待ちましょう。」
「はい。」
半日ほど過ぎた、夜の事。
砦にいる味方から、合図が来た。
私は、不可視の神術で姿を隠し、転移で砦に跳んだ。
そこかしこで、苦しそうなうめき声が聞こえる。
毒は、よく効いたようだ。
毒の効いていない人、他種族を探そう。
〈毒感知〉
部屋は二ヶ所。
一部屋に50人ずつ、押し込まれている。
まずは一ヶ所目に跳ぶ。
「静かに。私は魔族側の者よ。助けに来た。今、奴隷紋と首輪を消すわね。」
〈消失〉
手応えを感じた。
これで解除できているだろう。
「ここの代表格は誰?」
「俺だ。ローヴァインと言う。助けてくれてありがとう。」
獅子の獣人が名乗り出る。
「協力して欲しいのだけど、動ける?」
「何をする?」
「報復よ。人間を一人も残らず殺すこと。出来る?」
「願ってもいない事だな。」
ローヴァインがニヤリと笑うと、他の獣人たちの大きく首を縦に振った。
「じゃあよろしく。私はもう一つの部屋に行って、奴隷を解放してくる。」
「おう!」
ローヴァインたちに、くれぐれも無茶をしないようにだけ釘を刺した。
私は、二ヶ所目の部屋に転移した。