19.
ミルド王国王都 陥落
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その知らせは、魔族からもたらされた物だった。
ミルド王国の主要な領地に、突如響いた声。
その声に誰もが足を止め、聞き入った。
信じられなかった。
だが、同時に映像を流され、嫌でも信じざるおえなかった。
ある領ちの民は、家を捨てて国から逃げ出した。
また別の領地の民は、領主の命を差し出し、助命を願った。
逃げる者、領主を差し出す者、絶望で自害する者…。
ミルド王国中が、前代未聞の大混乱が起こった。
魔族は、逃げる者は見逃し、助命を求める者は全て殺した。
その情報が流れるや否や、国民たちは全てを投げ出して、只々逃げた。
そして混乱したのは、ミルド王国だけではない。
ミルド王国から逃げ出した者が、各国に傾れ込んだのだ。
現地民と亡命者の衝突は、様々な場所で起こった。
国によっては、亡命者を国内に入れず、追い出す所もあった。
そして、逃げてきた者たちから、もたらされた情報は、各国を恐怖に叩き込んだ。
国の上層部は、次は我が国かもしれないと、慌てて軍備を整えた。
国は、正しく魔族の脅威を知ったのだ。
魔族の脅威は世界中に電波し、遠い国々にも伝わる事になった。
そしてそれは、聖ロベスタ公国も例外ではなかった。
聖ロベスタ公国。
唯一神クロトアを信仰する、各国にある神殿の総本山。
魔族と他種族を悪とするなら、反対の絶対なる正義。
また、魔族と他種族の排斥を、率先して訴えている国だ。
彼らにとって今回の魔族侵攻は、許せるものではない。
彼らが重い腰を上げるのは、そう遠くない未来。
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ミルド王国の残党を掃討し、国境に結界を張り、一部を守護のために置いて、魔王城に戻ってきた。
おそらく、ミルド国の一部は緩衝地帯としておいておき、残りを領土として用いるのだろう。
バルシュミーデたちは、再開発に精を出す事になりそうだ。
一方私は、新たな戦線に向かうつもりである。
何処の戦線に参加するかは、魔王の采配になるだろう。
今回の報告とともに、次の戦線を尋ねるつもり。
そのために、一旦、魔王城に来ていた。
「バルシュミーデ、女神殿、此度のことはご苦労だった。こちら側はほとんど犠牲なく完全勝利をしたと聞いている。バルシュミーデ、其方はミルドの地の再開発と統治を任せる。励めよ。」
「はっ!」
「魔王様、次の戦線は決まっている?」
「ああ。次はマーヤ王国だ。エインズワース、頼んだぞ。」
「はっ!エインズワース、種族は淫魔。よろしくお願いします、女神殿。」
「こちらこそ。お世話になるわ。」
「いえいえ、頼りにしています。」
「次も期待しているぞ、女神殿。」
「ふふ、期待に答えられると思うわ。」
私は、エインズワースと共に謁見室を出た。
エインズワースと並んで歩きながら、彼からマーヤ王国のことについて聞いていた。
マーヤ王国。
元ミルド王国の隣国で、自然に囲まれた国。
国交があるのは、元ミルド王国ともう一つの隣国であるイ・シン王国のみ。
特段目立った特徴はないが、三国の中でも一番、聖ロベスタ公国から奴隷を買い入れている国。
奴隷ばかりが戦線に来るので、手をこまねいている状況だとか。
「今は元ミルド王国の件があって、攻撃は止んでいます。先の戦いからあまり休んでいないでしょう?今は休戦中なので、少し休憩してください。」
「わかったわ。お気遣いありがとう。そうさせてもらうわ。」
私は、エインズワースが迎えに来るまで、ここでしばしの休息を取るのだった。