18.
私たちは上空から、王都を見下ろしていた。
飛べない魔族は、飛べる魔族に運んでもらっている。
今回は上空から降下して、一気に内部へ攻め込むつもりだ。
そして王都の外に逃げられないように、結界を張る。
奴隷を連れて逃げられたら困るし、王族は隠し通路とかで逃げそうだからだ。
現在、王都には人間が張った防御結界がある。
だが、これは特に支障にはならない。
とても脆いので、一点集中で攻撃を当てれば、簡単に破れる。
王都の守備は、通常より強くなっている。
観察していると、どこもかしこも兵士が配置されている。
予想の通り、アインス侯爵領とドラフ伯爵領の陥落は、既に報告が上がっているようだ。
奴隷も何人か見かけた。
やはり王都にも、多種族の奴隷がいるようだ。
奴隷がいる間は地上戦だが、解放した後は、一気に上空から魔法を降らしてもらう。
王都の戦力は、だいたい把握した。
さて、そろそろ始めようか。
ーーーーー
バキッ パリンッ
頭上から、何かが壊れる音がした。
王都の民は何事かと、皆、空を見上げた。
そこにいたのは、青い空を背負った異形、魔族だ。
それを認識した途端、王都中が混乱と恐怖が支配した。
誰もが、我先にと逃げようとする。
そんな王都に、魔族たちが降り立つ。
逃げまとう人を、次々と殺していく。
平和な王都は、瞬時に戦場となった。
兵士たちには、事前に警告があった。
魔族が来るかもしれないため、警戒を怠るな、と。
兵士たちは、半信半疑だった。
今まで、魔族を見たことがなかったからだ。
だが、今、それが現実になった。
兵士たちは隊列を作り、王都民を守るために、魔族に対峙した。
だが、いくら剣を振っても当たらない。
魔法を放っても、傷ひとつつかない。
初めて、魔族の強さと真の恐ろしさを、実感したのだ。
そしてそれは、王都だけの話ではなかった。
王城に侵入してきた魔族。
魔族の一振りで、紙のように切り裂かれ、吹っ飛んでいく仲間たち。
王城に待機しているのは、王国の中でも有数の実力者。
精鋭だったはずの彼らは、手も足も出ないまま、ただ殺されていくのみ。
国の中枢にいる者たちは、想像以上の戦力差に、もはや敗北を悟った。
この国に、未来はない。
民を、兵士たちを犠牲に、生き延びる。
彼らが考えていたのは、もはやそれだけだった。
「なっ!何故出れない!?まさか、閉じ込められたのか!?」
「嫌ー!出して!」
「死にたくない、死にたくない!」
王族も貴族も国民も兵士も、戦う気力がなくなってしまった。
圧倒的な力に、逃げるしか手段がないと思ったのだ。
だが、それを嘲笑うかのように、王都から出られなくなってしまった。
透明な壁が、結界が、外に出るのを拒んでいるからだ。
唯一、逃げるという希望が、目の前で絶たれた瞬間だった。
どこにも逃げ場はない。
前は結界の壁、後ろは魔族。
自分の運命を悟った人間は、少なくなかった。
「こんな…こんな事って…。」
「魔族なんかに、手を出さなければ…。」
「ああ、神様…どうして…。」
自分を恨み、他者を憎み、神を非難する。
そんな呟きは、殺戮の中で、誰にも届かずに消えていった。