01.
手の指先に力を入れる、動いた。
足の指先に力を入れる、動いた。
瞼をゆっくりと開けて、天井を見る……見えない。
光を感じるのに、景色が目に映らない。
ゆっくりと体を起こす、動いた。
記憶をインストール。
うん、理解した。
私の名前は、セレン・セテラディート。
現在6歳。
セテラディート公爵家次女。
母親そっくりな性格なため、周りに嫌われている。
いつものように癇癪を起こして、誤って階段から落ちた。
それが原因で、死んでしまった。
魂が身体を離れた後、私が入ったことで、再び身体が機能した。
けれど、何かしらの不具合で、目が見えなくなった、と。
セレンの記憶を遡っていると、彼女の癇癪には、理由があることがわかる。
髪の色が、父とも母とも違うのだ。
そのことで父から避けられ、母には八つ当たりされ、使用人には遠巻きにされた。
愛してもらおうと、自分を見てもらおうとした結果が、あの癇癪に繋がった。
そのことに誰も気付かず、母があんなのだから娘も同じ、とされてきた。
そして誰にも気付かれず、死んでしまった哀れな子。
血縁、家族でさえ、こうなのだから、人間とは救いようがないわ。
さて、これからどう動くべきかしら。
まずは、哀れな子の報復でもしようかしら?
私は、セラフィレーネ・リオーラ・アシュラン・フォルト。
裁定と恩恵と報復の女神。
この身体を使わせてもらうのだから、何かしらのお礼は必要よね?
彼女の思いが、報われるようにしよう。
私は、ベッドサイドにある呼び鈴を、わざと落とした。
すぐに侍女がやって来た。
気配が怯えている。
まあ、過去の記憶を見れば、仕方がないと思う事にする。
「ねぇ、ここは何処?真っ暗で何も見えないわ。」
「え?…すぐに、お医者様をお呼びします!」
バタバタと足音を立てて、走って行った。
今度は、複数の足音が響く。
音の反響、気配、魔力、体温で、問題なく空間の把握は出来た。
これなら目が見えなくても、問題はない。
でも、完璧に把握していると知られるのは良くないから、ある程度はわからない振りをしよう。
「お嬢様、失礼します。」
急に近くで聞こえた声に、ビクッとする。
「お嬢様、何本の指が見えますか?」
「…わからないわ。見えない、どうして…?」
「おそらく、頭を打った拍子に、視覚に関する器官が壊れたのでしょう。」
「そんな…。」
侍女たちが、絶句している様子。
多方、聞こえないと思っているのか、陰口が囁かれている。
使用人の質が、良くないわね。
私の部下なら、こんな分かりやすい事はしないわ。
医者からは、しばらく安静にする様に言われたので、大人しく、ベッドで横になる。
使用人は、誰も心配しようとせず、さらに厄介になったと言わんばかりの態度。
上が上なら、下も下か。
最高神からの仕事は、最初から前途多難になりそうな予感がした。




