17.
街を焼いている赤い炎が、夜空を昼のように明るく照らす。
作戦が終了した時点で、畑の幻影は消しておいた。
畑を本当に焼かずに残したのは、私たちにも食糧が必要だからだ。
保護する人数が増えれば増えるほど、場所も食糧も多く必要になる。
それなら、ある物を有効活用すればいい。
だから、幻影で済ませた。
人間の死体は燃やす。
多種族は頑丈とはいえ、無敵ではない。
怪我をすることもあれば、病気にかかる事もある。
死体を放置すれば、疫病が流行る可能性がある。
その可能性を潰すために、全て燃やしている。
ここには食糧、その他がある。
数日はここで身体を休め、英気を養う。
一旦砦に戻ってもいいが、砦から王都に行くのは手間になる。
ここで数日休憩し、そのまま王都に向かう方が効率がいい。
私は、ここで安心して休めるように、人避けと幻影の結界を張っている。
他所の街から、人が来ても困るからだ。
そしてもう一つ。
王都の上層部にのみ、ドラフ伯爵領陥落の知らせを送っておいた。
これが、新たな火種になればいい。
連続の、大規模な神術の行使に、皆んなに心配された。
だが、見た目は人間とはいえ、私は女神だ。
多少制限があるとはいえ、この程度は労力ではない。
心配は無用である事を伝えると、一様に何とも言えない表情をされたが、あれは何だったのだろうか。
まあ、休憩といっても、ここには娯楽がない。
飲んで、喋って、食べて、寝るくらいしかやる事がない。
けれど、皆の士気は高い。
これほどの勝利は、経験したことがないからだそう。
皆んな笑顔で、私も嬉しい。
皆んなと共に、一時の休憩を楽しんだ。
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ミルド王国王都。
国を動かす中枢にいる者たちにとって、その知らせは激震を走らせるものだった。
アインス侯爵領、ドラフ伯爵領 陥落
生存者 0
「まさか魔族が、ここまで早く動くとは。」
「重要なのは、そこではないだろう。引き篭もりの、突撃しか脳のない魔族が、兵が多い重要な領を落とした事だ!」
「どんどん王都に近づいている。」
「静まれ!」
口々に言い合っていた諸侯を、ミルド国王は黙らせた。
「王都の守備を固め、監視を強化せよ。それから、アインス侯爵領とドラフ伯爵領に偵察隊を送れ。少しでも魔族の情報を集めるのだ。」
「「「御意!!」」」
会議が終わった後、ミルド国王はただ一人、物思いに耽っていた。
魔族の動きが変わった事に、疑問を抱く。
何かが、起きようとしている。
世界を巻き込む、何かが。
その流れに、我が国は既に巻き込まれているのではないかと、不安を拭えなかった。