16.
街中が、俄かに騒がしくなる。
数名は領主の元へ報告に走り、残りの街人は家にいる人にも声をかけて、消火のために走っていった。
「消火を急げ!手の空いてるやつは、全員手伝え!」
突然のことで固まっていた人たちも、怒鳴り声のような指示に、慌てて動き出す。
消火のために街の外に出た人が見た光景は、想像を絶するものだった。
見る限り、一面の炎。
まるで炎の海が広がっているかのよう。
水を掛けても掛けても、一時の消火にすらならない。
人手を大勢使っているのに、全く歯が立たない。
カラン……
「無理だ…こんなの…」
「あ、あ、あ…」
一人、また一人と、手を、足を止めていく。
何度やっても、少しの衰えもしない炎に、天災を前にしたかのように、膝をつき、崩れ落ちる。
神の慈悲などなかったと思わせる光景である。
それは、街人も兵士も領主も同じだった。
人の無力さを、思い知った瞬間だった。
「殲滅しろ。」
空から声が降る。
だが、誰もその声を聞くことが出来なかった。
目の前の光景が衝撃すぎて、耳に入ってこなかったのだ。
ベチャッ
隣で音がする。
頬に水が飛んできた。
雨だろうかと空を見ると、無数の影が頭上にあった。
ベチャッ
また、あの音と水。
水は横から飛んできていた。
隣を見ると、血が噴き出す首のない身体。
何だろうか、これは。
理解ができない。
自分たちの周りで、首のない身体が増えていく。
それを見ながら、意識を失った。
ーーーーー
燃えている光景を、呆然と見つめる人間。
先程まで必死に消火しようとしていたが、消化ができないと理解すると、絶望に打ちひしがれた。
それを見ながら、全部隊に合図を送る。
「殲滅しろ。」
私の言葉と共に、飛び出す魔族。
消火で混乱している間に、多種族の奴隷は保護しておいた。
ここにいるのは人間と、私たち魔族側だけ。
地上から、上空から、人間を殲滅していく。
消えない炎から立ち直れていない人間たちは、少しの抵抗もなく死んでいく。
殺されたことすらも知らずに、死んでいく。
私はそれを、冷めた目で上空から見つめていた。
何て人間は弱いのだろうか?
こんなもののために、たくさんの命は失われたのか。
魔族の襲撃に気づいた人もいたが、動き出すには遅過ぎた。
碌な抵抗も反撃も出来ず、ただ殺されていくのみ。
もうすぐ、ここも攻略が終わるだろう。
次は、ミルド王国王都。
ミルド王国の中心地。
そこを攻略できれば、この国は終わるだろう。
そして知るのだ。
もう既に、首元に刃を突きつけられている事に。