15.
アインス侯爵領を攻略後、私たちは休む間もなく、ドラフ伯爵領に向かっていた。
馬で急いで移動したとしても、アインス侯爵領からドラフ伯爵領まで四日はかかる。
しかし、魔族の足なら、二日足らずで到着する。
何故こんなに急いでいるのかというと、アインス侯爵領攻略が知られる前に、ドラフ伯爵領を落としておきたいからだ。
アインス侯爵領の事が知られると、ミルド王国の重要な領地を狙っていると思われ、警戒されるからである。
実際、重要な領地を狙っているのだが。
警戒心が上がれば、それだけ攻略に時間がかかってしまう。
今回は、速度重視で行きたいので、急いで移動していると言う訳。
ドラフ伯爵領は、ミルド王国の食糧庫。
つまり、ミルド王国一の穀倉地帯を有している領である。
ここを潰すことができれば、王都に食糧物資が届かず、国民は飢えるだろう。
まあ、今回は兵糧攻めが目的ではない。
食糧危機を招いて、王都民を混乱させるのが目的だ。
まあ、今は王都は置いておいて、ドラフ伯爵領だ。
「で、今回はどんな作戦で行く?」
「食糧である畑を燃やす……フリをする。」
「ふり?」
「正確には、幻影を用いて、食糧が燃えているように見せて、反抗の心を折る。人間を殺すことに変わりはないが、心が折れれば反撃が少なくなる。つまり、時間も怪我も少なく済むと言うことね。」
「……(敵ながら、気の毒な)」
「どうかした?」
「いや、何でもない。」
「決行は、日が暮れてから。その方が、火がよく目立つからね。それまでの数時間、十分に休憩を取っておいて。始まれば、攻略まで一気に叩くよ。」
「「「了解!!」」」
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陽が傾き、今日も各々の仕事が終わった頃。
酒場や宿屋は、これからがほんばんである時刻。
「今日も一日終わったな〜。」
「最近は涼しくなってきたから、畑仕事も楽でいい。」
「一杯やっていくか?」
「今日はカミさんから、早く帰れって言われてんだ。また今度な。」
「残念だ。じゃあまた今度…?」
「どうした?」
仕事の相方が、不自然に言葉を途切れさせたのを見て、もう一人が首を傾げる。
「あれ見ろ、空が赤い?」
「そりゃ、日暮れなんだから、当然だろ。」
「馬鹿言ってんじゃねぇ。そんな赤さじゃねぇだろ。あれ、燃えてんじゃねぇか?」
「はあ!?」
他にも気がついた人がいるのか、赤い空を指差して騒めく。
そこに、慌てたように駆けてくる若者。
「も、燃えてる!!畑が全部、燃えてるんだよ!!誰か領主様に知らせろ!!!」
息を切らせて話した言葉に、誰もが凍りつく。
それは当然。
ここが燃やされれば、冬の食糧がなくなる事。
つまり、冬に餓死する事と同義であるのだから。