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ネメシスの天秤  作者: 氷桜 零
魔族侵攻編
16/25

14.


ミルド王国アインス侯爵領のとある街。

この領では今、様々な噂が飛び交っていた。


「鉱山が、そろそろ尽きそうだって。」


「魔族が攻めてくるんだって。」


「ここじゃなくて、三つ隣の街を攻めたって聞いたぞ。」


「え?魔族に勝ったんでしょ?」


「軍の人が横領してたんだってよ。俺たちから取ったお金だってのに。」


「武器を他所に売ってたらしい。」


「バレて逃げ出したとか。」


「いやいや、領主様に殺されたんだろ。」


街の皆んなは、有る事無い事、好き勝手に話し始める。

そうして、次の人に広めていくのだ。

皆んな、自分たちに直接関係ない噂は、街の良い娯楽だった。


どうしてそんな噂が出たのか、真偽はどうなのかなんて、誰も気にしない。

面白かったら、楽しかったら、それで良いのだ。


その噂の真の意味に、全く気づかずに。


ーーーーー


アインス侯爵は、自身の執務室で、頭を抱えて唸っていた。

軍に所属していた数名が、大量の武器を売り払っていたのだ。

そして、売ったお金を着服していた。

それがバレそうになった彼らが、奴隷を全員連れて街から逃げてしまったのだ。

慌てて追跡したが、全てが手遅れだった。


武器は、他の領や王都の騎士団からも、沢山の注文を受けていた。

今更無くなったでは済まない。

 

ただでさえ今は、魔族との戦いが激化しているのだ。

どの領地も武器や戦力を揃えておきたいだろう。

問題が次々に起こっていて、本当にどうしたら良いのだろうか。


「まずは王都に連絡して…。」


ドオオオオンーーーー


「な、何事だ!?」

 

「だ、旦那様!敵襲です!魔族が、魔族が、街に侵入してきました!」


「はあ!?どうなっている!?ここは襲われないのではなかったのか!?」


「現在、軍と交戦中!ですが、すでに街中に入り込まれております!」


「何が、一体、何が起こっているのだ…す、すぐに逃げなければ…。」


「逃げるったぁ何処にだぁ?」


いつの間にか、近くにいた側近が見当たらない。

そんなことも気がつかずに、領主は頭を抱えながら、独り言を呟き続けていた。

そんな領主の独り言を、遮る聞き覚えのない声。

恐る恐る領主が顔を上げると、ツノと鱗の生えた男バルシュミーデがいた。


「ま、魔族…」


「お前が、ここの領主だな。ここは魔族が占拠させてもらう。」


「ひぃ…わ、わかった。降伏する!だ、だから、命だけは…。」


「悪いが、降伏は受け付けていない。そして、一人として、人間を生かすつもりはない。じゃあな、領主様。恨むなら、神を敵に回した、自分たちを恨むんだな。」


バルシュミーデは一切の慈悲もなく、領主を斬った。

部屋には、領主の悲鳴だけが虚しく響いていた。


バルシュミーデは窓の外を見る。

外は血が飛び散り、煙が至る所で上がっている。


街中、阿鼻叫喚。

魔族と戦争をしている事は知っていた。

だが、それが我が身に降りかかるとは、誰一人思っていなかった。

必ず来ると、信じて疑わなかった明日。

ただ退屈で、面白みのない日常。

それはもう、叶わぬ儚い夢でしかなかった。



アインス侯爵領 攻略。


王都に、アインス侯爵領が落ちたと報告が入ったのは、その十日後の事であった。




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