表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネメシスの天秤  作者: 氷桜 零
魔族侵攻編
14/26

12.


人間の国の事情などつゆ知らず、魔族側の砦では、歓声に沸いて宴に突入していた。

この戦争が始まって以来の、大勝利だからである。

それも、死亡者がいないと言う快挙だった。

これまで、人間から受けていた苦渋を、何倍にもして返せたのである。


保護された多種族も、もう奴隷にされる事はないとわかって、笑顔で涙を流していた。


「で、主役の一人である女神さんは、ここで何してんだ?」


二人分の飲み物を持ってきたリトヴェルクは、その一つを私に手渡してくれた。


「女神だけど、見た目は丸っ切り人間だもの。この姿に恐怖を感じる者もいるはずよ。この雰囲気に、それは無粋じゃない?」


私は賑やかな輪を眺めながら、微笑んだ。

 

これが、私の本来見たかった光景。

この先も、この光景を絶やしてはならない。

 

この世界に暮らす彼らが、この世界に生まれて良かったと、そう思ってくれたら何よりも嬉しく思う。

絶望と恐怖と諦めを、この世界に対する憎悪を、その目に宿してほしくない。

 

そのために、私は、この世界に降り立ったのだから。


「私は彼らが、あなたたちが笑っている。この世界に希望を持ってくれている。それだけで、十分よ。」


「人間に対する冷徹さと違いすぎて、慣れないな。」


「あら、私は裁定と恩恵と報復の女神よ。それに神界でも、私の裏表の激しさは有名だったわ。」


「そうかい。」


リトヴェルクが苦笑いで返した。


「おお、ここにいたのか。」


リトヴェルクと話をしていると、バルシュミーデがやって来た。


「今回は本当に助かった。」


「今回だけではないわ。これからも、よ。これは、まだ始まりでしかないもの。ここから始まるの。」


「そうさな。まあでも、今はこの喜びを噛み締めておくかな。」


私は、リトヴェルク、バルシュミーデと共に、輪から少し離れた場所で、宴に興じる彼らを見守った。




―――――


結局、あの宴は明け方近くまで続いた。

流石に付き合いきれないので、深夜を回ることには、私は部屋に戻った。

リトヴェルクとバルシュミーデは、私が戻る少し前に、宴の輪に突撃して行った。

もしかしたら、最後まで参加したのかもしれない。


宴が明け方まで続いたので、今朝の砦は静かだ。

まだみんな、夢の中なのだろう。

私は、静かな砦の中を、朝特有の澄んだ空気を感じながら、散歩している。

たまに、そこらの廊下で寝ている兵士がいるのを見つけた。

魔族も獣人も、皆んな頑丈だから、風邪は引かないだろうから放置。


私は砦の最上階で、国境を眺めた。

いずれここは、国境の砦ではなくなるだろう。

保護する人数が増えれば、場所が必要になる。

彼らの安心できる場所を作ろう。

私は、改めてそう、決意した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ