12.
人間の国の事情などつゆ知らず、魔族側の砦では、歓声に沸いて宴に突入していた。
この戦争が始まって以来の、大勝利だからである。
それも、死亡者がいないと言う快挙だった。
これまで、人間から受けていた苦渋を、何倍にもして返せたのである。
保護された多種族も、もう奴隷にされる事はないとわかって、笑顔で涙を流していた。
「で、主役の一人である女神さんは、ここで何してんだ?」
二人分の飲み物を持ってきたリトヴェルクは、その一つを私に手渡してくれた。
「女神だけど、見た目は丸っ切り人間だもの。この姿に恐怖を感じる者もいるはずよ。この雰囲気に、それは無粋じゃない?」
私は賑やかな輪を眺めながら、微笑んだ。
これが、私の本来見たかった光景。
この先も、この光景を絶やしてはならない。
この世界に暮らす彼らが、この世界に生まれて良かったと、そう思ってくれたら何よりも嬉しく思う。
絶望と恐怖と諦めを、この世界に対する憎悪を、その目に宿してほしくない。
そのために、私は、この世界に降り立ったのだから。
「私は彼らが、あなたたちが笑っている。この世界に希望を持ってくれている。それだけで、十分よ。」
「人間に対する冷徹さと違いすぎて、慣れないな。」
「あら、私は裁定と恩恵と報復の女神よ。それに神界でも、私の裏表の激しさは有名だったわ。」
「そうかい。」
リトヴェルクが苦笑いで返した。
「おお、ここにいたのか。」
リトヴェルクと話をしていると、バルシュミーデがやって来た。
「今回は本当に助かった。」
「今回だけではないわ。これからも、よ。これは、まだ始まりでしかないもの。ここから始まるの。」
「そうさな。まあでも、今はこの喜びを噛み締めておくかな。」
私は、リトヴェルク、バルシュミーデと共に、輪から少し離れた場所で、宴に興じる彼らを見守った。
―――――
結局、あの宴は明け方近くまで続いた。
流石に付き合いきれないので、深夜を回ることには、私は部屋に戻った。
リトヴェルクとバルシュミーデは、私が戻る少し前に、宴の輪に突撃して行った。
もしかしたら、最後まで参加したのかもしれない。
宴が明け方まで続いたので、今朝の砦は静かだ。
まだみんな、夢の中なのだろう。
私は、静かな砦の中を、朝特有の澄んだ空気を感じながら、散歩している。
たまに、そこらの廊下で寝ている兵士がいるのを見つけた。
魔族も獣人も、皆んな頑丈だから、風邪は引かないだろうから放置。
私は砦の最上階で、国境を眺めた。
いずれここは、国境の砦ではなくなるだろう。
保護する人数が増えれば、場所が必要になる。
彼らの安心できる場所を作ろう。
私は、改めてそう、決意した。