11.
砦中から火の手が上がり、怒号と悲鳴が響き渡る。
最前線は、いつも奴隷を使っていたため、彼らは魔族とまともに戦ったことがなかったのだ。
そして、魔族は引きこもってばかりの臆病者として、攻勢に出る事はないと、たかを括っていた。
それが、突然の、砦への奇襲。
誰もが想像しておらず、混乱していた。
それがまた、戦況を不利に追い込んだ。
だが、彼らにはまだ自信があった。
いつものように奴隷を使えばいいと。
それがまた、取り返しのつかない油断に繋がった。
奴隷を収容している場所に駆け込み、奴隷に戦うように命じる。
そのはず、だった。
どこの収容部屋も、もぬけの殻。
奴隷たちの姿が、誰一人として見つからない。
そうこうしているうちに、魔族たちの攻勢は強くなるばかり。
奴隷に任せっきりにしていた兵士たちは、まともに戦って相手どれる者などいない。
「くそっ!どうなっているんだ!応援は!?」
「通信設備が、すべて壊されています!」
「一体、何が…。どうすれば…。」
遅かれ早かれ、この砦は落ちるだろう。
それならば…。
「降伏だ!降伏の使者を送れ!」
砦の司令官は、降伏を選んだ。
敗北は見るからにわかる。
ならば、生き残るのが、唯一の道。
そう、考えた。
だが……。
「あーあー。人間の皆さん、降伏は認めません。全て皆殺しです。なので無駄なことはしないように。苦しみたくないのなら、抵抗せずに殺されてください、以上!」
何処からか、砦中に女の声が降ってきた。
その内容は、実にシンプルで、彼らにとって、希望が絶たれた瞬間だった。
人間たちはそれを聞いて、絶望に膝をついた。
一部は気が触れたように、笑いながら砦から飛び降りた。
また別の者は、一矢報いると言わんばかりに、無茶苦茶な突撃をする始末。
「神よ!どうか敬虔なる我らを、お救いください。」
「助けてください、神様!」
口々に神に祈りを捧げる。
奇跡が起きて、神が自分たちを救ってくれるのだと信じて。
しかし、彼らが祈る神は虚像。
人間たちが造った、人間にとって都合のいい神。
それが、彼らの信じる神だ。
そして、本物の神は、人間を見捨てた。
むしろ、神が、この状況を望んでいるのだ。
まあそれは、人間には知る由もないのだが。
全ては、人間の行いのせい。
いわば自業自得。
因果応報。
この状況を見守っている女神は、その名の通り、慈愛の微笑みを浮かべて、上空から人間がしんでいくのを見守っていたのだった。
これは、女神の裁定。
人間はただ、その結果を受け入れるしかないのだ。
―――――
ミルド王国会議室。
「何!?ジュノ砦が、全滅だと!?どういうことだ!?」
「それが、砦と連絡がつかないので、確認の部隊を送ったところ、砦が崩壊しており、生存者はいない、とのことです。おそらく、敵は魔族かと。」
知らせを持ってきた兵士は、青い顔で報告をしている。
その報告内容に、会議室の面々、国の上層部は黙りこくるしかなかった。
国の上層部も、よもや魔族が攻勢に出ると思っていなかったのである。
ミルド王国は、聖ロベスタ公国を通して、全ての国に警告を発した。
魔族が、我々人間の国を滅すために、侵攻してきた、と。
その報告は、全ての国の上層部を、混乱と恐怖の渦に巻き込んだのだった。