10.
作戦決行日、深夜。
砦の灯りが小さくなり、辺りが虫の声が聞こえるほど静かになった頃、私と第四部隊は、密かに砦に侵入していた。
第四部隊は、隠密行動が得意な部隊。
灯りがなくても、自由に暗闇の中を動き回れる。
私以外は、二人一組で行動する。
目標は、奴隷の発見と解放。
奴隷が見つかれば、私の所に合図が来る。
リトヴェルクから、分かる範囲で砦の構造を聞いている。
そして、奴隷がいそうな場所も。
私は今、一番奴隷がいる確率が高い場所に、来ている。
日当たりがなく、ジメジメした地下。
音を立てずに、入り込む。
血の匂い、汚物の匂い…。
色々な匂いが混じった、環境の悪い場所。
そこに、彼らはいた。
できるだけ身体を縮め、丸くなって寝ている。
怪我や病気をしている者もいるようだが、治療も手当もっしてもらえていない。
彼らの身体はろくに食べていないのか、痩せ細ってガリガリである。
本当に酷い環境だ。
まずは、音が漏れないように、空間を隔離する。
気配に敏感な一部が、目を覚まして警戒する。
「こんばんは、初めまして。私は魔族側の者よ。今からあなたたちの首輪と奴隷紋を消すわ。静かにね。」
流石に私が言葉を発すれば、全員が目を覚ました。
私の言葉を理解すると、困惑した表情で、仲間と顔を見合わせている。
彼らが落ち着くまで待っていたいけれど、そんな時間はないので、さっさと行動に移す。
〈消失〉
首輪と奴隷紋がなくなると、彼らは自分の身体を触って、何度も確認している。
声もなく、涙を流している者もいる。
「今から全員を、魔族領に送ります。そこには、先に保護された者たちがいるから、安心してちょうだい。」
〈転移〉
これでまず一ヶ所、完了。
万が一のことを考えて、幻影で奴隷がいるように見えるようにしておく。
明け方まで、保てればいい。
次は、魔族から連絡が来た場所へ向かった。
二ヶ所目。
一ヶ所めとそう変わらない、環境の悪さ。
一ヶ所目と同様に対処する。
その晩、合計四ヶ所の奴隷を解放した。
最後に、漏れがないかもう一度確認する。
そして、バルシュミーデに、任務完了の合図を送った。
第四部隊には引き続き、砦内に潜伏してもらっている。
私は戦況を確認できるように、見えにように姿を隠しながら、上空に待機している。
もうすぐ、夜明け。
戦闘、開始ね。
後に、この日の出来事は、魔族側の最初の侵略行為であり、歴史を大きく変えた出来事として、人々の記憶に、恐怖と共に強く刻まれるのだった。