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選定の儀 2

 それに反応するように鏡が光り輝く。

 その光でなにかわかるらしく、先ほどの魔法大臣が何事かを王に言っていた。


「確か、『ステータスオープン』だったか。やっぱりそういうことやるんだな」


 学ランがぼそりと言った。


「それって異世界用語?」


 聞きなれない言葉に、カナタは聞き返してみる。


「俺もラノベで読んだことしかないけれど。その人の自分の能力がわかるんだって。ここじゃあ、それが『選定の儀』っていう言葉になっている、的な感じじゃないか?」

「ふうん」


 それは教えてもらっていなかった。

 ステータスオープン。

 それは覚えておこう。

 なんだかそれらしくできるかもしれない。

 そう思いながら、『選定の儀』の進行をカナタは興味深く見ていた。


「それでは、最初の者。名前を告げて、ここに立ちなさい」


 魔法大臣がそう言って、まずは先ほどの泣き崩れた女性を立たせた。

 彼女は魔力適性が高かったらしく、それを魔法大臣に買われていた。


「ふむ、これはなかなか良い技量をお持ちですな。高位の回復魔法も可能でしょう。魔力コントロールの呪印を彫ることも考えれば、きっと良い魔法使いになれますぞ」


 もしかしたら、王宮付きの魔導士になるかもしれない、とのことらしい。

 きっと重宝される。いいことなんだろう。

 それ以外の人たちもみんな優秀だった。なんだかわからないが、特に強い「チート」を持っていると、それだけで重宝されるらしく、いろいろと職業斡旋ができるのだとか。


「ふうん、すごいね」


 ところどころ説明される言葉で、なんとなくそういう情報だけはカナタも理解した。

 ただ、面白いな、という程度の興味である。

 今、王様に話しかけていいのかな、とはちょっと考えてみるが、もう少し待った方がいいかもしれない。


「そうみたいだな。って、次、俺みたいだから行ってくる!」


 そこで手招きをされた学ランが、そのまま鏡に近づいた。

 光があふれ出し、そして学ランの身体を包み込む。


「ほう。これはなかなか……よい素質をお持ちだ。まだ全力を引き出すことができていないようだが、これはもしかすると……最高ランクの冒険者を目指すことも可能かもしれませんなぁ」


 鏡の中には燃え上がるような炎が映されている。きっとそれが彼の「素質」というものなんだろう。そういえば、ここに来るまでの会話でも、そういう話をしていた。


「え、ほんと?! すげえ!! あ、ありがとうございます! おい、お前も来いよ!」


 それがうれしくなって、テンション上がってしまったのかもしれない。学ランは嬉しそうにカナタに対して手招きをしてくる。


「俺、勝手に入ってきたこと、バレたりはしないか」


 ここまで何の指摘もされていないのだから、ごまかしを聞いているのだろう。


「それでは次の者」


 そう呼ばれてカナタは歩を進めようとする。

 だが、そこで、足が止まった。


「ねえ、王様? 一つ質問してもいいですか?」


 ここで自分の素質なんてものよりも大事なことがある。

 それを思い出したのである。


「……な……無礼な!」


 そこで最初に出てきた金髪の若者が、睨みつけてくる。顔を赤くして、まるで自分に否定を働かれたかのように、カナタを睨んでくる。


「転生者、陛下に対してそのような言葉をかけるなどと! 質問ならば後でいくらでも文官たちが……」

「良い。申してみよ」


 魔法大臣の焦ったような言葉にたいして、オレリアス王はどこでも冷静だった。

 じ、っとカナタを見て、そしてその続きを話すようにと、待ってくれている。


「もしかしたら、いい人かもしれないって思ったんだけど……だからこそ、これははっきりさせておきたいんだ」


 もしも、最初にこの王様に出会っていたら。

 なんて、考えるのは野暮であることは分っていた。

 もうすでにあのエルフと約束をしている。だから、あちらが優先。わかっていても、確かめたい。


「ねえ、どうしてあのエルフさんをあんな塔の中に閉じ込めているの?」


 カナタがそれを口走った瞬間だった。

 空気が変わった。


「なぜ」


 ビリ、とひりつくような空気が肌を裂いた。

 その一言に、場の空気が凍りつく。


「なぜ、それを知っている?」


 問いかける声は低く、けれど確かに怒気を孕んでいた。

 まるで、何か踏み越えてはならない一線に触れたかのように。

 先ほどまでは為政者として、感情をなるべく出さないようにしていたのだとわかるほど。表情は全く変わっていないのに、その纏う空気だけが異なっていた。


「だって、会いに行ったから。そして、あなたから、呪印を奪われたって。だから、それを返してもらいたくてここに来たんだ。ねえ、王様。エルフさんにその呪印っていうの、返してくれない?」


 カナタも引かなかった。

 何しろここでちゃんと呪印を返してもらわなければ、あの白いエルフと旅ができないのだ。せっかくエルフを見つけたのだ。こんなところで諦めたくない。


「……ふ、は、ハハハハハハハハ!!!」


 だが、それに返ってきたのは、狂気じみた、とも言える笑いだった。

 煌びやかな宝石をあまた付けたマントがその声に反応するかのように翻る。オレリアス王は感情を丸出しにしたかのように笑い、そして、自らの上着をずらし、首元を見せつける。


「貴様が欲するのは、これであろう?」


 エルフとは違う、太陽に一度もあたったことのないかのような、その白い肌に刻まれた青く透き通るような半透明の紋様。美しい円を描き、花弁を象ったかのようなその形は優美で、光を放つそれは鮮やかだった。


「それが、エルフさんの呪印?」


 確かに。あの見せられた首筋にこんな美しい模様があったならば、きっとエルフの美しさをさらに引き立てるに違いない。


「ねえ、それ、返してよ」


 カナタは手を伸ばす。

 それに反応するように、玉座に座っていたオレリアス王が、ゆっくりと立ち上がった。

 その動作だけで、空気が張りつめる。兵士たちも武器を構える。魔法使いたちも皆、魔術の詠唱を始めている。


「……痴れ者が」


 低く、よく通る声が玉座の間に響き渡る。

 侵入者たちを睥睨し、王は一歩、前へと進み出た。マントが重厚に揺れる。


「ここがどこかも知らぬまま、命を賭けて踏み込んだか。愚かだな。いや、称賛すべき蛮勇か」


 薄く笑い、王は右手をわずかに掲げる。

 その瞬間、空間が捻じ曲がった。赤黒く、渦を巻いて変わっていく虚空は、だんだんと何かによって広げられていく。


「よかろう。ならば、我もその蛮勇に敬意を表してやる」


 その声には、嘲りにも似た優美な冷たさがあった。


「奪いたいと申すなら、奪ってみせよ。この王の眼前でな」


 その瞬間、風が鳴った。

 武器を抜いたわけでもないのに、殺気が走る。


「異世界の者たち! 戦える者はすべて我に力を貸せ! この者を討伐せしめた者には、望むだけの褒章をくれてやる! 特別に元いた世界に返す扉を開いてやっても良い!」


 瞬間、虚空から見えたのは巨大な爪だった。


「さあ、ドレイクよ。貴様の食事の時間だ」


 全身に鎖を巻かれた巨大なドラゴンが、その口を開けてまっすぐに王に仇なす者を見つめていた。


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