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この世界に異常が発生しました!  作者: 蓮根三久
一章 日常論者の非日常の始まり
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エピローグ


 今回の事件は、死傷者三名という現代日本では珍しい被害を出しながら終末を迎えた。これだけ見れば被害が大きく思えるが、死者は眞弓が家に帰った時には元気にテレビを見ていたので、結果として二人が怪我をしただけの軽いものとなった。


 かなり重症に見えた猫だったけど、家に帰ったらいつも通り、結構元気そうににゃあにゃあ鳴いていた。


 吹雪は言った。


「異常を経験しなくとも、私達を見ることが出来るパターンはある」


 あの旧校舎三階の角っこの教室で、吹雪と僕は窓際に置かれた一台の机を間に挟んで密談していた。夕暮れの教室でこんなことをしているのだから、二人は恋仲なのかと思う人もいるかもしれないが、だとしたらこんなにも、二人は無表情ではない。


 吹雪は相変わらずの鉄仮面で言葉を発する。


「自分のすぐ近くで異常が発生したら、その影響を少なからず受けることがあるの」


 僕はあの日の図書室での出来事を思い返した。


「あぁ確かに、チコさんと僕の距離かなり近かったからなぁ」

「おそらくそのせいであなたのレンズが歪んでしまったんだと思う。と言うかそれ以外に考えられない」


 吹雪はきっぱりと言い切った。そんな様子を見て、今なら彼女は何にでも応えてくれるんじゃないかと僕は感じた。


「ていうか、あの日なんで急に僕達の頭を撫でだしたんだ?」


 その質問に彼女は、少しばかり答えにくそうにした。


「……私の能力は記憶を操ることではないから。頭を触れた対象にかけられている能力を解除する、それが私の能力」


(頭を触った相手にかけられた能力。なるほど、つまり僕が初めて彼女と会った日に頭を触られたのは、記憶を操作する能力を解除するためだということ…ついでに公園で僕や獅子谷の頭に触れていたのは、僕達の中に無表情が紛れているという事に気付いていたから…)


「そういうことなの?」

「そういうこと」


 吹雪は頷いた。


「どうして僕に隠してたんだ?……って、これはいいや、答えなくて」


 誰にだって隠したことの一つや二つはある。それを尊重できない程僕は人間が出来ていないわけではないし、吹雪が僕に嘘を吐くときは、大体僕を危険なものから守るときなのだ。………いや、吹雪以外もそうか。


 僕は自分に溜息を吐いた。いやはやなんて自己中心的な奴なんだろう、と。


「ではこちらから質問だけど」


 と、今度は吹雪は切り出した。


「どうしてあなたは無表情が兎鯨チコだと分かったの?」


 僕の目をまっすぐと見て、彼女は言った。


 兎鯨チコがどうして無表情だと分かったのか。ぶっちゃけて言えば分かっていなかった。ただなんとなく「これ多分チコさんが黒幕だったりすんのかな」と思っていただけで、予想の範疇を越えていなかった。だが、越える必要なんて無かった。


「僕からしたらおかしい事ばっかだったから…だってあの人、図書室で異常バグってたのにその後特に変化なかったし。チコさんがなんかに関わってるんだろうなっては思ってた。まあ助太刀したと思った虹崎が偽崎だったのは全く分からなかったけど」


 あれだけちゃんと助けておいて、敵だったなんて事実はかなり衝撃的だった。そんなことを思うと、自然と口から洩れてきた。


「今思えば、どうして無表情は助太刀したんだろうな」


 正直、あのまま鬼木羅木に任せておけば猫を倒すことだって出来たはずだ。真剣な謎なわけだけど、これにも彼女はすらすらと解を出す。


「それは単に、あの二人の目的があなたに異常を起こす以外に無かったから。目的を達成したら早く逃げないと、再修正が来てしまう」

「あぁ…」


 なるほど。確かにそうか。と心の中で納得した。

納得できる解をこんなにスッと出せるなんて、吹雪は本当に頭の回転が早いなと感心してしまう。いや何様だ、僕は。


 僕は他に自分が聞きたいことはあるかな、と思考に耽ってみた。


 数個質問が浮かんできたけれど、それらは大抵「僕を危険から遠ざけようとしていたから」という理由で片付いてしまう他愛も無いことだったから、僕は口には出さなかった。


 時間が経った。


 夕焼けは段々と沈んでいく。


 僕と吹雪は以降、大した話はしなかったけれど、それでも僕はこんな時間がずっと続けばいいなと思った。


以降の更新は未定です

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