プロローグ
蓮根三久です。れんこんさんきゅーではなくて、はすねみくです。
暇だったのでまた書き始めました。
馬鹿みたいに分割して提供していきます。
三話の最初までは毎日投稿します
「大前提として、あなたたちの日常は、完全に安全に万全に保障されたもの。異常なんて日常の中に存在していない。そういう設定だから」
彼女は言った。鉄仮面のように変わらないその表情からは、人間味という物を全くと言っていい程感じられない。
彼女は文字通り「言う」という人が行って当たり前の行為をしていた。しかし、なんだかどこか不気味さがあるのは、言うのに際して必要最低限の口の動きしかしていないだからだろう。
「でもあなたは、存在しないはずの異常を経験した。だから私達を認識できるようになった。非日常の存在である、私達を。あなたたちの、世界を映すそのレンズが歪んで、世界の形が歪に整えられ、初めて見えてきた真実。それが私達」
彼女は流れるように、だが聞き取りやすい明瞭な声で話した。
教室で二人、放課後の密談。シチュエーションだけ考えれば恋の告白でもされそうなものだが、もちろんそんな事は無い。もしそうであれば、向き合う男女はこれ程迄に無表情ではない。
だが、眞弓の心は少なくとも踊っていた。表に出さずとも、彼の心は愉快に揺れていた。
「思い出して。あなたが彼女と接敵していた際、あなたの目の前に0と1の集合体が現れていたはず。それが異常」
眞弓は頭の中を探ってみる。ぼんやりと、昨日の記憶にそれのようなものがある。別に僕は忘れっぽい性格ではない。ただ、記憶が上からコーティングされているような、そんな感じがするのだ。
「忘れていても仕方ない。あの場には彼女がいた。再修正の彼女が」
彼女はスタスタと音も立てずに僕に近づいて来た。正面まで来ると、僕の肩を掴んで押し下げた。僕は膝立ちになって彼女を見上げる形になった。
彼女は僕の頭の上に手を置いた。
「今からあなたの記憶に掛けられた偽装工作を解除する。少しだけ、目を瞑って」
僕は言われるがまま、目を閉じた。
このまま一体どうなってしまうのか。目を開けたら複数人にメッタ刺しにされていたらどうしよう。
なんて、起こるはずもない心配を胸に、僕はコーティングされていた昨日からの記憶を辿ることにした。