調査対象
宇宙空間を航行する、とある宇宙船。その任務は惑星の調査だったが、今、船内は未曽有の恐怖に陥っていた。
「せ、船長! ああ! い、い、ばばばっばばばば!」
「ど、どうした! まさか、お前もなのか……!」
「いえ、違います。ただ怖くて震えているだけです」
「紛らわしいことをするな!」
「す、すみません。でも、いったい何が原因なんでしょう……」
「わからん。ただ、悠長にはしていられん。もう三人もやられている。解剖の結果、ウイルスではないようだ。あの惑星に何かあったとしか考えられないのだが……」
「そうですね。騒ぎが始まったのは、調査船があの惑星からこの母船に戻ってきてからですから」
「そうだ……ああ、思い返してみれば、妙な点がある」
「え、何がですか?」
「現地の生物を捕獲して調べるはずだったのに、調査隊は何も捕まえてこなかっただろう。何か関係があるのかもしれない……」
「いえ、私が聞いた話では、確かに捕獲したそうです」
「なに? それは本当か?」
「はい。ただ……いつの間にか、消えてしまったとか」
「馬鹿な、見失うほど小さい生物ではないだろう。規定通りの対象を捕獲したんだろうな?」
「そのはずですけど……詳しく聞いてみますか? まだ無事な調査員がいるはずです」
「ああ、急ごう。自分の手を喉に突っ込む前にな」
二人は慌ただしく船内を走った。そして、生き残りの乗組員の元へたどり着くと、船長は膝を抱えて震えるその乗組員に問いかけた。
「君だね、あの星に行ったのは。詳しく話してくれ。捕獲対象をどう発見し、どう捕まえた?」
「は、はい……わ、我々はあの星の夜、上空から捕獲対象を捜索していました。規定通り、都市部から離れた場所で。しかし、見つからず、移動しようとしたそのときです。古びた住居に現地生物を確認し、急いで捕獲装置を作動させました」
「待て。その生物は住居にいたのか? どうやって外へ誘い出した?」
「それはその……急いでいたので、住居ごと……」
「なんだと? 建物を解体しながら吸い上げたというのか? 確かに迅速な捕獲は求められているが、規定には目立つ行動を禁じるともあったはずだぞ」
「す、すみません。ですが、周囲に生体反応はありませんでした……そう……」
「なんだ?」
「……いえ、なんでもありません。それで、その生物を捕まえたのですが、突然……ふっと消えてしまって……」
「消えた?」
「はい……」
「だから、そんな馬鹿なことがあるか」
「船長、立体映像の類だったのでは?」
「あの星の文明レベルを考えれば、それはありえな……ん?」
船長は不意に天井を見上げた。部屋の照明が突如として点滅を始めたのだ。そして――
「あ、あ、あああぁぁぁ!」
乗組員の一人が白目を剥き、自分の手を喉の奥に突っ込んだ。まるで滑り込むように、その腕はみるみるうちに奥へ消えていく。二人は恐怖を感じつつも何とか正気を保ち、止めようとした。
「やめろ、やめないか! おい、力ずくで止めるぞ!」
「せ、船長! あなたの後ろに!」
悪寒が船長の背を駆け上がった。その直後、耳元で何かが囁く声が聞こえた。
しかし、それは聞き慣れない異星の言葉だったため、船長には理解できなかった。
『帰して……帰して……私を地球に帰して……』




