秘文字A
『てー、てに。手に、入れに行く。Everything’s good.......?あー Exciting と Anything else...? 危険な道でも That makes sense.....♪困った時にはエムネムネム♪おっ、いいねー。』
俺はバースを蹴り、新たな一歩を踏み出した。
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魔法を覚えるという体験は、
「言い得て妙」が難しい。
この世界は、
例えるならば電脳世界のようだ。
そこには0と1が満ち満ちていて、
言語を書いたら動作する。
俺は何もない空へ、杖で文字を描く。
書く。というよりかは、描く。
レタリングされた文字をイラストするように。
そして詠唱。
音声認識を通して空に描いたプログラムへ、
自身の魔素を吹き付け、読み込ませる。
「スペル・グ・ノームス。」
【土精霊の願書魔法(スペル・グノームス)】
系統:固有魔法系・自然魔法
等級:D~A級
属性:①土魔
②物理
詳細:(土魔法一般の願いを叶える詠唱必須魔法。元は土の精霊グノームの固有魔法だが、人間でも扱えるように研究された成果物。等級及び難易度は願いの内容で可変。土の精霊グノームは大地の法則を塗り替える力を持ち、それを適切に支配コントロールしていた。欲深き人間の手に渡るまでは......)
「おー、階段じゃん。ゴイスー。」
「ありがとうございます。」
一見、簡単そうに見えるが、
修得までに数か月を要した。
最初に魔法を使えた時の感動は忘れない。
病みつきになりそうな、疲労感と達成感のカタルシスだ。
しかし慣れてくると、演歌を全力で歌う気分になった。
つまり、楽しいけれど疲れるから気ノリしない状態。
繰り返し使うと魔法の出力が上がった。
上手になったというよりかは、
肺活量が上がるような感覚である。
当初はマックのスライスチーズくらいの面積しか削り取れなかった土壁も、今や一発でフィレオフィッシュくらいの面積がサイコロステーキになる。あぁ、ダメだ。毎日同じものを食べてるせいで、例えが飯ばかり。我慢しろ.....我慢だッカルビ食べたぃ.....。
さて.....
今しがた魔法で作ったこの土階段は、この部屋にある例のジャンク品を見るためである。俺の身長では届かない机の、その上の壁に埋め込まれた”ひび割れたディスプレイとスピーカー”
「さあ。ご対面......なぬ?」
「どうしたの?」
驚きの発見があった。
俺の目線からは、机に隠れていて見えなかったが。ディスプレイは四面もあり、見えていた最初の一枚は予想以上に大きい。そして何よりも.....これは、まさか。
「スペル・グノームス。砂埃よ、去れ。」
「なになに.....?」
「キーボードです。」
そこには机と一体になったキーボードがあった。
そしてキーボードの前には半円の檻みたいな何かが。
「なんだ。プチプチ椅子のこと?」
「プチプチ椅子・・・!?」
「そう。座るとプチプチ、カタカタお尻にあたってストレス解消になるクッション。奥の丸っこいのに腰を当てて体重を掛けると筋肉がほぐれるの。」
なるほど健康器具か。
納得。
するわけ、無いだろう。
「ち、違います。多分これ.....」
俺はもう一度杖を取り出して呪文を唱える。
「スペル・グノームス。対象を研磨せよ。」
――シュリリィ.....と音を鳴らし、ストレス解消クッションことキーボードの溝から土が取れる。そして魔法の光が、スクラッチするようにキーの表面にこびり付いた異物を取り除いていく。
――シュリリリ.....
「こ、これは――」
ルタルちゃんが声を漏らす。
そこに現れたのは見慣れたローマ字。
「秘文字A.....?」
「秘文字A?ですか?」
「そうよ。まだ解読されていない古代文献の文字。読み方が分からなくて、多くの学者がこの文字について研究しているの。」
ほう?アルファベットをご存じない??
講釈垂れ現代知識無双タァイム.....発動。
「説明しよう――」
俺は目を光らせて、人差し指をおっ立てる。
「秘文字Aことローマ字もとい!アルファベッ・・・ツ(巻き舌)は、表音文字のうちの音素文字の一種で、学術的には一つ一つの文字が原則としてひとつの子音もしくは母音という音素を表すものを指す。起源は、古代ギリシア人が子音字に加えて母音字[注 2]を持つギリシア文字を作ったことが始まりである。これはフェニキア文字(子音字のみのアブジャドに属する)を用いて作られた。その後、古代イタリア地域諸言語(ラテン語や非インド・ヨーロッパ語族を含む)、および多くのインド・ヨーロッパ語族(インド・イラン語派を除く)はアルファベットを採用したのだった!!(出典:Wikipedia)」
そしてルタルちゃんは目を輝かせ、
何て博識なのスゴイ!!
カッコイイ的な眼差しを俺に向ける。
「うーん。そこまでは分かっているのよ。」
はずだった。
「分かってるんかい。」
「うん。分かってる。元はドラマグラというコミュニティで産まれた小説の言語で、この文字についての説明がなされてるの。分かってないのは発音。私たちはこの秘文字Aを別名”エムネム文字”と呼んでいる。」
「エムネム文字.....?」
どういうことだってばよ。
そこまで解読されているにも係わらず、発音が分からないだと?
「うん。一度、聞いててね。さあ、歌いましょ~↑」
ルタルちゃんは可愛らしく拳を握り込み、
左右に揺れてリズムを取る。
う~ん、香ばしい歌い出し。
――5点。
『A、B、C、D、E、F、G、H、I、J、K、エムネムネム♪ 』
唐突なエムネムネムに俺、爆笑。エムッ
「エムッ......?なんすかwヒィ.....w それ、なんすか(震え声)」
誰だよ、うろ覚えでこっち来た現代人。
誤魔化すなよ。
『O、P、フンフカ♪フンフンフン♪ X、Y、Z~革命~、タンタン。』
「フッ..... フンフカ.....w レッ..... 革命.....w」
最後は泣く子も黙る宇宙海賊のポーズを決めて終了。
これにはルタルちゃんもニッコリ。
というか温泉上がりみたいなホッコリ顔をしている。
やりきった表情をしている。
「どう.....!久々に人前で歌ったわ。ふふ。」
すごい満足気だ。
あぶない。
知ってる歌だったら香ばしかった。
香ばしい美声。
「なんすか。エムネムネム♪って。」
というかなんで『Z』だけ発音良いんだよ。
ズィーで上手ぶんなよ。挽回できてねぇよ。
「恐らく本当の発音を隠すために秘められた呪文よ。きっと全てを知った種族は身に余る力を手にすることになるわ.....
ちなみに、仲間内では『エムネムネム!!』とみんなで声を出すパートなの。その時両膝を曲げて両の拳をキャンプファイヤーの方向へ突き上げるのが伝統よ。心が一つになる瞬間だわ。」
ルタルちゃんは机の上でポーズをとる。
「こ.....今度はやらせて頂きます。たのッ.....楽しそう。」
「革命は内に宿して。反体制的なの。」
すっごい真面目な顔。
しっかり心配してる顔。
「分かりました。」
「んなこたー、どうでもいいのよ。」
切り替え早いな.....
ルタルちゃんはクルリと振り向いて、
キーボードの前にあった半円の檻。
もとい腰の筋肉をほぐすヤツを指差した。
「このコリに効くやつ。アカムレーターよ。.....どうして今まで気付かなかったんだろう。」
「アカムレーター?」
俺は聞き慣れない言葉に首を傾げる。
「説明は難しいけど、簡単に解釈すれば”魔力の結晶”を入れる所。エネルギーを貯蔵して、必要なときに刺激して動力を供給させるの。そして、このダンジョンで手に入るアカムレーター用のリソースは【光眠石】が代表格。」
「光眠石.....?」
「えぇ。とっても危険な場所にある、石よ。」
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さて.....
コアから北には第三層{光石地帯}が広がる。
蛍石、ヒカリ石、発光石、灯石など様々点在するそうだが。
その中でも、振動を与えると魔素が蘇り、特段まばゆい光を発する【光眠石】は、(※適切に採掘できれば.....)ダンジョンポイントに還元できる優れモノらしい。
というのも所詮は地下ダンジョンなので、
人間である俺にとっても光は肝心。
効率や安全性の観点からもね。
今までは中級冒険者の持っていた火打石で
ロウソクなり端材なりを燃やして凌いできたが
それでは諸々問題があるし、
何やら電池になるそうなので、
命を懸けて、取りに行く。
「ふぅ.....」
コアから北に開けた穴からは、
心許ないキレたガレ場と、
その先の、闇に塗れた奈落が見える。
「気をつけてね。」
上空から下方へ風が吹く。
こういう時には歌が良い。
そうして話は、あのバースの頭に戻る。
{ダンジョンステータス}
内部コア
DP(ダンジョンポイント) :10 +5 (ダンジョンに魔法が散る)
MP(モンスターポイント) :55(残りの巣箱内生物)
RP(リソースポイント) :20(残りの有機物)
タイプ:多層城地下型
構 成:全6層
状 態:廃ダンジョン、???
称 号:???
危険度:レベル1(G級)




