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Fw:ダンジョン作りにはSayがいる!!  作者: 西井シノ @『Eスポーツ活劇~電子競技部の奮闘歴~』書籍発売中
{寮生編}☆☆☆☆☆☆☆

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/27

新学期 ~出会いの季節はヤバい奴にもよく出会うから~

さてと。

さて、さて。

暴れん坊タンテのせいで、地下ダンジョンの魔力は、新鮮な野菜が全て茶色くなるほどに枯れ果てている。

それは食用芋虫も。つまり、自生したモンスターも同様に死滅している。

理由としては、文字通り【全てのリソース】を攻撃魔法シグマ・グノームスに変換して注ぎ込んだから。

そんな状態から、こんな戦闘力も文化的知力も高そうな良質モンスターが自然発生するはずもなく。

これは全くもって私の想定外、領域外、専門外、干渉外の場所からやってきた怪物ヤバいヤツだということは明白なのだが。

更に言えばこの脅威は、私をダンジョンマスターとして認知しているときた。

これはいささか、厄介千万。

めんどいめんどい、ひどくめんどい。

そして全く残念ながら、私は今どんよりとして疲れている。

青菜に塩とはいったものだが、私が草臥れたら泥の精霊にでもなるのだろうか。

あー、どんよりどんより。


「ふん」


私は、杖を持つ。


「おっとっと!!」


おちゃめに手を上げ驚く骸骨。

中々コイツ、茶目っ気があるじゃないか。


「お、落ち着いてください!は、は、初めまして。私はオルテガ・オースティック。タンテさんを魔術学院へ推薦した教師せんせい兼{シーカー}です。」


――シーカー?


あぁーあ。

聞いたことがある。

こんな地中で過ごす私にも届く噂話だ。

探索士。

ダンジョン攻略の専門家。

どんな奴かと思っていたが、人間側の密偵みたいなものなのか。

裏切り者のモンスターめ。

喋って仲間になりたそうに冒険者を見つめる悪しきスライムと同レベルのプライドの無さではないか。

下劣なガイコツ兵士め。


「貴方が脳ナシの骨だということは良く分かったわ。」


「いえいえ、とんでもございません。このホネは私の仮の姿。実を言うと、私は探索士シーカーでありながら、ダンジョンに潜ると全身の痣から血が吹き出してしまう呪いがある故。今日はこのような姿で訪問させて頂きました。」


なるほど。

どちらかと言えばネクロマンサーみたいなものか。

死体で遊ぶハイエナのたぐい

よくもこんな地下深くまでおいでなすった。


「で、何の用?」


私は疑念の目を向けながら杖を納める。

確かに敵意は感じないが、武器は携帯しているし、色々と見過ごせない怪しさがある。

なにせ昔から言うではないか。

悪事千里を走る。

はてさて、ここで善悪の話である。

善か偽善か偽悪か悪か。

どうやらどうにもどっこいどすこい、地下まで走って数千里。

悪事の方からおいでなすった。

何せここは深いダンジョン。

地上からは遠い場所。

悪事以外は辿り着けまい。

こいつはきっと信じるに値しない。


「単刀直入に申し上げますと、我々魔術学院の人間へ、ダンジョンを利用させて頂きたいのです。」


「誰が、ンな事.....」


「しかし人間が魔力を発露すれば、ダンジョンの魔力値は上昇するはずです。」


ぐぬん。

こいつ.....詳しい。


「私たちは学徒に魔法を教える、あるいはダンジョンでの実践知識を教えるという名目で、魔力をダンジョンへ還元できる。学徒も成長できる。そしてダンジョンは魔力を取り入れながら、城外から来る脅威へは徹底的に排除してみせ、更に強大な魔力を手に入れることが出来る。それも脅威が去るまで恒久的に。」


ぐぬぬぬ。

ぐぬぬぬん。

一理ある。

一理どころか二里三里、四里五里くらいある。

うまくいけば超絶に不労所得が手に入る訳だ。


「でもね。人間が精霊を利用した過去は沢山知っているわ。皆とても人間様の歴史に貢献されたようで、末代まで喜んでいたでしょうね?末代まで。」


私は石ころをポーンと蹴り、骸骨の頭に当てる。

カツンと音がし、髑髏がカラッと揺れる。

ほほほほほ。

ナイスコントロール。

やっべー。

当たっちゃったよ。


「存じ上げております。だからこそ、むしろ私は精霊と人間が関わるべきでないとすら考えています。精霊は人間よりも明確に、神になり得る存在。神に近しい存在。そんな神聖な存在に、非行、蛮行、数々の冒涜を......人間は行ってきた。その神聖さを穢すことは、金輪際あってはならない。」


「踵を返してからその口を開きなさい。行動が伴ってないのよ、アンタ。」


「ですが。ダンジョンマスター殿。土の精霊、グノーム。私は貴方の実力を見込みました。とてもありがとう。」


「話聞けよ。」


「釈迦に説法であるとは思いますが。このダンジョンは本来、ウェスティリアの歴史を守護し保存してきた人工管理型ダンジョン。しかし、あなた方グノームは人間が創りしダンジョンを利用し、このような精霊管理型ダンジョンを創造された。」


「当たり前ね。」


――なにそれ初耳!!


「しかし今日。地上の大戦により、人間もモンスターも訪れなくなったこのダンジョンをタンテさんを利用することで、大復興を成し遂げた。形はどうであれ貴女は、この長い歴史の中で初めて、教科書に載るレベルで人間を利用した精霊といっても過言ではない。ならばこそ、そこには活路が見えてくる。私は二度と人間が精霊を冒涜しないように、しかし共存共栄を描くために、互いを監視し合い、偽善の上で利用し合う。相互利益のために、常に疑い合う関係を目指したいのです。いかがですか?」


ほう。

ほうほう。

どうやらコイツ。

私より近現代史を心得ているらしい。

地上のことのみならず、

ダンジョンの没落理由まで知っていると来た。

なるほど。

なるほど。

色々聞いてみたいこともあるが、

どうやらコイツは優良取引先らしい。

はっはー、人生楽勝~。

この商談を破談にするわけにはいかない。

であるが、すっげぇ食い付いてきたとも思われたくない。

脳内BGMスタート。

テッテレーテレレレ!!デンデン♪

――会話内容を選択せよ。

Aでは、まず。取引条件を聞こうではないか。

Bでは、まず。そなたの要求とやらを聞いてやろう。

Cでは、まず。貴様の要件を言うのだ。

いな、否、いな。

ボールはこちらにあるのだから。

条件提示するのはコチラだ。

ならばこそ。

つまり飽くまでも対等以上の位置関係で、

今はその、

とかく。


――ここで舐められたら.....終わるッ!!


「だまずッ......!!」


痛ってぇ。

ベロ噛んだ。

すっごい血の味。

血の味がする。


「......ま、まぁ、そういうことね。......いや、そういうことか、なのか。で、うかが、うかがわせ、.....そのー、たねず、たずね、たずねれっ、あっ、あぅ。......ふーん。」


「......」



『D.殺す。』


「いや、脈絡ドコですかァ!??」


「うるさいわね。私の威厳とか噂とか恥とか諸々考えたら消しといた方が都合がいいって総合的に判断したのよ。やはり人間と精霊は交わらない運命さだめだったのか......」


「だったのか......じゃなくて、噛んだの有耶無耶にしたいだけですよね?!大丈夫ですから!気にしてませんから!ワタシ気にしてませんから!!」


「うるせぇ~よ。こちとらベロに裂傷負ってんだよ~、立派な宣戦布告だろがよ~。」


「そんなッ、理不尽の極――」


――バツンッ!!


私の前には

天井からの落石に、

そう。

それは非情な自然崩落に、サンドイッチされた白い骨が.....

あぁ可哀想に。

コンナ不幸なコトもアルンダナァ。。。

マァココ、ダンジョンダシ。

危険ダナァ。。。











交渉ネゴりミスった~。(小声)」



{ダンジョンステータス}

内部コア(搭載OS:Que Sera Artificial Intelligence)

研究レベル:1

DPダンジョンポイント :0(DP還元後、シグマ・グノームスによる全放出)

MPモンスターポイント :50(ルタル、来訪者を破壊。)

RPリソースポイント :0

分 類タイプ:精霊管理複合多層型←New!!

構 成:全6層

状 態:廃農家ダンジョン

称 号:???

危険度:レベル2【F級】←ランク+1上昇(要因:極級探索士が”自然崩落”による無視できない危険性をギルドへ報告。)










――――――――――――

{数日後、ダンジョンコア}



―――― [  [  [  死  ]  ]  ] ――――


「はっ.....!!」


「んー?」


朝。

平日の朝。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ.....!!」


激しい動悸に促されるように、俺は辺りを見渡す

未だ眠い目を擦りながら首を傾げるルタルちゃん。

気付いていないのか?

この圧倒的な悪寒。

殺気にも似たような違和感に......


「どうしたのよー。」


俺はゆっくりと振り返り、

ダンジョンコアのキーボードがある操作台へ視線を移す。


「まさ.....か.....?」


「マスター.....」


――7時、50.....分。だと.....?


「遅刻です。」



ダンジョンコアには魔術学院から持ってきた、いらない布や置時計などの古くなったガラクタに近い備品がズラリと置かれている。

直した古時計の長針は無慈悲にもⅩの文字を差し示し、俺の心臓はドクドクと鼓動のテンポを上げていた。

駆ける足。

尾を引く砂煙。

ローファーは卒業生のお下がりである。


「あぁ、あぁ、あぁ、あぁ!!......なんなんだろうな、この朝にめちゃくちゃ遅刻した時の嫌な寝覚めの良さ。意識が叩き起こされるっていうかさー、殺気ってあんな感じなんだろうなー!!っていうかさー、起こしてよキューちゃん!!!!!!」


俺は今、ダンジョンマスターと魔法学生の二足の草鞋を履いている。


もちろん学院の初等科寮へ住むといった選択肢もあったのだが、あれから色々有って、俺は第三層のダンジョンコアから通学する毎日を送っている。端的に振り返れば、俺はルタルちゃんと喧嘩をした。ルタルちゃんは最深部である第六層の生体反応が、師匠ではない事を知っていたのだ。オルテガを発端としてそれを知った俺は、彼女とだいぶ言い争った。嘘つきだとか、騙されたとか、バカだとか、アホだとか、ちんちくりんだとか。彼女は泣いて、俺はしばしば家出したりもした。


それでもまだ俺がココに居るのは、

気付いていたからだ。

俺達は互いが互いを利用し合って、

最善を選んでここまで来た。

発端がどうであれ、

それは最善だった。

互いにとって互いが必要だったのだ。


ルタルちゃんも悪気があって俺を騙していた訳じゃない。

ダンジョン創りのSAYである。(もちろん一つの仮説だが......)

ルタルちゃんが俺を――S(識別)し、

――Aアイデアを出して利用した。

そんな俺へ最初に注ぎ込んだのは、――Y(やる気)だったわけだ。


――S(人的資源)を利用して、

そこに――A(空き場所)を用意してやって、

残った食糧で――Y(養分)を与えて育て上げる。


図らずも彼女は、自らの選択で廃ダンジョンを導いた。

壁を穿ち、地上へ続く一つの大穴。

それは彼女のダンジョンマスターとしての成果に他ならない。


それに。

最終層の生体反応は数百年も前から存在していて、その正体は多くのグノームや野心家たちが追い求めている貴重なものらしい。それはこの地下ダンジョンの最終報酬。

――万物の創造主、ケセラ・グノーム。

このダンジョンを、そしてWiiだのマリ〇カートだのを搭載したこの”ダンジョンコア”を創った英雄ならば、きっと俺が居た元の世界についてのコトや、異世界転生について何かを知っているに違いない。

そしてあわよくば、この身体の持ち主である篠原綾についても、何かヒントをくれるかもしれない。そんな希望が今の俺を動かしている。


ルタルちゃんはダンジョンを繁栄させたい。

俺はケセラ・グノームに出会いたい。

俺達は互いが互いを利用し合って、

最善を選んでここまで来た。

発端がどうであれ。

それはこれからも、

互いにとって、互いが必要なのである。


「くそー!!地図から見れば徒歩1秒なのに!!」


「現実は1時間と20分。小学生もとい初等科生とは思えない通学距離ですね。」


第三層から第一層まで駆け上がり、巨人牢を抜けて大穴へ向かう。大穴からは地上ルートで、森を抜けた先に学院の正門へ続く大通りが目に飛び込んでくる。学院までの安全は確保されていない為、登校組はキャラバンガードを携えた貴族の子供か、命知らずの騎士寮生くらいである。それも昨今の治安事情を鑑みて、更に数を減らしている。それ故、地上からは怖い暗殺家のお兄さんやお姉さんが、怖い目をギラギラさせながら俺を護衛してくれる手筈、故に遅刻すれば単位も怖いがその前に殺されそうで怖い。


「――スッ、......スペル・グノームス!!」


「あーあ、使ったー。またバテますよー。実習中に~。」


土の足場を創成して押し出されるように前へ進む。

いくつもの四角柱を乗り継ぐ様はさながらサーフィン。

バハムート・ルイン戦で使いまくった移動方法である。

あの時と違うのは魔力の残量。

ダンジョンの魔力リソースは使えないのでバテバテになる。


「ひょえ~、はやーい。」


「背に腹は代えられないだろ!!」


前髪が捲り上がり、

服ががビラビラと風を受けて靡く。


――トゥルトゥルトゥル♪


Qキューブから眼鏡に信号が送られる。

映る文字列、味気ある文章。


【From ダンジョンコア】

――おはよーヽ(^o^)丿。今朝は寝坊しちゃったね(^ω^)zzzzzzzz.....わたしは今起きたのよー。そういえばこの間の件で、オルテガさんにお手紙を(。っ・ω・´)っドゾォ!!しようと思ってたんだけどねー。いま学校まで─=≡Σ((( つ•̀ω•́)つヒューン!!!!!でしょ~?だから手書きしたのを☆FAX☆で (。っ・ω・´)っドゾォ!!。今日渡してね~。ヾ(。・ω・)ノいってらっしゃい☆(・ω・*)/''キツケテネー☆☆☆☆

☆お手紙☆ → Orutegaaaaaa.dml.zzz.FAX/tnt


「なんか来てます......」


「なんか来たな。」


「なんか来ましたね。なんだろ。」


俺は前方に注意を向けつつ文字を読む。


「朝から激しい。可愛いけど激しいよ。というかFAXってなに?できるの?」


「はい。......この☆お手紙☆が、怪しい♤ウイルス♤の侵入経路でなければ。マスター、紙とペンをお借りします。」


そういうとキューちゃんは俺のバックを開けて鉛筆と破ったノートを取り出す。


『ピピピーッ、ガーッ!!モットセナカ、マルメテクダサイ。』


キューちゃんは紙を俺の背中に当て鉛筆でなぞる。

なんか背中がこそぐったい。


「うへへへ、ちょっと、なに、それで書けるとでも――」


「出来ました。」


拝啓、オルテガ殿。

件の取引について、解答をしたく手紙を認めた。

まずは先刻の無礼を詫びさせて貰いたい。

当初は全く突飛な提案であった故、

天井の岩壁も驚きの余り貴殿の人形へ......

・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・・・

        ――ルタル・グノーム


『達、筆ッ!!』


TPOを弁え、礼節を欠かさない文章。

年季の入った太い文字。

そして気合の入ったサイン。

これは間違いなく年の功、ルタル・グノームの文字と見受けられる。

完全模写。

すごいね、背中FAX。


――シュタタタタッ、ペタ。


「こちら厚紙に包み、封をしておきました。鞄に入れておきます。」


「そんなことも出来るの?!」


「えぇ。そんなことよりも急ぎましょうタンテ様。ダンジョン内ならばともかく、地上では思わぬ足止めを喰らう可能性があります。ダンジョンよりも地上の方が危ないなんて。まったく世も末です。」


首を縦に振りながら魔法を切る。

平地では足を使い、

段差や登坂では魔法の足場を使うハイブリッド。

これが俺の最速の登校手段。

これの何が問題かって、

足場が荒れるので帰りがキツイ。


「急な明るさに注意してください。」


地上に出るまでの最終コーナー。

俺は思いっきり足場を盛り上げて、

空へ飛ぶように穴から出る。

名付けて、旨いぜ娑婆の空気=俺は自由だ。ごっこ。


『自由だ~!!』


浮遊感と。

空と大地と森のその境。

その瞬間を垣間見て。

今日も今日とて息を吸う。



深呼吸。

自然を取り込む快感。

そよ風が吹けば、

木々たちが囁いているようだ。


「はぁ......」


オォゾいぃ。』


「――げッ......!!」


地面の蟻でも見下ろすようなマッドハッターの顔が、空を遮る。

今にも踏みつぶしてきそうな鋭い眼光である。

今日の送り番はコイツらしい。

よりにもよって今日に限って。


「こ.....殺される.....!!」


ファイティングポーズをとる俺にマッドハッターは溜息を吐く。


「そうと思うならもっと早く来るんだな。」


――おっ、意外と冷静。


落ち葉を軽やかに踏み鳴らし、

急ぎ足で俺たちは進む。

土を踏み固め。

草を掻き分け。

森が後ろに流れていく。

これを毎日繰り返し、

自分で拓いた獣道を進む。


「テメェに限った話じゃねぇが、定刻ってのは言わば断崖絶壁の切れ目だ。」


「ハァ...ハァ...」


「毎日毎日、走って際に止まろうとすれば、いつかは止まれず落ちる日が来る。」


「仰る通りで.....」


「崖の手前を歩いて目指せ。それが出来なきゃ」


――?!


膝かっくん。

後、俺のケツが浮き腰にはシートベルトが巻かれる。


「空でも飛ぶんだな。」


何が起きたか分からないが、

回転する世界。

地上には帽子を脱いだハッターがいた。





―――――――――――

{ウェスティリア魔術学院}


「てなことがあったんだよ。あんだけ俺を殺したがってたのにさ。」


「アハハ!知らな~い!!」


ルディはいつも自由だ。

ルダムもこんな感じ。

というかどっちがどっちだか分からない。


「今日はハッターだったのかぁ。それは恐らく{狂帽子屋の装飾技術デコレーション}。彼の固有魔法。巨大な帽子に乗って、なんで空を飛べたかは秘密。うそ、実は帽子の下にはデッカイ大鷲オオワシが4匹縫い付けられていて浮いてたってわけ!」


アリスは時々おかしな事を言う。

嘘か真かは分からないが、今日に限っては嘘だ。

大鷲の鳴き声なんてしてなかった。


「ハハハ。マトモだ。」


「.....別に、ハッターだってマトモな時もあるわ。でなきゃアズナンズの諜報係エスピオは務まらないもの。」


俺はアリスと共に廊下を歩く。

目指すは大修練場。

候補生151名が城の東西南北から大移動しているのである。


「アズナンズ?」


「別名よ。というか【アザナンファミリア】の方が本当は愛称なの。定着しちゃったけど。んで.....アズナンズは基本、独断で殺しはしないという話。この間はラヴィーがいたから、例えジャバちゃんを殺しても二人ペアの責任ってことになるし、ノリノリだったわけ。」


――ジャバちゃん.....


ウェスティリア魔術学院初等科は5クラスに分かれており、特別寮長推薦生である俺は現在、【冒険士寮、フェアリア=イオライテ】に在籍している。寮長推薦生はルダム・トゥイード。初等科・寮代表生徒も同様にルダム・トゥイードである。


俺は当初、入学式の流れから【騎士寮、フリューゲル=ディアマンデ】のクラスルームも拝見させてもらっていたが、なんというかお行儀の良い奴らだった。行動は五分前。背中に定規でも入っているのかってほど背筋は綺麗に伸びている連中。育ちがいいのだろう。


一方、俺が最終的にフェアリア候補生として配属されたのはオルテガが寮長をやっているからだ。そしてフェアリアの教室はフリューゲルに比べて騒がしい。自由と好奇心で構成された空間。先生の注意が無ければ静かにならないようなクラスである。


従って我らがフェアリア候補生は計31名教室。他の寮より1名多い計算になる。また腐っても候補生なので、フェアリアにいながらフリューゲルを目指している奴もいるし、1学年ごとに適性の有る、あるいは興味関心のある生徒が各寮に煮詰められていく。それを繰り返して3年間。遂に初等科生は、候補生というレッテルの繭から羽化するのである。


しかし各寮には定員が設けられている。今年で言えばその枠は31人。この定員に漏れず自分の進路を通すには優秀な成績を収めるほかなく、特に【寮対抗大会】や【中間期末テスト】の個人成績は重要な評価になる。具体的には、{魔法評価}{知識評価}{戦闘評価}{実技評価}の4大項目。

そして本日は全寮合同授業。評価基準の全てに影響し、尚且つその年の最優秀候補生寮を決める重要イベント、【寮対抗大会】のデモンストレーションがあるのだ。


「それと、今日は寮長推薦生の懇親会があるから私が戻り番。お外が真っ暗になるから、間違えても一人で帰ろうとしないでね。」


「え、いつそれ?どこそれ?」


「5時にライオン部屋だけど。なんで聞いてないの?」


「多分、その時ルディかルダムに話しかけられてて......」


「分かった。ルディがジャバちゃんの代わりに出たいから魔法使ったんだ。」


アリスは人差し指を立てて得意気に推理する。

言われてみれば確かにあの時、

後ろの席のルディの声だけが明瞭だった気もする。


「マジか、気付かなかった。」


「呆れた。そんな簡単に魔法を掛けられてるようじゃ、ハッタ―に殺されなくても、他の悪党に殺されちゃうわよ?今はこんな御時世だし~。仮にもアズナンズの内情を知ったからには、自己防衛する力をもっとつけることね。例えば、次の寮対抗大会トーナメントで入賞するとか。少なくとも並大抵の同級生には圧倒するくらいじゃなきゃ。」


「確かに。。。」


得手不得手はあろうとも、

土の精霊の弟子である。

自己防衛の観点からもそうだが、

第一にプライドとして、

不甲斐ない結果には終われない気もする。


「俺、優勝目指して頑張る!!ダンジョン作りながら。」


「そう。それじゃあまずは、今も魔法に掛けられていることに気付く所からね。」


「え.....?」


「周りにコレだけ人がいるのに、機密事項を話す訳無いじゃない。ね~ルディ?」


『――ね~、アリス。』


盗み聞き対策の遮音か、

はたまた俺たちの会話の音を変えてくれていたのか、

なにをされたか分からないが、

何処からかルディの悪戯っぽい声が、反響しながら耳に届いた。














{ダンジョンステータス}

内部コア(搭載OS:Que Sera Artificial Intelligence)

研究レベル:1→2←New!!

DPダンジョンポイント :0 → 20

MPモンスターポイント :50→ 50

RPリソースポイント  :0 → 5

分 類タイプ:精霊管理複合多層型←New!!

構 成:全6層

状 態:廃農家ダンジョン

称 号:???

危険度:レベル2【F級】


履歴

 研究 → 1上昇(DPから野菜系モンスターを創れる程度の研究力)

 分類 → 詳細がアップグレード。

 MP+50→ ガイコツ兵士をイモムシ創生分へ還元

 DP-50 → ガイコツ兵士をイモムシ創生分へ還元

 DP+50 → ガイコツ兵士が動かなくなる。(モンスター死亡)

 MP-50 →ガイコツ兵士が動かなくなる。(モンスター死亡)

 DP+5  → タンテ遅刻時の魔素マナ放出など。

 DP+20→RPからDPへ還元

 RP-20→RPからDPへ還元

 RP+20→学院から持ってきた有機物ゴミやタンテの糞尿をトイレで処理

 RP+5 →処理層トイレの簡易修繕(完全修繕まで残り45RP)

 DP-5 →処理層トイレの簡易修繕(完全修繕まで残り45RP)

Tips 特別版

DSダンジョンステータスについてスペシャル】


・DP、MP、RPの補足

『DP、ダンジョンポイントはダンジョン全体の魔力量を表す。

 MP、モンスターポイントは文字通り生息するモンスターの総魔力量。

 RP、リソースポイントは利用可能な物的資源(肥料なども)に係る魔力量であり、標語であるSAYの資源よりも対象が狭い。RPには減価償却的な考え方も必要であり、土で無理に作られた橋や階段、機械装置などがあるとして、それらは貯蓄されている初期費用分の魔力量がDPに還元されない形で経年劣化的に減少し、ついに枯渇した際には物理法則に乗っ取り崩壊すること必定であるが、健全な管理型ダンジョンの場合、多くはダンジョンマスター自らがDPで補填することは無く、ゾーン内のモンスターが魔力を放出したり死亡して遺体が残る中で勝手に補填されていく。


 ↓   ↓   ↓


処理層トイレによって、木材などの有機物を(もちろん時間は要するが)即座にRP→DPに変換出来るのは、過程として、有機物→(MP)→(MP死亡)→RP→DPという微生物やイモムシによる隠された高速処理が在るからである。


②人間も含め、ダンジョンマスターの支配下にある生き物はMPとして認識され、ダンジョン内で死亡すればRPを経てDPに加算される。


③ダンジョンマスターの保有魔力=DPであり、DPは戦闘時はもちろん、MPやRPにも還元することが出来るので、ダンジョンマスターはDPの残量内であらゆる実験や創作が出来る。またタンテがDPを利用した魔法(魔力の範囲吸収よりも上位の契約的使用)を放ったことで、ダンジョンコアの識別においてタンテという名の【生息モンスター】から→タンテという名の【ダンジョンマスター】と位置づけが変わっている。よって現在ではMPにタンテが含まれていない。

(※ダンジョンマスター固有の蓄積魔力はDPに含まれない。主たる理由としてはダンジョンマスターの固有魔力が多くの場合、緊急事態に奥の手として利用される非常用の隠し魔力ストックであるため、防衛戦略上データとして残すことに不都合が出るからである。)』

   

④項目【分類】には、ダンジョンの大まかなイメージが想像出来るように、その構造や環境が少しでも記されている必要がある。よって【四層・城地下・型】や【二層・洞窟・型】などがオーソドックスな呼称となるが、【多層】や【複合型】といったような抽象的呼称はある種のカオスを表しており、調査が進んでいないことを示している。なお地上のダンジョンギルドでは【多層・城地下・型】のままであり、【精霊管理】であるという情報は行き渡っていない。仮に【精霊管理型】だと特定されれば、ダンジョンの注目度は飛躍的に上昇するが、同時にルタルの危険度も上昇する。



   

           

挿絵(By みてみん)     

 {寮生編}(完?)→{〇〇編?} 

                         

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