vs.伝説の系譜、バハムート・ルイン戦(第1層、特殊レイヤーボス)②
「近接来ます。」
「よぉし、一旦退避ぃ!!」
土壁を出して択を作る。
1後方へ下がる。
2真下に穴を掘り潜む。
3左右に囮のゴーレムを流す。
ざっと土壁1つで増える回避行動の数は3つだ。
竜の方からしても、毎度毎度囮に全力攻撃すれば、フラストレーションが溜まるはずだ。精神的にもキツイかろう。勝負する気の無い相手に、全力投球など無意味だ。手を緩めだしたところで本命の当たり合いをしてもいい。
とにかく、今は身を隠す。
「スペル・グノームス。」
俺は左右へ2体ずつゴーレムを走らせる。
『グォオオオア!!』
足音は正面にあるまま、こちらへ迫ってきている。
「真っ直ぐか。」
趣向を変えたらしい。
俺は身を乗り出してゴーレムの後へ続くように走る。
囮と土壁を含めて攻撃対象は6体。
撹乱には十分。
「十、分.....??」
「タンテ様!!」
目の前に繰り出された大爪。
俺は咄嗟に前転をし距離を開ける。
――ブゥゥンッ!!
空振りの風圧に押されて身体が浮く。
勢いのまま、俺は岩場に背中を打ち付けながら、力をいなしてもう一度立つ。
「流石、中学3年間体育4なだけはある――」
「タンテ様、血が出てます。」
俺はこめかみの流血をふき取る。
少々ガレ場の岩で切れたらしい。
痛みはあまり感じない。
ただ熱い液体が流れているだけ。
「なんでバレた、偶々かあ?」
「体力の消耗と共に、汗の匂いを覚えれられた可能性があります。」
「嗅覚が良ろしくて。」
「血の匂いも追加で。」
「参ったな.....」
俺は腰を曲げ、
犬のように土を掻き出し、
顔面に土を塗りたくる。
髪の隙間から皮膚と服の隙間、
垂れる汗粒に混じるように。
「ノータイムでそれが出来るメンタルには脱帽です。」
「生きるためでふ.....」
「傷は避けて下さいね。感染症の恐れがあります。」
俺は立ち上がり杖を構える。
あの一撃を鼻先で目の当たりにしても、心は冷静だ。
闘志は蝋燭の様に燃えている。
『ポゥフ・・・』
「来ます。」
予備動作の検知。
火炎袋への溜めが短いパターン。
恐らく単発の火炎球。
『――ゴォオオオオオ!!!』
「スペル・グノッ…..あっ・・・」
あれ、
しまった。
視界が霞んで力が抜ける。
脳震盪とかの類ではない。
それよりももっと全身に作用する重み。
魔法が打ち止めになり重力が増すようなあの感覚。
魔法を出すテンポがいつも以上に早まってたらしい。
すなわち、
これは明確な魔力切れである。
・
・
・
・
・
・
・
「グッ、ノームス..........!!!!」
――ボォオンッ!!
「だあ!!」
土が後方へ吹き飛ぶように身体を押した。
間一髪の修正。
掠れた声に呼応して創出された土壁が、なんとか緩衝材として火炎球を止める。
『――Automatic Switching Start. Que Sera Artificial Intelligence.』
「いちち.....」
満身創痍。
肩から指先へ垂れる流血。
その先の土とツタで出来た杖がキラキラと光り出す。
――光眠石。
「チュートリアルは必要ですか?」
呼応している。
この空間を一時的にダンジョン化したのではなく、ルタルちゃんが現段階で地下ダンジョンの一部として取り込むことを許可したのだ。すなわち、俺が流用できるダンジョンポイントはこの地下ダンジョンの全て。光眠石が眠る第三層の隅から、竜の魔法が散りばめれらたこの場所まで。
分かる気がする。
今まで溜め込んだその全て。
自分の魔力では無いから感覚は異なるが、勝手は似ている。
一発本番でとんだサプライズを貰ったものだ。
「いいえ、スキップで。」
俺は杖を構え、眼鏡を外す。
初めて知った。
ルタルちゃんが創ってくれたこの杖が、教えてくれた。
投影された光で補正された世界では無く、
この肉眼でダンジョンの輪郭がハッキリ見える。
――これが、土の精霊の世界。
「一応、眼鏡は付けて置いてください。デメリットは無いので。」
「うん。」
『グォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!』
バハムート・ルインが雄叫びをあげる。
生後何年かは知らないが、俺の変化に気付いたらしい。
伝説の系譜。
蛙の子は蛙ってか。
「スペルっ........いや――」
地面から生える腕の数々。
俺は土で作った巨大な手に竜の足首を掴ませては、
足元の岩石を杖で浮かべて飛ばす。
「行け。」
『ガァアアアアアアアアアアア!!!!』
足首を掴ませた手はすかさず踏みつけられ、投石は振られた左腕に破壊される。
間髪入れずにゴーレムを2体出す。
今度は高くてデカくて脆くて薄っぺらい壁のようなゴーレムを。
「よいしょ。」
『グァ…ガァァアアアアアアア!!!』
覆いかぶさるように創出したゴーレムへ竜は大爪を喰い込ませる。
間髪入れずに数多のハリボテのゴーレムを産み出しては大爪に崩される。
それの繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し。
素早く、大雑把に、襲わせる。
「よいよいよいよい、よよいよいよい!!!」
「無詠唱.....」
パネルみたいに薄ぺっらかろうが、自分よりデカい生物は怖かろう。
おまけに暗さが苦手と来ている。
魔力を少しでも乗せてやれば奴は警戒せざるを得ない。
早く。
早く。
――ダッダッダッ!!!
もっと早く。
俺は竜の周りをひたすらに走り、
ゴーレムの後ろでゴーレムを産み出す。
片手間に来る本体への攻撃は、
足元へ魔法を放ち、
地面を伸びる土台にする。
「あっぶね。」
『グァアアアアアアアアアアア!!!!』
威嚇の咆哮が反響する巨人牢。
俺は繰り返し盛り上がる土の足場で、
瞬間的にサーファーのように移動する。
気分は良い。
風を感じる。
闇に濡れた空間もしっかりと視えている。
冷静に考えれば、
奴の方が、
俺の巣に掛かった虫な訳だ。
「ホラホラホラ!!9年間も地中に居た虫ケラの家にようこそ!!」
――火炎球。
『ガァアアアア・・・アア!!!!』
土壁で障壁を作り、その後ろから囮のゴーレムを走らせ立ち位置をすり替える。
この土は特性だ。
俺の血と汗が混じっている。
すかさず塹壕の下から、魔法のハリボテを何枚も出現させる。
竜は負けじとそれを砕く。
いくらスタミナを鍛えたとは言え、体力は大事だ。
緩急。
蝶のように舞い。
蜂のように刺し。
芋虫のように休む。
緩急を付け、その時を待つ。
ヒットしても所詮はカスダメの連続なんだ。
ならば、待つ。
『グルァアアッ、ガラアア・・・アア!!!!』
聞こえる。
竜の喉に唾液が混じっている。
息が上がっている。
焦っている。
実際俺は、
最初の火炎ブレスを受けたタイミング、
あの時にはマナの採算が取れていることに気付いた。
俺が出す1の魔法で、3のダンジョンポイントが手に入る。
つまり、バハムート・ルインは物理攻撃すらも魔力が込められている。
そして魔法は疲れる。
疲れるのだ。
「疲れるよな。」
疲れなければ便利なものだが、
本当に疲れる。
大爪の薙ぎ、噛み砕き、火炎のブレスは言わずもがな、その行動がほぼ全て魔力の籠った【スキル】と言っていい。
モンスター。
バケモノ。
言わずもがなだが、体力がバケモノである。
二体のゴーレムで竜の左右を挟む。
俺は正面から身体を乗り出して走る。
「はぁ.....はぁ…!!」
圧倒的な質量と質量。
並みの人間ならばフルマラソンの域をとっくに超えている。
それをいなす魔力量。
無尽蔵と無尽蔵がぶつかり合う。
加速する質量。
その全てが魔力だ。
けれどもしかし、
俺はダンジョンマスターである。
お前の放った絞りカスは、流用できる。
『ガラァアアアアアアア・・・アアアアアアア!!!!』
飛んで来る火炎球。
創出した伸びる床でいなしながら移動する。
竜の周り、
常に奴の背を狙いながら回る。
「まだまだ.....!」
『グァアアアアアアア!!!!』
飛ばす。
「まだ.....」
『ガゥアアアアア!!』
飛ばす。
『グゥアッ・・・ガアアッ!!!』
――今。
直角に曲がり中央、
竜の胸元まで距離を詰めて進む。
『ガァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』
俺は天井へ届くほどのゴーレム創る。
これは本物。
床だった場所から頭が現れ俺を高く高く、竜の頭上へ運ぶ。
やがて肩、胸、腕、腹。
ここまででいい。
上半身を躍動させるように逸らせ、握らせた拳を振り上げさせる。
レンガを幾重にも積み上げたような質量。
厚み、馬力、込められた魔力。
本物の土の巨人。
――ブゥウウウ!!!!
拳が振り下ろされる。
隕石のように、速く。
『ガゥァアアアアアアアアアア・・・・・アアア!!!!!!!!!!!』
憤怒の咆哮。
竜は翼を広げて跳ねるように飛び、右腕を突き刺すように拳へ。
インパクトの瞬間。
爆発するような衝撃と共に巨人が割れ、粉のように崩れる。
同時にビリリとした痛みと共に、
一瞬だけ魔力供与の接続が途切れる。
「魔力妨害.....」
残ったのは俺の身体に貯蓄された分の魔力。
俺は着地点へ割れるような土の板を四枚創る。
「もう一枚です。」
「うん。」
五枚目。
脚がひしゃげないことを祈りながら、
空中で猫のように姿勢を制御し、
背中から足、
胴体、
両腕、
全てを脱力して目を瞑る。
「ふぅ.....」
――――――――
その日はずっと、眉毛が逆ハノ字であった。
「例えば、『砂塵よ、去れ。』土精霊の願書魔法が名詞と動詞だけなのに対して、この魔法は”攻撃的な形容詞”を付けることが出来る。『砂塵よ、切り裂くほどに、吹け。』と唱えれば、対象の皮膚をボロボロに出来るわね。」
「なるほど。」
ダンジョンコアの中で、
俺はその魔法を教わっていた。
いつにもまして、真剣なその顔を見ながら。
「つまりはスペル・グノームスのストックを一つだけ解放するの。イメージとしては今まで2枠だったストックに1枠を足して、適合するような攻撃的な形容詞を当てはめる。基本はスペル・グノームスと同じね。願ったものを叶えてくれる。それ故に難しいのが魔力コントロール。例えば、ちょっと岩石を飛ばすつもりが、自分の想定を大きく超える程の速度が出ることがある。そうなれば、自身の魔力がすっからかんになるどころか、壁を壊したり、物を壊したり、想定をしていない誰かを殺めてしまったりする可能性がある。だからこそ、この魔法を使う時の条件を設けることにする。」
「条件?」
ルタルちゃんは頷いて壁に文字を刻む。
本人曰く、達筆らしい。
――其の一、人に非ず。
「そのいち。人に対しては使わない。ヒト前で使うのも基本は避けて。」
「はい質問。」
キューちゃんが手を上げる。
「なによ。」
「精霊に対しては使っていいのですか?」
「――いや使わないけどね?!」
「別に良いわ。でも殺されると思うから、賢明じゃないわね。」
「だそうです。」
「え、なんで俺の怨み節を代弁してやりましたみたいな顔してんの?全然不満とか無いからね??感謝しかないからね??」
「なんでルタル様に使う話してんですか.....?」
「は、嵌められた.....」
――其の二、必死。
「そのに。使わなければ必ず死ぬ場面。そういう窮地であること。またそれを見越している場面であること。」
「これは割と自己判断だな。」
「ここからは全部そうよ。」
――其の三、善行に非ず。
――其の四、悪行に非ず。
「そのさん。善い事のために使わない。そのよん。悪い事のために使わない。」
「む.....難しい。急に。悪い行いはもちろんですけど、良い行いのためにも使っちゃダメなの?」
そう言うと。
ルタルちゃんは腕を組み、
俺を見下すように笑って言った。
「善悪なんて考えて迷っている内は、使っちゃダメってことよ。」
「うーん?」
ルタルちゃんは、そこから深くは語らずに、
ただその日から、
ダンジョンコアの壁面にはその四カ条が刻まれていて、毎日その言葉について考えていた。
――――――――――――
「ふぅ......」
なるほど。
とかく今は、この状況が善悪でない事だけは分かる。
強いて言うなら、
これは”摂理”だ。
捕食者、生産者、分解者。
食物連鎖。
生態ピラミッド。
今俺は、
いわゆる自然の法則の、
そのど真ん中で殺し合っている。
これに善悪を付けようものなら、
世界はきっと病んでいる。
「――直面必死、善悪ヒトナシ。能力解放。」
俺はおまじないを呟き、目を開く。
身体は下へ落ち、
風は上向きに吹いている。
飛び跳ねた竜とは高さが入れ替わり、
下から上へ目線を上げる。
これが俺の四年間。
「やっちゃえ、マスター。」
『シグマ・グ・ノームス。』
【土精霊の願書式魔(シグマ・グノームス)】
系統:固有魔法系・自然魔法
等級:B~SS級
属性:①土魔
②物理
詳細:(攻撃性の高い土魔法一般の願いを叶える詠唱必須魔法。元は土の精霊グノームの固有魔法だが、人間でも扱えるように研究された成果物。
その一撃は竜をも殺し得る。)
サイズは歩行者用信号機。
そんな岩石へ杖からの指示を当て、
竜のいる進行方向へ下手投げの要領で杖を振るう。
――バァアアアアアンッ!!!
刹那。
耳が張り裂けそうな爆破音。
射出先、世界に一つ穴が開く。
TIPS
・戦式魔術
『イーステンでは式魔と略されるこの言葉。ウェスティリア側がその概念を輸入した形であり、シグマはウェスティリア側のただの訛りである。式魔とシグマの発音割合は大陸総てで50:50。』




