寮長教授
「……の名前は、オルテガ・オースティック。ウェスティリア魔術学院の寮長教授。あーつまり、魔法学校の、教師をしている者です。いいですか?この声が届いているのか分かりませんから、こちらも一方送信を繰り返させていただき・・・・」
――勝ちパターン☆キタァ!!
「キューちゃん。繋いで!発信源に繋いで!!」
「了解しました。入力デバイスMC1」
ディスプレイに映るメーターの値が左端の緑から右端の赤まで、ギュィイイインと伸びる。
さらば地下生活。
さらば土の寝床。
『コチラ五歳児のタンテ・トシカ、聞こえますか!聞こえますか!単刀直入に言います。至急救助をお願い致します!!こちらウェスティリア魔術学院の地下です!!』
「五歳児....」
横目でルタルちゃんがぼやく。
マイクには乗らない程度の音量。
そして彼女は「ねぇ」と呟き、俺の服を掴む。
分かっている。
ダンジョンコア(ここ)のことは部外者には秘匿する。
「ほう・・・悪戯ではない。それでは、こちらも単刀直入に話します。思い当たる節があるのでね。」
オルテガと名乗る人物は少々驚いたような間を置いたが、すかさず返す刀に声を乗せる。
「貴方を迷宮へ送ったのは私の指示です。」
いきなりのサプライズマザーファッ――
「は、はぁああああ???????」
「タンテ様、通信が高魔力反応によって妨害されています。」
「えぇ、なんで??」
「原因不明、長くは持ちません。」
あっちからこっちへと問題が大雪のように積もり始める。物語が動く瞬間とは往々にして慌ただしいものなのだろう。This is the story of my life, ワンダイレクションも腰を抜かしてしまうほどの......あぁ、考えろ。集中しろ。頭が追い付かない。
高揚と焦りと疑念が脳を駆け巡る。
「それ、竜ですよ。アナタ方と連絡が途絶えて以降、我々は救難隊を派遣しています。しかし、それを幾度となく返り討ちにしてきた存在がいま、アナタの頭上に居るのです。この通信を阻もうとするのも彼の魔力です。」
オルテガは易々と答えを言う。
「な、る、ほ、ど....」
「なるほどー。考え難いですが、本当にあの赤子のようですね。気難しいグノームにでも助けられましたか?」
「――ギクッ。」
ルタルちゃんは肩を動かして声を漏らす。
動揺が顔に出ています。
「だっ!な、なんにせよ、育児放棄した手前助けてもらわないと……世間が許してくれあせんと思いますけどね!!」
焦っているのか俺も。
焦った拍子に舌が暴れている。
焦っているのだろう俺。
焦っていたのか俺。
「つーか教師がそんなことやっていいのかよ!!」
どうだ。真っ当な質問。
「いいえ良くは無いでしょうね。平時では。しかし今は、誰しもが選択を迫られている。そうですね。......きっと四年後。もし四年後までに、仮称レイヤーボス:【バハムート・ルイン】(....我々の呼び名ですが。)を打ちのめし、ダンジョンを生きて脱出出来たのならば、ウェスティリア魔術学院への推薦入学を確約しましょう。そうすればゆっくりとお話が出来る。」
俺は一応指を折って数える。
「四年後ってことは……」
「九歳ね。」
「マスター。キューサイだなんて、とってもいい感じですね。どこか理知的で美しい響きです。」
「いやいやいやいや!!なんで大の大人が幾度となく返り討ちにされた【バハムート】とかいう色んなゲームのラスボスみたいな名前のやつに九、歳、児、が勝てると思ってるワケ?!そんな裏ルートの入学試験なんてどうでもいいから!!この哀れで可愛くて小さな五歳児を普通に!人道的に!倫理的に?!助けてもらっていいですかァ?!」
「ふふ。そうでしょうか?」
――なにワロてんねんコイツ……
オルテガは砂嵐が増している通信に、穏やかな口調で声を乗せる。
随分とまぁ、余裕そうに。
「学校とは知識の社です。それはつまり、自分を知る場でもある。アナタは知りたがっているはずです。自分が何者なのか、一体どうして生まれたのか。」
「それは........」
「地上にはあります。アナタが知りたがっていること、アナタが知らない事。この世界の形、この世界の色、多彩な魔法、多くの出会い。その知識。その術が。」
「でも竜が!!」
「貴方なら出来ます。」
俺はその時、確信する。
オルテガは……
コイツは、俺に関する何かを知っている。
「めっちゃ小さいってオチじゃないよね?」
「はい。めっちゃデカいです。」
――ぐぬぬ。。。さらば、レッドデス路線。
「接続不安定、タンテ様。」
くそ。
一体何故。
その確信は何処から?
どうして俺をダンジョンへ送った?
俺の存在理由は。
知りたい知識。
新たな魔法。
新たな景色。
師匠の居場所。
地上の匂い。
地上の味。
「知りたいのでしょう?」
オルテガ・オースティック
この人はきっと、識っている。
『分かったァ!!やってやりますよ、そこまで言うのなら!!柔な大人の助けなんていりませんよ!!そのバハムートなんちゃらぶっ倒して、ダンジョンに風穴開けて這い出てやるから!!」
乱れた通信が言葉の輪郭を曖昧にさせる。
聞こえてくるのはオルテガの穏やかな笑い声。
「ふふ……(――バリバリ……)その意気です。」
そして。
「では、四年後までに……(――ドゴォオン!!!)」
スピーカーから聞こえた、衝撃的な爆発音。
「通信遮断。録音を停止します。タンテ様?」
「えぇ、……いま死んだ?」
「分かりませんが、音の波形から解析するに発信源では甚大な被害があったと思われ……」
「いー、いい、聞きたくない!聞きたくない!というか、どうなってんの地上。ルタルちゃん?」
「知らないわよ。友達いないもん。」
引きニートめ。
「いやほら、地上の様子とか目視で確認できたり....?」
「この上は川と湖よ。あと森と城の外壁。あと、地上って眩しいから嫌い。私は地上が嫌いだけど、きっと地上も私のことが嫌いなのよ。」
「あの、明順応って言葉がありまして……」
「それは、少々おかしいです。ルタル様。」
「なによー?」
キューちゃんはその言葉へ返すように視線をディスプレイへ誘導する。そこには現在地らしき赤い点滅と、お城の中まで通じるダンジョンの全体像が記された簡易的な2Dの地図が映っていた。
「前々から気にはなっていましたが、第一層の地下空間にはデータの解析が出来ないゾーンがあります。」
「知らないわよ。他の精霊さんが管轄してるんじゃないの?」
「お聞きになられたのですか?」
「尋ねたことは無いわ。でも常識的に?」
「いいえ。この付近は神聖なるケセラ・グノームが支配領地。他の精霊は近付きすらしないのです。微精霊に伺ったことも?」
「無い、です。」
キューちゃんは眉をハの字にして一言コメント。
「度が過ぎるシャイですね。」
俺も付け加える。
「陰キャだ。」
「うっ、....せぃ。」
声ちっちゃ。
「というか城の真下でしょ?あ、あそこは認識してるわよ。崩落したんじゃないの?崩落して解析不能。廃ダンジョンが進行したから。」
ルタルちゃんは少々怒ったように、
顔を赤らめて言った。
「廃ダンジョン化はコアの死んだ深層から進んでいきます。コアがまだ生きている、それも一番冒険者に近い【第一層】から制御が外れることは通常有り得ません。やはり自称ダンジョンマスターですね。仮称にしておきますか、レイヤーボスみたいに。なんつってな。」
氷水の様な説明を浴び、
爆発しそうなルタルちゃんの顔が震える。
ぷるぷると。
「へ、へー……」
こ、堪えた。
「学んだわ。いま。」
大人だ。
やっぱり大人だ。
「まあでも、それってつまり。つまり、そこにいるのよね。」
ルタルちゃんはマップに映し出されたその空間へ指をさす。
城の真下からやや西に位置した、一際大きい、胃袋の様な空間へ。
その場所を見つめるキューちゃんは、
少し黙ってコクリと頷く。
「えぇ。何故だか......我々ダンジョン管理者の制御から外れた謎の存在、仮称【バハムート・ルイン】なる竜は、崩壊した第一層『旧:巨人牢』に居ると思われます。」
確かな言葉が土塊に響く。
頭上では、きっと静かな大竜が、
決戦の日を待ち望む。
{ダンジョンステータス}
内部コア(搭載OS:Que Sera Artificial Intelligence)
研究レベル:1
DP :30
MP :160
RP :100
タイプ:多層城地下型
構 成:全6層
状 態:農家ダンジョン ←New!!、???
称 号:???
危険度:レベル1(G級)
TIPS
・ウェスティリア城
『ウェスティリアの首都。その要所として長年、王様が鎮座してきたウェスティリア城には{地下牢獄}が存在した。それが現在のウェスティリア魔術学院・地下ダンジョンの第二層に大体が位置している。例外としては巨人等の大型生物を収監してきた{巨人牢}が第一層と空間を折半する形で広がっている。また当時の看守であった魔法騎士らは、ウェスティリア城付きの格が高い存在であったために、第一層には魔法騎士用の研究部屋や小さい地下図書館が散見され、当時の魔法騎士らの階級が如何に高待遇であったか等、その歴史が伺える。一方、第三層に位置する{地下教会}はその歴史が曖昧である。古くからウェスティリアの文化的側面を支えた偉大な建造物であることは確かだが、時系列的に不明なことが多く、巨大な【オーパーツ】の様な扱いを受けている。』




