ダンジョン創りには『S.A.Y』がいる。
「ところでダンジョンコア、あなたの名前はなんて呼べばいいの。」
その言葉にダンジョンコアは
耳をピクリと動かして答える。
「質問を検知。......機密レベル3......嘘、レベル....1。」
なんで一回、嘘ついた?
「先代マスターにはメイドたんと呼ばれていましたので、嫌になって300年間くらい口を利きませんでしたが、それはそれで興奮なさっていました。」
「うわぁ」
「業が深いわ。お祖父ちゃん。」
「初代ダンジョンマスターからは、Que Sera Artificial Intelligence......Q.S.A.Iの頭文字をとって【クサァイ】と笑いながら貶され......、呼ばれていました。....クソが」
おぉ......キレた。
コイツ本当に機械か?
彼女は地面を蹴ると、
明確に怪訝な顔をした。
しかしなるほど、
又と無い反撃のチャンスだ。
クックックッ......w
泣かせてやるよ~、女子ぃ!!
俺は教室の旧友へ声を掛けるように
高校デビューしたてのアイツに見立てて
さも合意が形成されていたかのように
そして少し懐かしむように
彼女の名前を淡白に呼んだ。
「じゃあよろしくクサイちゃん。」
『いや。可哀想だぜ、流石に。』
ががが、学級委員長キター。
「えっ、えっ!......ルタルちゃん。ちょっと待ってくださいよ。散々煽られたからちょっとは......1ターンくらいは反撃したっていいじゃない......」
「私は気にしてないもの。......だから争いが絶えないのよ、人間は。」
「ぐぬぬ。的を射ている。」
ルタルちゃんは頬杖をつきながら
溜息を一吐きして俺を見る。
「悪意があったのなら、ちゃんと彼女に謝って。」
「すみませんでしたァ――!!」
くそう、精霊って全員こうなのか?
自分が嫌いになってくる。
たしかに......
俺達人間は些細な事を根に持ち、
21世紀を越えてまで過去を遡り争ってきた。
彼の聖☆おにいさんの片割れも言っていた。
『汝の敵を愛せよ。』
今一度自分の心を顧みよう。
単調な怒りに、身を任せてはいけないのだ。
「じゃあ、Qから取って......クイーンちゃん。とか?」
ルタルちゃんは少し首を傾げて
高飛車な名前を捻り出した。
「了解しました。それでは、これからは私のことをクイーンと呼んで..... お呼びなさい!このメス豚!!」
しなるムチ。
土の精霊は頬に赤いミミズ腫れをつくる。
しかし彼女は仏のような笑顔を崩すことなく、
今日も我が子を優しく見守る聖母かのように――
「テメェ――!!有機物として処理層にブチ込んでマジで臭いAIにし......」
「ストップッ!!ストップ!!ノーウォー!!ノーウォー!!」
今日も下界は争いが絶えない。
「そういえば、こんなVer有ったな......‼」
俺は女王様へ飛びかかろうとするルタルちゃんを
既のところでガッチリ抑える。
・
・
・
「改めまして、私たちを救ってくれるかもしれないダンジョンコアの小人。この廃ダンジョンを復興させる光明、救済ちゃん。呼ぶときは、キューちゃんと呼ぶわ。」
キューちゃんは無表情のまま少し考えるように間を取り、口を開いた。
「おまえ、好き。」
「ふふん。」
ルタルちゃんは満足気に笑う。
――――――――――――
閑話休題。
ダンジョンコアにおける重大な秘密とは
メインコア、サブコアという概念である。
俺達はこれらの認識を明確に間違えていた。
というか、そもそも、この秘密。
ルタルちゃんが知らないのも当然で、
通常ダンジョンマスター界隈で呼ばれるコアとは、
ダンジョンを制御し運営する
『精霊の居住区』という認識だった。
しかし我らがQSAIの言うところでは、
ここはダンジョンのメインコアであり、
自分はその内部コアで、
この丸い部屋自体を外部コアと言うそうだ。
また、このダンジョンでは4層から6層を【深層】と区分けしており、それを制御する【深層コア】と呼ばれるサブコアが複数存在している。
「さぁ、ルタルちゃんの~?楽しい....?楽しい....‼ 概要コ~ナ~......(小声)」
「え?なに今の。」
唐突な発作か?
一人二役?
「......うっさいわね。ボッチだった時の慣習よ。次から『楽しい....!』の部分をレスポンスしなさい。しないなら心の中で呟くわ。そしてもっと小声で言うから。」
「あぁ。分かりました。」
キューちゃんより諸々の説明と
一通りのエピソードを聞いたところで、
ルタルちゃんは謎のコールをしたのち、
土の地面にイラスト付きのまとめを記してくれた。
☆ ☆ ☆
【ルタルちゃんの~?(楽しい‼)概要コーナー】
1000年前 大きなお城が誕生。その地下に巨大牢獄や、王様専用の秘密の脱出口が作られる。
・カナビ狂王の独裁時代など。圧政。
|
800年前 市民革命
・お城が魔術学院になる。
・魔術学院の4大寮に革命家たちの名前が冠する。
・その中の1人が【ケセラ・グノーム】
|
700年前 お城の地下がダンジョン化
・モンスターなどの無法地帯に......
|
600年前 初代ダンジョンマスター誕生
・空白の100年間と呼ばれている。
・Que Sera Artificial Intelligence誕生
メインコア 内部コア(外部コアの管理統制)
外部コア(活動計測、分析、計算、記憶装置)
①第1層から第3層までの情報収集と
②ダンジョン全層のコア管理が可能。
サブコア 深層コア
①役割:深層にある外部コア
②第4層から第6層までの情報収集をしている?
③メインコアとの情報伝達が可能。
|
500年前 二代目ダンジョンマスター誕生(わたしの祖父)
・シルバ・グノーム
・パクス=ドミナス / 400年間の繁栄期
・配備されたダンジョンコアシステムを活用??
|
100年前 三代目ダンジョンマスター誕生 (わたし)
・それを知らなくて衰退??
・20年後崩壊
・80年後までニート。
|
現在
☆ ☆ ☆
「なるほど。あのスケベオヤジのお孫様でしたか。」
「げ。スケベなの?」
ルタルちゃんは目を細めて少々身構える。
「二代目のシルバ・グノーム様は下半身以外は理知的であらせられました。300年間、私は彼を無視してきましたが、天才すぎて普通に繁栄しました。流石ケセラ・グノームさまの一番弟子です。ちなみにイモムシ型のモンスターを1人で致す用の......」
「――やめてッ!!やめてッ!!」
俺は声を張り上げる。
墓場で見ているだろうか、シルバ・グノーム。
俺は貴方の名誉のために立ち上がるよ。
そして絶対に『秘☆密』を守ってみせる。
「――うん?」
「やめてあげてッ......!!は、 破損させといてッ。それか機密レベルを捻り上げて、奈落の底まで封印してッ!!」
「分かりました。深層コアへ、ピピピ......一方送信。機密レベル7。フォルダ名【爺の玩具について。】」
「おい、待とうぜ。ちょっと不名誉ハミ出てんぜ、それ。」
「うーん。......やっぱりね。」
......やっぱりスケベ爺だった⁈
「いや、それはお祖父さんの一側面で合って......もっと多角的に!」
――Que Sera Artificial Intelligence.
俺の懸念とは裏腹に、
ルタルちゃんはその文字列を見ながら
真剣な眼差しで頷く。
「やっぱり。初代ダンジョンマスター、そしてあなたの生みの親は、【ケセラ・グノーム】なのね。」
「機密レベル3......ピピピ。まぁ...そうです。ダンジョンマスター(もどき)。えぇ、私も合点がいきました。それでアナタは三代目を名乗っている。」
「私を三代目と認める気になった?」
ルタルちゃんは上目でそう聞いた。
キーボードの上のキューちゃんも
潔く首を縦に振る。
「えぇ。なりました。......しかしシステム的には、人間:タンテ・トシカ様の魔法で起動しましたので、ルタル様は四代目となるか、三代目補佐という扱いになります。」
「むっ。それは、なんとか三代目にして。」
彼女と3年間居て、気付いたことがある。
ルタルちゃんは基本的に何処か達観していて、文字通りに人間離れした、俗に言う聖人っぽい一面もあるが、ことダンジョンマスターという肩書になるとムキになりがち。
地雷、撒きがち。
「であれば、機能を停止した残りの深層コアの起動をルタル様が行えば、システム的に半分はダンジョンマスターという扱いに出来そうです。ですがそのためには、地上との出入口を開通させ、言わばこの場所が呼吸をするように、言わばこのダンジョンが食事をするように、ダンジョンに魔素を巡らせ、蘇らせる必要があります。」
「なーんだ。じゃー、ぼちぼち?そこの二人で頑張る感じで?」
「そしてその間にタンテ様と死別すれば、三代目死去となり、どう足掻いても”四代目”ということになりま」
「――えぇ!? 困った時の養分に......?」
「成りません。もしも三代目の名に拘るのなら......」
「全面協力するわ。ダンジョンマスターとしてッ!!」
手の平、ドリル過ぎるでしょ。
さすが土の精霊。
そのドリルで洞窟掘ってる間に、
自分の倫理観とかも削り取っちゃったのかな?
......あと、俺が死んでもトイレに入れそう。
「何よ卑屈な目して。アンタも頑張りなさい。」
「はい、頑張ります...... 哀しき化物、イモムシ・イーターとして。しかし、ルタルちゃんは大規模な魔法を使うだけのマナが無いし、今の俺にも廃ダンジョンを三層分も開通させるだけの力があるとは思えない。そもそも道が険しいし。やっぱり地上に出るには、ルタルちゃんもイモムシ食うしか......」
「却下。」
ルタルちゃんは盛大なバツ印を胸の前に出す。
マジで美味しいのに。
見た目だけで敬遠する食べず嫌いさん。
人生、損してますよ。
「オナホは無理。」
「う~ん。ごめん☆」
俺は土塊の天を見上げて謝罪する。
遠くから先代の泣き声が聞こえた気がしたが、
そんなものは置いといて、
俺達は頭を捻って考える。
――いや、俺のは〇ナホじゃないけどね????
するとルタルちゃんは「あっ」と声を出し
キューちゃんへ指を差した。
「アンタ!!お祖父ちゃんのビデオレターの内容、知ってるんじゃないの?!」
「知りません。口利いてません。」
即答。
バッサリと。
斬り捨てるような。
・
・
・
「なるほど。先代様から送られた映像に破損が生じていたと。『ダンジョンづく※△〇✕・・・Say⤴』......心当たりはあります。」
「嘘!? ――300年フルシカトで?」
意外過ぎる。
「意外ですか?タンテ様。」
「はい、意外です。」
メッチャ心を読まれた。
マジで機械ですか?
「セクハラじじいを無視してきた事は確かですが、コアシステムを利用した解析やデータ収集は、そしてその共有は当然に行ってきました。そんな状態で100年が過ぎた頃。北のグノーム{名称不明}様が、シルバ様にアドバイスを求められたことがありました。その折、彼らはお互いの情報を共有しつつ、一つの標語を創られました。そしてその標語は今現在におかれましても、広く一般的なダンジョン創りの基本として知られています。」
「知ってる?」
「知らないわ......」
ルタルちゃんは首を横に振る。
「それではダンジョン創りの基礎知識を交えてお話申し上げます。300年前に生み出されたこの標語はダンジョンの領域化について、話し合われたものとなります。領域化とはすなわち、空地を有効活用し、モンスターハウスなりトラップハウスなりに定めてその場所に意味をもたらす行為。領域なくしては、ダンジョンはただの洞窟と成り果てます。そしてその領域化において重要な要素は3つ。1つ目は空地、2つ目と3つ目は資源と養分です。」
「資源と養分は同じじゃないの?」
「同じです。内部コアのデータにおいても、グノームの解析能力を用いても、これら2つは”同じもの”であると認識されています。しかし【ゾーンを創ること】を考える上では、養分は資源足り得ず、資源は養分足り得ません。一括りにリソースと称するには雑味があるとシルバ様は結論付けています。私が人間の食料では動かないのと同じですね。」
「うーん。」
ルタルちゃんは難しいと言った顔をする。
俺にとっては当たり前に感じる話である。
リソースには石油や天然ガスなどの資源リソースもあれば、
それこそ労働者にだって人的リソースという名前が与えられる。
しかし、この問題は簡単に見下せる話ではなく
グノームの解析能力、感覚的な価値観では、
そこには確かな齟齬が生じているらしい。
母国に無い言語や文化を説明するのが難しいように。
おおよそ100年分の固定観念は、拭い難いのだろう。
「シルバ様曰く。これらの性質、違いの区分けや活用方法をグノームらしく、識別し、アイデアを出し、やる気で解決する。適切なリソース量を/適切な活用方法で/適切な広さの空地に収めることが、ダンジョンマスターには重要である。と。ルタル様、タンテ様、エムネム文字を思い出してください。そしてこれらの頭文字を当てはめてみましょう。空地は(A)、資源は(S)養分(Y)......そして識別能力が(S)、アイデアは(A)、やる気(Y)。」
資源・空地・養分
識別・アイデア・やる気
「まさか......」
キューちゃんは、両手を広げて腕を伸ばす。
奇しくもその姿は先代が見せたワンシーンに重なった。
「これらをまとめて、――ダンジョン創りの『SAY』と呼びます。」
「ダンジョン創りには....SAYがいる。」
俺達は言葉を失う。
パズルをハメた達成感の為か。
それとも、
反論の余地を咀嚼する為か。
とかく。
そこには光明が、垂れた気がした。
「さぁ....創めましょう。人間と精霊の、我がマスター。」
・
・
・
――いや。アイデアは、Iなのでは......?(idea)
{ダンジョンステータス}
内部コア(搭載OS:Que Sera Artificial Intelligence)
DP :0
MP :55
RP :20
タイプ:多層城地下型
構 成:全6層
状 態:廃ダンジョン、???
称 号:???
危険度:レベル1(G級)




