ダンジョン作りにはSayがいる!!
貴女を愛しているわけじゃなかった。
いや、本当は愛していたのかもしれない。
愛なんてものを僕は知らない。
とかく、僕は貴女が好きだった。
貴女が好きだから、諦めたく無かった。
暗闇の中で脳みそが揺れている。
その後に襲う途方もない脱力。
僕は貴女が好きだった。
探偵として、師匠として。
そしてなによりも、友人として。
――――――――
スリーピーグロウに手を伸ばし、周りの岩を魔法で削り取った。大変に繊細な作業で、俺は魔力が尽きると共に全身の脱力と浮遊感に襲われた。そして背中へ衝撃が走る。脳が揺れる。意識が戻る。その過程の間には途方もない時間が流れている。ここに何時間いたのだろうか、することもないからあなたのことを考える。いつも想っている。また会いたい。話をしたい。笑い合いたい。愚痴を聞きたい。教えてもらいたい。教えてあげたい。
ここで死ぬのか。
――おい、助手。おい、起きろ。
「おい、起きろ。君。」
スリーピーグロウを持った俺の前には、ルタルちゃんがいた。
「.....そういえば、名前聞いてなかったな。」
俺は助かったという安堵と、
朦朧とする頭の中で言葉を捻り出す。
「名前。.....忘れました。」
透過を利用したエレベーターと、
石造りの滑車による運搬。
必要最低限の魔力消費で、
俺はコアへと運ばれる。
「ドラマグラ(自分を転生してきたとのたまう、頭のオカシイ人たちの総称。)症候群と呼ばれていて、前世の記憶が薄れていくの。だから些細な事でも憶えておきたいことは書き記しておくといい。特に、固有名詞や自宅への帰り方なんかは忘れちゃうらしいわ。」
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「詳しいんですね。」
「長生きしてれば知識はつくものよ。」
「ニートなのに。」
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「モラトリアムのこと?君と出会ってから終了したけど。」
ルタルちゃんと接していて分かったことがある。
彼女は結構、器がデカい。
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「ケガはもう大丈夫そう?」
「流血はありません。少し痛む箇所はあるけど、折れてる感じも無いし大丈夫です。」
曖昧な視界がやがて鮮明になっていく。
頭の痛みも収まっていき、
目の前で躍起になっているルタルちゃんの顔が、ハッキリと視界に映る。
「そう。なら、始めるわよ。」
ルタルちゃんは早速スリーピーグロウをアカムレーターへセットした。
「君が動けって指示を魔法で出して。アカムレーターでスリーピーグロウを振動させるの。」
「分かりました。」
俺は杖を取り出し、自分で作った階段の上に登る。
見えてくるキーボードに電池、画面、スピーカー。
戻した体力を振り絞り、魔力を込める。
「スペル・グノームス。」
――カァーッ、カタカタカタ・・・!!
振動音が鳴りアカムレーターが震える。
檻のような見た目をしたそれの中で、
スリーピーグロウは目を覚ましたように、
中心部から発する淡い光を
次第に強くしていく。
――グワングワングワングワン。
内部機構が何かの音を出し始め、
その音が次第に激しさを増し、
ピークでディスプレイの前の土の机が、レンガ状にバラバラと固まり外側へ転がる。全体としてはアカムレーターを中心に観音開きに開いていくように。機構が広がる。
「うぉおおおおおおおおお!!」
ルタルちゃんが俺の服を掴み、背中越しにチラリと覗き込む。
「おー。」
目の前に現れる巨大コンピューターのようなとんでも機械を目の前にし、俺達の期待が高まる。
それはまるで地下制御室にある制御機構のような迫力。キーボードの周りには埋まっていた新たなボタンやらレバーやらが顔を出し、ディスプレイの量も4枚ほど増えた。
「ん?」
俺は黒画面に現れた文字を見る。
――警告‐健康と安全のために
ご使用の前に取扱説明書の「安全に使用し
ていただくために.....」をお読みください。
ここには、あなたの健康と安全のための
大切な内容が書かれています。
この内容はホームページでも見ることができます。
www.nintendo.co.jp/anzen/
続けるにはAボタンを押してください。A
「なに、このデジャヴ。」
「さぁっ、歌いましょ~⤴」
ルタルちゃんは急に、バランスの崩壊したような高い声を出す。
「うわっ、なに?!」
「Aー。あっ、これだ。」
――ポチッ。
「あぁ、押しちゃったよ。」
ここまで大掛かりな機械である。
俺は衝撃に備えるよう、少し身構える。
――ポッポロンポン、フォンフォンフォンフォン、.....テレテレテレテレ♪
「な、何!?――この吸い込まれそうな淡い音は!!」
――起動音。メチャクチャWiiU!!!!!
画面が移り変わり、見知らぬ小人のオジサンが途切れ途切れの砂嵐の中で顔を出す。
「お、お祖父ちゃん?!」
「知り合いなんですか?」
「せせせ、先代のダンジョンマスターよ。ココの!!」
「マジですか!!」
――プツ.....ツーッ。ブツ。――ビビィッー.....ルタル。
「お祖父ちゃん!!」
画面の老人は喋り出す。
――『ルタルや、久しぶり。これを見てる頃....ワシはもう大地......とっ......底から見守っている頃じゃろう。......であるが死......ま......、次期ダンジョンマスターのお......、ワシが学んできたすべてを託そうと思う。といっても、大切なことはたった一つ......』
「何言ってんだ。.....聞き取りづらい。」
「お祖父ちゃんが残してくれたビデオレターだわ......それも、ダンジョンマスターとしての。もしかして、私のダンジョン経営がうまくいかなかったのも、何か理由があるのかも。.....聞かせてお祖父ちゃん。このダメダメな孫娘に、最後のチャンスを.....ダンジョンマスターとして、ダンジョン作りに必要な事を!!」
俺も口をつぐみ、
ルタルちゃん同様
一心に聞き耳を立てる。
その老人の眼差しは優しかった。
――『ルタル.....お前には今まで沢山のことを教えてきたが。忘れっぽいお前のために、今日はお祖父ちゃんが改めて、ダンジョン作りに置いて”特に”大切なことを.....【直接!!】教えてやろうと思う。』
岩田社長.....?
老人は興奮したように瞳孔を開く。
ルタルちゃんは目を輝かせて両手を握り込む。
「お、教えてお祖父ちゃん。」
――『でぇ~、昔メタセコイア並木に.....ピ~ガァ~。――ガガッ!!』
「お祖父ちゃん?!」
画面と音声の乱れが激しさを増す。
破損があるのか.....?
――『だったのじゃ.....ワシは気付いた、なんてことを忘れていたのだろうと。そう。そう、そう、そう、そ、そう。つま.....sれこそが!!長年のダンジョn.....で得た答えじゃった!!ワシらグノームとして、そっ.....ダンジョンマ.....ター.....て最も重要な事を.....是非忘れんで欲しい!!そして声を上げて復唱するのだ、ルタルよ!!』
「はいっ、復唱....!!」
ルタルちゃんは返事をして息を呑む。
画面に映る老人は興奮したように呼吸を荒くし、
手を広げて、一語一語大切に声を張った。
『ダンジョンづく※△〇✕・・・Say⤴がいる!!――バツン。』
「お祖父ちゃぁあああああん!!!」
真っ暗な画面の前で、
ルタルちゃんは泣き崩れる。
そしてすかさず俺の服を引っ張った。
「聞こえてた??ねえ、聞こえてた?!」
「いや.....ダンジョンごちゃごちゃ、SAY⤴としか。」
「お祖父ちゃぁあああああ???」
――Que Sera Artificial Intelligence
ダンジョンコア起動。
ピィ―、ガッガッガッガ。
ロ、ロローディング。
ローディング。
ローディング。
ローディング。
ダンジョンマスター認証。種族:人間
現在の状況。
{ダンジョンステータス}
DP(ダンジョンポイント) :0
MP(モンスターポイント) :55
「誰よアンタ、こんな時に!!」
――質問を検知。
エラー。
現在の状況。
RP(リソースポイント) :20
タイプ:多層城地下型
構 成:全6層
状 態:廃ダンジョン、???
称 号:???
危険度:レベル1(G級)
地上までの複数崩落を確認。
動線消滅。
エラー。
深層コア|Access Denied(アクセス拒否)
エラー。
エラー。
マスターヒューマン。
『ダンジョンマスター。あなたの名前は?』
浮かび上がったアカムレーターが
小さい「心臓」へと変わり、
そこから肉体が形成され20cm台の小人が姿を現した。
彼女はジトっとした目と
機械的な喋り方で俺達へ語り掛ける。
「ぐ.....ルタルよ。ルタル・グノーム。」
『あなたではありません。そっち。』
「あぁ俺?俺は、名前は、探偵助手としか.....思い出せなくて.....」
『認証。タンテ・ジョシュ・トシカ.....ミドルネームを検知。』
「あれ。」
『タンテ・トシカ、我がマスター。
私はダンジョンコア。
地上に出る為にはダンジョンマスターとして
欲深い冒険者を誘い込みマナと活力で満たし
死んだこのダンジョンを”蘇らせて”ください。』
俺はルタルちゃんの顔を見る。
基本、器は大きいが。今日は顔が真っ赤。
「んんん。んー!!」
ややこしくなってきた。
{ダンジョンステータス}
内部コア
DP(ダンジョンポイント) :0 -15(タンテ救出時、ルタル魔力使用)
MP(モンスターポイント) :55
RP(リソースポイント) :20
タイプ:多層城地下型
構 成:全6層
状 態:廃ダンジョン、???
称 号:???
危険度:レベル1(G級)
TIPS
・ドラマグラ
『小説{ドラマグラ}に出てくる魔法世界とは異なるファンタジー世界。そこでは魔素の影響を考慮しない技術を用いて、月まで飛行したり、ドラゴンのような機械に乗って空を高速で飛び回ったり、膨大なエネルギーを生み出す原子力発電や、壊滅的な破壊力を持つ”水素爆弾”を開発出来たりするらしい。またドラマグラとは、そんなファンタジー世界に影響され、前世はそんな世界に居たと主張する頭のオカシイ人たちの総称である。またドラマグラには転生型と転移型がおり、どちらの召喚も転生の儀式と同じ”禁忌魔術”として、発動者は死刑相当の罪となる。相違点として転生型のドラマグラは、転移型よりもドラマグラ世界の解像度が低い(忘れたと主張する)人や一人称があやふやになることが多い傾向にある。逆に転移型は解像度が高く、身に着けている服や物も質の高いファンメイドが多いと言われているが、どちらも精神疾患がある人として扱われる。』




