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第5話 恋人になりたい

「祐也は学校でいつもあんな感じ?」


 カラカラとストローで飲み物を掻き回しながら、美沙が俺に聞いてきた。


「ああ。楽しくもねえのにヘラヘラしてな」

「そっか……」

「アイツらはクラスで人気なんだ。明るくて面白いからだけだと思うが、陰ではひどいもんだな」

「他の人じゃダメだったの?」

「俺目つき悪いから話しかけてこなかった。アイツらとつるみはじめたら変わったけどな」

「そっか。学校ってさ、小さな社会って感じだよね。そこで1人になるととてつもなく孤独に感じる」

「そうだな。でも、学生の間だけだよな?」

「そうだよ。大学はそんな感じじゃないし、高校が最後だと思う」

「よかった。あと1年くらいだし、大丈夫だ」

「辛い時はいつでも言ってね」

「ありがとな」




 一休みした後、2人で映画を見た。前のようにまたチェーン店で食事を済ませ、それぞれの家へ帰る。




 帰った後も、胸の高鳴りがおさまらなかった。

会えば会うほど好きになって、俺のものになって欲しいという気持ちもどんどん膨らんでいく……。

お前は俺の事、どう思ってるんだ? ただの友達? それとも……



 そんなことを考えながら、1日が終わった。




―――――――――――――――――――――――




 デートの後の初めての平日。







「なあ、他に行きたいとこねえの?」

「他? そうだなー……遊園地に行きたい」

「ディズニー?」

「うん、行ったことないの」

「まじか! 女はよく行くもんだと思ってた。じゃあ行かないとな」

「でも高いじゃん!」

「俺がどれだけ無駄に金を貯めたと思ってるんだ」

「そうなの? 他の使い道は?」

「ねえな。ただ社会経験がしたくてバイトしてるから」

「偉いじゃん。高校生でそんな事考えるなんてねー」

「心はもう大人だし」

「はいは〜い」

「だから、俺が払うからさ。2人で行こうぜ」

「いいの? 本当に?」

「いいって言ったらいいんだよ。ちょうど行きたかったし」

(お前と、な)

「……ありがとう。本当に」



 お前はいつも明るく笑いかけてくれた。でも今日は、どこか特別な笑顔だった。







――――――――――――――――――――



「結構暑いね」

「もう6月だしな」

「うん。……は〜〜! 楽しみ〜!」

「いつにも増して浮かれてんな」

「当たり前じゃん! だってディズニーだよ?! 夢の国だよ?!」

「ふっ、そうだな」

「本当にありがとうね。私のためにここまでしてもらって」

「お前のためじゃねえ。俺が行きたかったんだよ」

「素直じゃないね〜っ」

「うるせえよ。それよりなんで行ったことないんだ? そんなに遠くないだろ」

「うーん……何でだろうね」

「なんだそれ」




 そうして俺達は新幹線に乗って、ディズニーランドに到着した。



「わー!!!! すごい!」

「人が多いな」

「土日だからね! 早く並ぼっ」

「そんな急いだら転けるぞ」

「へへ、ごめん」


 今は昼前だから、結構入口が混んでいる。本当は開演前に並ぶべきなのだろうが、2人とも朝が弱くて無理だった。思った以上に並ぶ人が多かったが、美沙と過ごす時間だからそこまでしんどくなかった。

 ずっと鼻歌を歌って、早く進まないか前を何度も確認する姿が愛らしかった。今日もおそろいみたいに、ストリートファッションで来たのは結構嬉しかったりする。



「やっとだ!」




 ようやく中に入ることが出来た。お腹が空く時間だから、すぐにお揃いのミッキーのカチューシャを買って、昼飯にする。傍から見たらカップルだよな。チケット代と新幹線代は俺が出したが、ここでの買い物はすべて自分が払うと言って聞かなかった。



 2人とも絶叫が苦手だったため、そこまでアトラクションに乗ることはできなかったが、景色を見るだけでも十分だった。ここの世界観は本当に素晴らしい。場所によって違う世界に迷い込んだみたいに、どこに行っても飽きなかった。



「ねえ、チュロス買うけどいる?」

「いる。違う味にしようぜ」

「そうだね! 私はチョコ味がいいんだけど……いい?」

「おっけー、じゃあ俺はプレーンで」

「わかった!」



 チュロスは人気だから、ここも結構並んでるな。それぞれ1本ずつ買って、近くにベンチがちょうどあったからそこに座った。



「ん〜! 美味しい!」

「おお、美味い」

「ねえ、1口あげるからそっちも1口ちょーだい!」

「え?! お、おう」

「美味しい! プレーンもいいね。はい、チョコ食べてみて」

(やべえ! クソ緊張する……)

「ん、うま」

(平常心、平常心……)

「だよね〜! あ〜最高……」



 間接キス……したんだよな? 全然気にしてないじゃねえか。クソ……。ドキドキしてんのは俺だけかよ。他のやつにもこんな事をしてきたのか? 悔しい。




 チュロスを食べた後、行けてなかったエリアに行って写真を撮ってやった。撮られ慣れてないのが分かるくらい、毎回ピースばっかりで可笑しかった。女は皆写真ばっかり気にするもんと思ってた。





 気付けば夕方になっていた。




「ねえ見て、夕方の空。綺麗」

「そうだな」


 お前と見る空は、いつだって特別で美しい。曇りでも、雨でもお前がいればなんだって。今まで景色なんて気にしてこなかったのに、お前のせいで変わってしまったらしい。



「祐也、いつもありがとう。こんなに楽しいの、人生で初めてだよ」

「嬉しいこと言ってくれるじゃねーか」

「ふふ、幸せだなあ」

「好きだ」

「……へ?」

「あ、いや。何でもない」

「……ごめんね?」

「何がだよ」

「私も好きなんだけどね。……付き合えないの」

「は? どういうことだよ! 意味わかんねえ」

「これは私の問題なの。本当にごめん。今は話せない」

「なんだよ……俺の事信頼してくれてんじゃねえのかよ!」

「そんな簡単な問題じゃないの! 私だって……言いたいよ……でも、無理なの!!!!」

「そうかよ……わかった。俺、ずっと待ってるから。話せる時になったら話してくれよ……」

「うん、ごめん。ありがとう、ありがとう……!」




 美沙はただただ泣くばかりだった。初めて見せる美沙の涙は、とても美しかった。





 両想いになった。でも、恋人にはなれなかった。かなしいけど、俺の事を好きでいてくれるだけでも嬉しかった。俺はただ待ってればいい。いつまでも待つから。いつか、打ち明けてくれたら。

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