謁見
謁見
「もう放してくれないかな?マカンヌさん。」
「また逃げちゃうでしょぉ~?」
「もう逃げませんよ、今の私の体じゃマカンヌさんのスピードやその鼻には敵わないから。
それより謁見せにゃ成らないんじゃ正装する必要有るでしょうに。」
「あら、そうねぇ、忘れてたわぁ~。
旦那にせめてマント着せないと~。」
「ふぅん、防具姿でもマント羽織ったらOKなの?」
「ええ、騎士の甲冑でも王の前ではマント付けて居れば良いらしいわ。」
「女性はどうすれば?」
「そうねぇ、私とかプロテクターしてる冒険者だったら同じくマントか、スカーフでも良いらしいわ、後、薬師の人は無垢のローブだったかな?」
ほう、ンじゃ全員分用意出来そうだな。
そんな会話をしながら謁見の列に戻る。
「エリーお疲れ、マカンヌさん凄いね、いつからそんな能力を?」
「フフフ、内緒~。」
「それは良いんだが、お前ら正装はどうするんだ?
カイエンさんはマカンヌさんがマント持ってるらしいからそれでいけるみたいだけど。」
「「「「あ!」」」」
タイタンズ3人とニャンコは揃いも揃って失念してたらしい、ヤッパな。
「んじゃキースはコレ羽織っとけ、マントだ。
この間狩った熊さんが人の真似して羽織ってたやつ、で、猫とザインはこのスカーフな、私がこの間ちょっと可愛いかもと思って買ってあった奴だ。」
「エリー、私は?」
「うん、クリスはさ、聖女枠なので、このローブ着とけ。」
私が聖女に扮した時の白いローブをクリスでも着れるように裾を伸ばして手渡す。
「え、でもこれ私が着ちゃったら、エリーは?」
「私にはこれが有る。」
と言ってストレージから研究用の白衣を取り出して羽織ってみせる。
「これ、良いのかなぁ?」
クリスに突っ込まれた、他の全員も、えーって顔してる。
「私は科学者だからな、科学者の正装はこれだ!」
ドン引きされたが・・・
「まぁ、微妙な気はするけどエリーがそれで良いって言うならそれで良いんじゃない?」
なんか、クリスに呆れられた、・・・解せぬ。
そんなこんなしている内に、謁見の間へと通されたのだった。
そして程なくすると。
「王太子、テラノ・ラ・フェス・グローリー様、御出座。」
煌びやかで派手な衣装に、体に合わないでっけー王冠と言う出立の、子供だった。
何で王太子なのさ、国王はどうした?
えぇ~!そう言うアレっすかぁ?
まさかとは思うけどさ、国王代理って奴か?
ってか未だ歳も若すぎる気がするんだけど?
とか思って居ると、私以外全員が傅いて居る事に気がつく。
あッはッは、傅く気は元からなかったけど油断したな、こりゃ。
初め位は傅いて居る振りでもしとこうかと思ってたけど、あまりのインパクトに啞然としてたヨ!
「面を上げよ。」
私以外の全員が顔を上げる、と言うか私はすっかりそのままガン見してたんだけどな。
「先ず、そのずっと立って居る娘は何者ぞ?」
するとこの場の両サイドに並んで居た騎士達が俄かに動き出す。
「きさま、国王代理の御前である!不敬であるぞ!」
「あ、馬鹿!エリー!」
キースはそこで突っかかって来ないでね、私は平気だから。
と、電脳通信で直に伝えて置く。
「不敬?不敬ですって? どっちが?」
「何だと!?」
「だってそうだろ?
ここに入る前に身体検査迄受けてよォ、完全に丸腰で来てるのも周知の事実だ、誰もナイフどころか釘の一本も所持して無かったろ?あぁ?
それがどうだい?
こんなフルプレートメイルに身を包んでデッケー槍携えた騎士がこの部屋にいったい何人いるってんだよ!
何かあったら速攻処刑すると言わんばかりじゃねぇか!
何が出来るってんだよコラ!
こっちゃあ100歩譲ってこんな威圧された中で我慢してんだ、それがどうだい?
緊張のあまり傅き損ねた幼気な少女に向かって不敬だぁ?
しかも8人も集まって来て槍突き付けて身動き封じて何する気ですかぁ?
その上出て来た王は未だ見た所8~9歳前後のお子様王太子が代理?
はぁ?!
こっちはこの御大層な騎士様方が全く助けてもくれない中、単独で敵を撃退した国の英雄の辺境伯とそのお手伝いをした勇者に上級冒険者の顔ぶれだ、国の為に戦った英雄達に向ける槍は有っても敵国に揮う槍はねぇってかよ!
舐めんじゃねぇぞコラ!!!
こちとら伊達に戦って来てねぇぞ!
まぁ、何と無くどうしてこんなお子様王太子が国王代理で出て来たのかも、王都からの応援部隊も出せなかったかも読めて来たけどよ。
でもな、元敵国の皇子までがこうやって新皇帝として友好結びに来てる時に槍向けるたぁどっちが不敬だってんだよ!」
すると、年端も行かない国王代理から意外な答えが返って来た。
「良い、槍を下げよ、騎士団長コアークよ、これは名代としてこの場に立つ我の国王命令である、その者らに手を出す事は許さぬ。」
あまりにも意外な答えに私も少し面を食らったが、ここは笑いを取らなければっ!
騎士達が槍を下げた瞬間を狙って・・・
「怖かったぁ~。」
目いっぱい可愛く言ってやった。
さり気無く持ち場に戻ろうとした8人の騎士のうち半数はコケそうになったのを私は見逃さなかった。
よっしゃ掴みはオッケーだぜ。
「さて、判って貰えたところで、代理国王様に質問、何で援軍を出さなかったんですか?
って答えは多分私の思う通りなんじゃ無いかとは思ってるけどね。」
「何なのだお主は、何故そんなに偉そうにして居るのだ、お主が質問している相手はこんな子供かも知れんが一応、名代とは言え国王であるとは認識して居ろうに。」
「うん、認識はしてるね、でも私は権力には屈し無いし誰の傘下に入る気も無い。
更に言うと私はこの国の人間でも無ければここに居る新皇帝の国の人間でも無い、もっと正確に言うとこの世界の人間ではないので、王だか何だか知らんが頭を下げる道理は無い。」
と言って、王座に向かって歩き出す。
するとまた、騎士達が槍を向けて取り囲んできた。
「今度こそ不敬である!」
「懲りないね、あんたらも、さっきのやり取りだってこんな槍ごときが怖かったら出来ないだろ、気付かねぇかな、格の違いって奴をさ。」
「何だとっ!貴様このまま首を刎ねても良いのだぞ!」
「へぇ、こんなもんで人の首がはねられるとでも?
魔力障壁展開、爆炎防壁。」
私の半径1mに爆炎の壁が出来、一瞬にして槍の刃の部分が焼失する。
「ひっ!?」
「な、何だ!?」
「ほぉらね、何処で首刎ねる気だった?」
爆炎の跡が床と天井に丸く残っている。
「き、貴様何者だ!」
「私はエリー!」
「名前を聞いて居るんじゃない!」
「ん?異世界からやって来た現在冒険者だよ?」
騎士団長と思わしきさっきから怒鳴ってる人が項垂れる。
なんか降ろした腕を拳握りしめてプルプル震わせてるし。
「今のそれは、魔法と言う奴か?」
意外にも口を開いたのは国王代理だった。
「はい、そうですよ、但しこの世界には、魔素と言う未知の物質は存在して居るけれど魔法が無かったので私が一から開発しました。
魔素の解析から初めて中々楽しい研究だったし、まだまだ開発のし甲斐のある素晴らしい研究だと思いますよ。」
「そうか、お主は知恵者なのだな、この街の外に何か巨大な動く城のような物が有ると聞いたが、それも?」
「ええ、私が作った水陸両用地上戦艦ジャイアントクルーザーです。
あれで皇国へと反撃に向かいました。」
「そうか、では、私から、お主に賢者の称号を正式に与える。
更に子爵の爵位と勲二等を与えるものとする。」
「あ、そう言うの要らないから! 好き勝手にやらせといてくれたらいいので。」
「「「「「「「「えぇぇ~~~~~~~!!!!!」」」」」」」
これには流石の騎士からも驚きの声が上がった。
「い、要らんと?」
「はい、全く。」
「何故だ?」
「爵位とか貰ったら王国に所属しなきゃいけないでしょ、私は世界中を旅して見て周って人生を謳歌したいのよ、この世界の全てを見たいの、だから誰にも縛られたくない訳、だからそんな足枷要らない。」
「はははは、うらやましいな、そんな風に楽しく人生を過ごすのか、願わくば同行してしまいたい所だ。」
「ってか、あんた転生者でしょう?
何か分かっちゃった。」
「バレてしまっては仕方が無い、その通りだ、未だ誰にも告げた事は無かったのだが。」
「所で初めの私の質問の答えは?」
「ああ、済まぬ、ついはぐらかした様な形になってしまった、我が父は今、病床に臥せってしまって居ってな、援軍を派兵出来なかった事も合わせてそれが理由で我がこの場に立っておる。」
この王子は、第一王子に当たるが、末っ子なのだそうだ、上には第一から第五までの王女が居るらしい、そこは優秀なナノマシンが調べ済みだ。
中々男児が生まれず、ようやく授かった待望の王子が思いの外優秀だったと言う事のようだ。
「やっぱそうか、でも安心して、ここには私から人体の全てや様々な病気などの知識の一切を伝授された聖女様が居るから、後で治して貰いなさい、クリスも良いね、ちゃんと力になってやりなよ?」
「なんと、お主は医者であったのか?」
「いいえ、私は西暦2800年頃から735年生きて全身義体から植物性人工生体有機量子コンピューターによる戦術予報OSや、超空間航行などの一切を開発した、自分で言うのもなんだけどマッドサイエンティストの第一人者だよ。」
「お主は誰にでも話してしまうのだな。
隠さずともよいのか?」
「そりゃあねぇ~、もし私が異世界人だと言う事を話した事で狙われるような事があったとしても、今の私を害する事が出来る者なんか存在し無いからね。」
「強気であるな。」
「当然!
なんつったって私は精霊魔法、属性魔法、無属性魔法、医療魔法の全てと、異世界の武器達を悉くこの世界で誕生させて居るんだから、もしも私の意にそぐわない国が有ったらいつでも滅ぼせるし。」
「そ、それは手痛い、精々逆鱗に触れぬように居たいものだな。」
「試しに魔法一つでも亡ぼせる所を見せてあげたいんだけど、例えば山に向かってあれ撃っちゃうと環境破壊も良いとこだからなぁ、辞めとくわ。」
「核兵器とかも有ると言う事か?」
「あんな非人道兵器はもし誰かが作ったとしてもその技術が外に漏洩する前に私が行って抹殺するつもり。
私は、この世界の神とやらに何かを頼まれて此処に居る。
まぁ覚えちゃ居ないんだけど、でも私はそう言う目的で連れて来られたのだと思って居るからこの世界の調停者となるつもりだからそのつもりで。
その私をもしも魔王とするならそれでも良いと思ってるのでよろしくね。」
と言って踵を返し、この部屋を後にしようとしたが、ふと、騎士の無残にも只の棍棒となった槍が目に入ってしまった。
「おっとイケナイ、槍はお返ししよう。」
そう言い放つと、私が溶かしてしまった槍の鋼に日緋色玉鋼とミスリル銀を少量混ぜ、槍を錬成、再生させた。
「な、これは?」
「私にはどの道意味を成さないだろうけど、せめて近衛騎士だったらこの位の槍持てよな? そこの騎士長位は多分、槍に自分のマナを流してるみたいだったから、同じことをその槍でやって見たら良い、面白い事が起きる。
名付けて魔槍ゲイボルグ、そんじゃ。」
今度こそ踵を返してこの部屋を後にしたのだった。




