王都捕物帳
王都捕物帳
ジャイアントクルーザーを外壁際へ移動、停泊して、辺境伯と皇帝の馬車を降艦し、待機モードで警備を開始させた直後。
「では、ランクル皇国新皇帝御一行様、並びに、セドリック辺境伯御一行様、私がご案内役を務めさせて頂きます、此方へどうぞ。」
先程の衛兵長が、王宮へ報告後、騎乗した上でそのまま案内役として出迎えに来た。
街へ入る順番待ちの行列を尻目に、貴族用の入街口へと案内されてノーチェックで入街出来てしまう。
護衛の冒険者に悪人が混じってたらどうするのかと思ってしまう所ではあるが、貴族が信頼している冒険者以外は護衛に付けないだろうと言う事で、信用出来ると判断して居るのだろう、その貴族自体が国家転覆を企てて居ないとも限らないと思うんだけどな。
「さて、無事に王都迄の護衛任務は終わったと言う事で、私は消えさせて頂くね。」
と言って、光学迷彩を発動してそっと抜けようとした。
「いかん!エリーを取り押さえろ!」
は?何言い出すかな?カイエン!
「任せてぇ~、逃がさないから~。」
間延びしたテンポで答えたのはマカンヌだ。
「おいお前ら! もしかして騙したのか? 私以外に出て居た依頼は私を逃がさないようにしろだったんだろ?!」
「今更遅いわよ、師匠は素直に謁見の間まで来て貰います!」
「それを聞いて私が逃げないとでも?」
身体強化をして全力で逃げる事にした。
「逃げたぞ、探せ!」
キース!甘い!お前につかまるほど遅くない!
屋根の上を駆け抜け、路地裏へと紛れ込んだ。
すると、どこかから不穏な声が聞こえて来た。
「大銀貨4枚だ、これ以上負からんぞ。」
「そ、そんな、頼む、薬を、何でもするからよ。」
「ほう、何でもなァ・・・ならば、明日、商業ギルドを襲撃する、お前はその直前に衛兵どもを引き付けて置け、揺動だ。」
「わ、判った、任せてくれ、は、早く薬を!」
あぁ~、なんかイケナイ薬の取引現場みたいねぇ、ダメよぉ~、そう言うのやっちゃぁ。
覚せい剤辞めますか?それとも人間やめますか?みたいな奴だわ。
これは両方潰しておくに限る。
丁度背後に私が居る状態だったので飛び蹴りで売人の後頭部に一撃を加えたら一発で伸びてるし、弱っ!
「エリーちゃんみぃ~つけたっ!」
うぉっ!マカンヌ流石は忍び犬亜人!逃げなきゃ!
不本意ながらヤク中のおっさんの方を倒すには至らなかったけど、まぁ何とかなるだろ。
又も屋根伝いに逃げ、用水路を発見して、そこから下水溝へと逃げ込んだ。
臭いとか言ってられん、犬亜人の鼻を晦ますにはこれしかない!
何で用水路が下水溝に繋がってるんだって?
決まってるでしょ、大雨とか降って増水した時に用水路が氾濫したら困るでしょうが、その為に繋がって居る物なのだよ、当然用水路より下水溝のが下だし繋がって居る入り口は用水路の水位よりずっと上だけどな。
驚いた事にこの下水溝、かなりの広さになって居る。
これって良くこんな規模の地下を掘れたよね、地下鉄もビックリだと思うよ。
だけど大概こう言う所に入り込むと、テンプレで居るんだよねぇ・・・ほら居た、ゴブリンの群れ。
しかもとんでもない数のゴブリンが襲い掛かって来たので撃破。
したと思ったらゴブリンレッドハットとホブゴブリン、チャンピオンにゴブリンコマンダー、ゴブリンキング迄出て来ちゃって、大々的な駆除に成ってしまった。
私に掛かれば瞬殺だけどね。
これって冒険者ギルドに張ってある常設依頼案件なんじゃねぇ?
とりあえず討伐の証拠のゴブリンの魔石を取り出す、と言っても私の場合反則ストレージのお陰で収納したい物を指定するだけでそれ以外の物は入らない仕様なので卑怯かも知れないけど一瞬で魔石だけがストレージ入りだ。
我ながら反則だと思う、うん。
で、巣穴にされていた部屋を発見したので中を覗いてみると、6人もの攫われたと思わしき女性が、散々弄ばれたのだろう、精神を壊した状態で転がって居る。
何故ゴブリンが人や他の種族の女性を攫って凌辱するのかって言うのには理由が有る。
ゴブリンは私の調べでは、基本的にオスしか居ない、と言うか言い換えると、雌雄同体と言う方が正しいかも知れない。
どう言う事かと言うと、雄雌の区別が無いが、単独で交尾が出来る訳では無く、苗床として他種族の雌の子宮を利用しないとその子種を発芽出来ない。
つまりゴブリン的にはそれは正しい生存戦略であって、決して悪ふざけでも何でも無い訳である。
20年に一度程、ゴブリンの部落から一体だけメスのゴブリン、ゴブリナが生まれるらしいが、それはゴブリンの長を生み出す為の苗床となる。
そして、100年に一度、ゴブリンキングでは無く、ゴブリンロードと呼ばれるものが世界の何処かで一体だけ生まれるのだそうだ。
そのゴブリンロードは、天災級のモンスター、正にゴブリンの魔王と呼ばれるものになるらしい。
「お、お願い・・・殺して・・・。」
可愛そうに、助けた所で元の生活には戻れる事は無いだろう。
そうだな、ここまで壊されてしまっては死が最も優しいのだろう、私もここまでにされたら死にたいと思うだろうね。
この場で光魔法を開発、慈愛の光と言う魔法で優しく命を刈り取ってあげる事にした。
「今度は、こんな事が起きない優しい世界に転生出来る事をお祈りします、慈愛の光。」
6人全員を送り、手を合わせて深く頭を下げ祈ると、彼女達は全員笑顔で逝ったのだった。
もっとゴブリンを刈る冒険者が増えないといかんね、私が重点的に刈っても良いけど、そんな事して居たら自分のやりたい事出来なくなっちゃうしなぁ。
「エリーちゃんみぃ~っけ。」
うぉっ! 又来たマカンヌ!
「あらぁ、この子達・・・、エリーちゃんが送ってあげたのね? 私も手を合わせておこうかしら~。」
手をわせてご冥福をお祈りして居るマカンヌを尻目に、そっとこの場を後にした私は、今度は市場街へと逃げ込んだ。
「お、嬢ちゃん、一本食っていくかい?」
肉串屋のおっちゃんに声を掛けられ、一本頂いて中銅貨一枚支払う。
何の肉だか分かんねぇくらい濃い味になってるけどうまい。
「おっちゃん匿って。」
「お、おう、構わねぇけど何から逃げてるんだ?」
「お姉ちゃん。」
と言う事にしておく。
「食い逃げだ~! 誰かそいつ捕まえてくれ~!」
しゃぁねぇから飛び出してさっと足引っ掛けて転ばしてやった。
「エリーちゃん見っけ。」
うぉぁっ!思ったより早く見つかった!
急いで新たな屋台の背後に隠れる。
「お姉さん、匿って下さい。」
「あら、お姉さんだなんて嬉しい事言ってくれるじゃ無いか、何から逃げてるんだい?」
「お姉ちゃん。」
「姉妹喧嘩かい?ダメだよ、ちゃんと謝って仲良くしないと、ほら、これお食べ。」
果物の屋台だったようだ、リンゴっぽいのを一つ頂いた。
「お姉さんありがとう、丁度走り回って水分欲しかったの、お代は?」
「私の奢りだよ、次の時にいっぱい買ってって頂戴な。」
人の心はあったかい様だ、薬に逃げる人はやっぱ心が弱いのだろうな。
そしてそこに漬け込むあの売人の様なのも出て来るって訳か。
「みぃ~つけたっ。」
「おわっ! もう見つかったっ! お姉さんありがとっ!」
大急ぎで飛び出した。
こうなったら全力で逃げるのみ!
ところが、私の身体強化が優れて居るのは確かだけどもこの子供な体の体力では基礎体力が不足して居る、新型全身義体のマカンヌが身体強化を使って追いかけて来るんだから撒ける道理なんて無かったのだ。
王都中をくまなく網羅する勢いで屋根の上を走り回った結果、先回りされたりまでしてマカンヌに負けを認めるしか無くなったころ、ついに背後から拘束されてしまった。
「うふふふふ、つ~かま~えた。」
背後から羽交い絞めで抱っこされてるような状況に成ってしまった。
「は、はなせ~。」
じたばたして見たが、143㎝しかない私がどんなに暴れようと、170㎝の身長の全身義体なマカンヌはビクともするはずも無く。
「だぁ~め、離したら又エリーちゃん逃げちゃうでしょう~?」
「当たり前だ、私は謁見なんかしないのだ~。」
「そんな我儘言うから私達が捕獲なんて依頼されるのよぉ~?」
身体強化で力をブーストしたところで、最終調整を済ませてエネルギー効率が最適化されてしまった新型義体のマカンヌに敵う訳も無かった。
「判った・・・参りました。 大人しく謁見しますよーっだ。」
観念するしか無いのか、チクショウ。




