王都へ1
王都へ1
久しぶりに冒険者ギルドに顔を出すと、女の子冒険者達がなんか妙に華やかになって居て、若手の男子冒険者にモテモテになってて草。
モテて気分が良いのは解らんでも無いけど、依頼熟せよお前ら。
やっぱり丁寧に安全安心をモットーに作った基礎化粧品にマナを注ぎ込んで効果を格段に上げたのがいけなかったのか、肌年齢が常識の範囲を大幅に超えて改善しちゃったもんだから調子に乗ってるね、女の子達。
マカンヌまで欲しがってたけど、あんたは既に全身義体だからこれ使う意味が無いと言ったら、贔屓だとか愚図ってたけど、全身義体の人工皮膚は、ナノマシンによる自己修復機能の為に劣化しないから歳取らないって言って何とか納得させたんだけど、それでもなんか理不尽そうな顔してたっけ。
良いじゃんか、マカンヌさんの肌年齢全身義体の方が5歳は若めに設定してやったんだから、ただでさえ、マカンヌさんは欠かさずスキンケアしてたらしくて元の肌年齢が年齢-5歳くらいだったってのに、更に5歳も若返って何の不満が有るんだ。
むしろ生まれ変わったマカンヌさんを娘のカレイラちゃんが羨ましがってたのは記憶に新しいほど。
っつってもカレイラちゃんまだ10歳に成って無いんだから今のうちにお手入れしとけば長く維持出来るから頑張って欲しい所。
のっけから脱線してるなァ・・・今日、冒険者ギルドに来た理由が全く意味を持って居ない。
気を取り直して、カウンターへ。
「エリーさん、お久しぶりです。」
サリーちゃんが私が掛けるより先に声を掛けて来た。
大概こう言う時って嫌な予感しかしないんだけど気のせいかなぁ。
「なぁにサリーちゃん、あんたが声掛けて来るとホントにろくな事が無いんだけど?」
「そう言わないで下さい、私だってエリーさんを困らせたくてやってる訳じゃ無いんですから。」
「で?今日は、何さ。」
「良くぞ聞いて下さいました! 領主様からの依頼ですっ!」
「やっぱりかよ・・・。」
「やっぱりって何ですかっ! やっぱりってぇっ!」
サリーが河豚も驚きなほどに膨れている。
「大体セドリックさんあたりからの無理難題なんだもん、サリーちゃんが声掛けて来る時って。」
「むぅ~・・・仕方ないじゃ無いですか、指名依頼って大概同じところから来るんですから・・・」(ブツブツ)
なんか聞き取り切れないレベルの声で文句言ってる気がするけどほっとこう。
「私の用件なんだけどね、C級冒険者に良くある奴なんだわ。」
「じゃあ丁度良いじゃ無いですかっ!」
「どゆ事?」
「領主様が王都への招聘を受けて居まして、その護衛をお願いしたいって事なのでどうですか?」
「私だけじゃ無くてカイエンさんやタイタンズにも出てるんでしょ、どうせ。」
「な、何故それを・・・」
「判らいでかっ!
それって往復護衛しろってんでしょうが、片道なら良いけど。
しかも、私の予想ではその裏で、私達に爵位でも与える気満々でしょう、その位読めるって。」
「ダメ・・・でしょうか。」
「うん、ダメ。」
「そこをなんとか。」
「ダメだっつーのに。」
「何でですか!?」
「判ってるくせに!やだったらやだ!」
「もう、判りました、報酬半分になるけど王都までの片道の方の依頼を受けて貰えますか?」
「何だあるんじゃん、始めからそっち出してよ。」
「だってこれも領主様からの依頼で出来れば往復が良いって話だったんですもんっ!」
力強く言い放った後涙目に成ってるサリー。
泣かんでもえぇやん。
「で?タイタンズやカイエンさんはどうした訳? まだ来て無い事は無いわよね。」
「エリーさんの影響が強いからいけないんですよっ!
皆片道ならって言う話でしたっ!」
何だか半べそかきながら怒ってる、器用だな、この子。
「いや、私の影響はそんなに無いと思うぞ、カイエンさんに関しては、戦えなくなった途端に見限った貴族達なんか信用出来ないだろうから始めからそう言うつもりだろう、私の影響なんか皆無だと思うし、キース達だって縛られたくない思いは私と一緒だから元から断るんじゃない?」
「そうですか、私がいけなかったって事にしときますよ、どうせどうせ・・・」
あ、拗ねた・・・
拗ねたサリーはちょっと可愛かったのでこれからは拗ねるまでからかったり弄ったりする方向に決定。
「まぁ、じゃあこれで護衛は全員揃ったんでしょう?
いつ出発なの?」
「それがですね、王都には明日の正午までに着かないといけないので昨日出発の予定だったのですが、エリーさんが捕まらないので、間に合うかどうか・・・。」
「楽勝で間に合うっしょ。」
「そうなんですか?」
「ああ、サリーは未だ知らないのか、ジャイアントクルーザーの存在を。」
「何です?それ。」
「巨大な動く城みたいなやつ。」
「そんなの在るんじゃ護衛要らないじゃ無いですか。」
「でも私じゃ無いと動かせないも~ん。」
「ああ、そうなんですか、どうせ又エリーさんの出鱈目なスキルで作っちゃったとんでもない魔道具なんでしょうよ、ここで延々と仕事している私にはわかりませんよぉ~ッだ。」
あ、本気で不貞腐れた。
「見に来る?今街門の外に停めてあるけど。」
「私、外に出られないんですよ、言ってませんでしたっけ?」
「どんな契約だ、そんな酷い奴隷契約させられてんの?」
「ああ、説明してませんでしたっけ、私は奴隷とかじゃ無くて、各地冒険者ギルドに配置されたホムンクルス、サリーシリーズの私はサリー・デルタって言います。
各冒険者ギルドのサリーシリーズとは常に感覚共有で繋がって居るので情報を共有できると言う訳なんです。
その上一切睡眠をとらずに働き続ける事が出来る・・・と言うか睡眠が必要無いのです。」
ここに来て初めて知った意外に超身近だったファンタジー設定キターーーーー!
マジかぁっ!
「そう言う事はもっと早く言ってよね、てっきり冒険者ギルドってブラックな職場かと思っちゃったわよ!
で?サリー・デルタが色々忘れたりすっ呆けた事するのは仕様って事で良いのかな?」
「はい!その通りです!」
「力いっぱい得意そうに肯定するこっちゃねぇだろ、それ・・・」
「ダメなんですか?」
「ある意味ダメすぎだろ、おい。」
「どうやったら良いでしょう。」
「例えばだな、可愛くウインクしながら、「てへっ♬」って舌出したりとかさ。」
「こ、こうですか?
てへっ♪」
「ああ、まぁ少しぎこちないけどこんなもんだろ、良しとしとくわ。」
投げやりに答えるとまた拗ねた、ほっぺ膨らましたサリーが可愛い。
それにしてもこれがホムンクルスだとは、驚きだった。
もしかしてこれ作ったのも色んな魔道具作ったと言う昔の錬金術師なのだろうか。
デルタとか言ってたしな・・・アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、イプシロンって具合にシリーズなんだろうね、きっと。
いやはや、今更そんな設定に気が付くとは、私としては迂闊だったわ・・・あまりの事に本気で驚いたわ。
「まぁ良いわ、ほんじゃ早速依頼開始と行こうじゃ無いの、領主の屋敷に行けばいいかい?」
「はい、もう皆さん行ってる筈なので、お願いします。」
「はいよ~。」
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「お待たせ~。」
「遅いでは無いか、間に合わないじゃないか!」
「まぁまぁ、セドリックくん大丈夫だから落ち着いてくだちゃいね~。」
「これが落ち着いて居られるものか! 明日の正午までに王都だぞ? あと一日しかないでは無いか!」
「だから間に合うようにしてやるっつってんだから落ち着け小僧!」
少しイラっとして強い口調に成ってしまった。
「坊ちゃん、落ち着いて下さい、エリー様が嘘を付く事は有りません、大船に乗ったつもりでお任せするが良いのですよ。」
ナイスアシスト!
「坊ちゃん言うな~!」
「とにかく出発したら判るから、落ち着いてくれるかな?」
「はぁ、はぁ、済まない、少し興奮しすぎた。」
街門をくぐった領主を乗せた馬車は、その場で動きを止めたのであった。
「な、何だこれは。」
「これは私の移動用の要塞ってとこかな? 未だ小型だけどな。」
これの何処が小型なのかと言う突込みは募集して居ません。
「どこが小さいんだ~!」
「だって高さもたった18mしか無いし?
それからさ、第一騎士団長だけ同乗すると良いよ、私達片道しか請け負わないから、ね?」
と言って、呼び出して居たローレルさんを指差す私、当然彼は強化装甲に搭乗して来ている。
「帰りの警備はお任せ下さい、このゴーレムが有れば私一人でもどんな盗賊にも負けませんよ!」
「ええいどいつもこいつも、常識を逸脱しおってからに!」
あ、投げやりになってる。
いつもながら弄りがいのある領主だな。
「さぁ、じゃあ揃ったところで乗った乗った!」
「何だこれは、いったい何人乗れるのだ?」
「まぁそんなこたぁどうでも良いっしょ、ここの部屋好きに使ってね~、VIPルームに成ってるから領主でも満足だろ。」
と、ドアタッチパネルにセドリックさんの手を宛がって登録完了。
ハッチが開くとそこはセドリックさんですら見た事も無いような豪華な空間。
そうだよな、いくら領主でも未来なレベルの豪華なお部屋は初めてだわな。
「これはベッドか?」
「そう、天蓋付いてて豪華でしょ?」
「ふっかふかだな・・・」
「気に入った?」
「私の屋敷のもこれにして貰いたいくらいだ。」
「んじゃ作って出来上がったら送っとくわ。」
「あ・・・ああ・・・」
何だか夢心地に成ってるセドリックさん。
「ああ、それと、食堂に行ってご飯食べるのが嫌だったらこの部屋にはオートクッカーの端末が有るからいつでも好きな時に好きな物注文して食べてね。」
「何だと!? 何時でも良いのか?」
「うん、そうだよ?変な事言うね。」
「シェフは寝ないのか?」
「寝ないね、機械だから。」
「機械?」
「ああ、要するに魔道具?」
「な!? 料理を作る魔道具だと?」
「なんかおかしい事言った?」
「そんな複雑な事を魔道具に出来るものか!」
「出来るからやってるんだよ、例えばほら、ケーキが一瞬で。」
チーン、という音がしてオートクッカーの端末の戸が開き、中からイチゴのショートケーキが出現。
既に真夏だからイチゴは本来時期では無いけど私の作った亜空間から出して居る時間停止してあった物なので何の問題も無い。
「私がおかしいのか?」
「いや、至って普通な反応とは思うよ、でもここは私のルールで成り立ってるので何でもアリです。」
「は、ははは・・・はははは。」
「って事でこの部屋で大人しく寛いでてね~、明日の朝には王都に着いてるからさ。」
こうして、ジャイアントクルーザーでこれ以上なく安全な王都への移動、誰も怪我も何もしない安全な護衛任務の開始である。




