ただいま潜入中
ただいま潜入中
-MkⅡ-
う~ん・・・どうしたものだろうか。
俺は確か、体験入隊と言う名目で来ていた筈なんだが・・・
何故か正規入隊に成ってるし、気が付くと既に幹部候補生ってどういう事だ?
体験中の体力測定で結果が良すぎた?
いやいや、まさか、だって俺は運動音痴で二輪車にすら乗れないエリーの並列存在だぞ?
たしかに体力だけは、この体だから有るとは思うけど。
精々懸垂103回、腕立て伏せ252回、腹筋304回、背筋286回、100m走9秒65を標高1400mの高地で熟した程度だと思うのだが。
正規隊員達がどの程度の成績なのかは、一緒に測定した訳では無いから良く判らないが・・・
幹部候補生ともなると営内の入室可能施設も大幅に増える。
まぁ潜入中の身としては実にありがたい事だとは思うのだが。
逆にこれが罠であったならば完全に読まれ、誘い込まれたと言う形になる。
まぁ、俺は只のホムンクルスのボディーに固定されただけの並列存在だから、万一の事があっても何ら問題は無い。
ただ可能な限りに情報を集め本体へと送り続けるだけだ。
脱出の場合の算段も、ファンレイのメンテナンスが終わって俺の電脳でリモートコントロールで待機地点へと既に移動を開始して居るので、脱出が可能であれば脱出序でに首都爆撃も吝かでは無い。
バレて脱出するなら最後っ屁くらいはかましとかなきゃな。
どの道スパイ活動に徹するとしよう。
幹部候補生として軍内部の情報がある程度共有されて居る今ならかなりの有用な情報が手に入る筈だ。
で・・・幹部候補生になったにも関わらず、何故か今日から三日間、厨房勤務になった・・・何でか知らんが、定期的に厨房で食事を提供すると言う職務が新兵でも幹部でも関係なしに定期的に回って来る事になって居るらしい。
で、抽選で幹部候補生となったばかりの俺に巡って来て仕舞ったらしい。
これは、運が良かったのか悪かったのか・・・
何方に転ぶかは判らんけど、あんまりうまい物を作り過ぎると永久に料理長にされ兼ねないので手を抜いて作ってみよう。
今日は煮込み料理と言う漠然としたメニューになって居るな、食材を幾つかチェックしてみると、これだったらボルシチにでもしようかと言った感じの材料が多々あった、何よりかなり上質なビーツが大量にあったのだ。
まぁこんな赤い蕪をどう使えば良いのか判らなかった先任者が悩んだ挙句に使わなかったと言う所か。
具合の良い事に、ラケルと言うイタリアの硬いパンにソックリな物があったので、これを添えてやればいいだろう。
肉料理は、魔物化したと思われる巨大な七面鳥のフィレ肉があったので、これを200g程度に切り分けてステーキにしよう。
後はブロッコリーと南瓜があったので蒸した後に塩を振ってステーキの鉄板に添え野菜として添えてやろう。
玉葱のスライスをある程度炒めてステーキの下に敷くように置いてやれば完成だ。これをこの基地の全員に行き渡る量を作らねば成らない、大量調理は大変だが、元がエリーな俺としては少し楽しい。
俺と一緒に調理当番となった二名はどちらも幹部には程遠い伍長と曹長だったので、俺のサポートに回って料理を覚えようと一所懸命に俺の指示に従っている。
こいつ等料理人になった方が良いのではなかろうか?
こういう勤勉な吸収しようと言う気概の強い奴らは板前修業に向いて居ると思う。
「ルーデリヒ准尉、肉の焼き方はこんな具合で良いでしょうか!?」
とうとう、自分から仕事を取りに来るようにすらなったのでやらせて見たが、中々筋が良いと思う。
「うん、気持ち焼き過ぎの感が否めないが個人的にこの位しっかり焼いた方が良い者も少なくは無いので良いと思う。」
「ありがとう御座います!」
やっぱこいつ料理人だよな。
「准尉!こちらのシチューは香辛料をそろそろ入れても良いのではないでしょうか?」
「ああ、では私が味を見よう、こっちの作業を代わってくれ。」
「はい、お任せ下さい。」
こいつも料理人だな、こんな奴らばかりなら扱い易いのに。
って言うか、俺は実は一週間前に体験入隊して昨日から幹部候補生になった新入りで君らよりも日が浅いんだ、なんか、スマン・・・
完成したボルシチを、給仕を始める前に自分達の食事として頂いておかないと全員の給仕を終えた後では自分達の食事時間が無くなるので取り分け、先程焼いた肉も並べて頂く事にした。
「准尉、このシチュー、すげー色っすね。」
「ははは、これは入れたビーツの色がしみ出してるんだ。
ボルシチと言う名のシチューだよ。」
「准尉はこんな料理を何処で覚えたのですか?」
「俺は元冒険者だったからな、倒した魔物も自分で解体して料理するし、付近で取れた野草なんかで料理して居たからね、お陰で料理の知識もかなり有るんだ。」
「そうなんっすね、僕は今年で任期終るので、就職先探し始めないとなんですよ。
冒険者も悪く無さそうですね。
ビッグス伍長はどうする? 君も来年で任期終るんだろ?」
「そうですね~、僕も冒険者楽しそうかなーなんて思ってるんですよ、ウェッジ曹長。」
こいつ等の名前、どっかで聞いた事あるんだが、気のせいと言う事にしとこう。
「冒険者って、君らの思ってるよりもきついと思うぞ、でもまぁ、二年間この軍で鍛えられて居ればそこまできつくも無いかな?」
「ルーデリヒ准尉は何年この軍に居られるのですか?」
「実は俺はね、最近体験入隊と言う形で軍の身体能力測定を受けたんだがね、いつの間にか入隊して居る体で幹部候補生としてこの階級を与えられてしまったんだよ。
だからこの軍では誰よりも日が浅い、君達の方が先輩だったりするんだ。」
「「ええっ!そうだったんですか?」」
「なんかすまないね。」
「いえ、いきなり幹部候補だなんて、そんなに好成績だったんですか、驚きました。」
「成程、准将のその身体能力は冒険者で培ったんですね?」
「まぁ、そう言う事になる、のかな?」
「そんなに冒険者って言うのは体力勝負って事ですか、それじゃあ僕なんかもっと鍛えなきゃダメっすね。」
「ははは、俺の場合はB級、それもA級一歩手前の所まで来てたからね、ほぼA級冒険者と思って良いよ、ランクはG級からあるしね。
多くはD級やC級の冒険者には成ってるから、君らの今のままの身体能力でもその辺までは行けるんじゃ無いかとは思うけどね。」
「やっぱり体力が最大の問題ですか。」
「でもそれだけじゃ無いから覚えておくよ良いよ、ウェッジ君。
例えば倒した魔物の状態がそこいらじゅう傷だらけなのと一撃やそこいらで倒して綺麗な状態なのとでは、素材としての買取価格や冒険者の階級を上げるためのポイントの多い少ないに掛かって来るからね。」
「あ~あ~・・・難しいんすね~、冒険者に成りたいって安易に考えてたけどそう言うの聞くとダメかな~って思っちゃって、考えちゃいますねぇ~、帰って実家の農業継いだ方が良いんっすかね~。」
「ビッグス君の実家は農家ですか、確かに農業は地味かも知れませんが、アレだって大切な無くては成らないお仕事なんですよ、あんまりバカにするものじゃない。
まぁ、ダラダラ続けるんだったら実入りも少なくて辛いだけになってしまうでしょうから、農業を研究して進化させていく気概を持ってやるならばお勧めしますよ。
例えば、今まで作って来た果物をどうやったらもっと甘い美味しい物に育てる事が出来るか、とか。」
「あ、それ良いっすね、美味しい果物はお貴族様が良い値で買い取ってくれるって聞いた事があるっす。」
「ええ、ですから毎年美味しい物が収穫できるようになったら、どうです?
下手にすると王族の御用達農場に指定して貰えるかもしれませんよ?」
「それは確かに夢がある。
当分の多いビートが作れたらそいつからお砂糖作れるかも知れませんしね。」
「ええ、若しくは胡椒を人工的に栽培出来るようにしたらどうでしょうね?」
「こ、胡椒っすか? 同じ目方の金貨と交換して貰えるんっすよね? それ、すげーっすよ。
出来たら大金持ちじゃ無いっスか。」
こんな他愛も無い会話をして早めの昼食を済ませ、食事にやって来る兵士達への給仕を始めるのだった。
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一般兵の食堂と、幹部用の食堂は、この厨房を挟んで別けられている。
なので当然、俺が聞き耳を立てるのは幹部食堂の方だ。
別れているのは恐らくは機密保持のためだが、ナノマシンで情報収集が出来る俺としては好都合だ。
「准尉、ソロソロ幹部の方々が食事に来る頃なので、その前にテーブル拭きに行って来ます。」
「ああ、判った、こっちの綺麗な布巾を使ってくれ。」
そう言ってスパイナノマシンを大量に潜ませた布巾を数枚手渡しておく。
「あざっす! 行って来ます。」
ビッグスとウェッジが足早に幹部食堂へと出て行った。
これでより重要な情報が取れる可能性が増えると言うものだ。
絶対に此処で食事をするはずの幹部、そこにテーブル表面のスパイナノマシンが反応し幹部達の体に張り付いて何処へでも付いて回る。
そうなればいつかは重要なポストに辿り着く筈だ。
この厨房勤務は情報収集にとっては最高のポジションだったようだ、俺は運が良い。




