潜入7
潜入7
代官のレビルの大方の性格は分かった、この代官は、何とかとハサミは使いようって言う感じで上手く扱えばかなり良い仕事をしてくれそうである。
他愛も無い話をしながら少しづつ内部事情を引き出して行くと、割とアッサリ喋ってくれる、まぁ、相手も然る事ながらと言う部分もあり、あまり深い内部事情は知らない様だ。
多分宰相は相当の切れ者であろうと予想される。
そんな具合に会話を嗜んで居ると、馬車はゆっくりと九十九折りのなだらかな坂道を登って行く。
アルファードは恐らく標高1600m以上の高原に聳える都市なのでは無いだろうかと予想される。
かなりの高原都市と言う事になるだろうな。
トンネルが九十九折になって居る所を考えると、予想以上に技術力は高そうではある。
重機も開発して居なければこのレベルの丁寧な切り出しトンネルを掘るのは難しいのではないかとも思う。
まぁ、シールド工法迄は難しいとしてもね。
なんかね、ここまでに長い九十九折れが続くとさ、これがトンネルじゃ無かったらどっかの某初代将軍が祭られた神社とかのアレの道を思い出す。
何故か俺、と言うか私は行った事無いにも拘らず、そんなイメージが根強い。
そんな事を考えている内にトンネルがようやく終わりを迎える、日差しが入ってきている。
それにしても時間が掛かった、朝来いと言われて早めに宿を出て領主邸に出向いた筈で、そのまますぐ出発になった程だったと言うのに、既に昼、正午を回ってしまって居る。
「ルーデリヒ君、ようやく道程の半分までやって来たので、ここで昼食を取る事になるのだが宜しいかな?」
未だ半分?そんなに標高が高いと?
ここは既に1000mを超える標高だと思うのだが。
「ええ、ソロソロ食事時だと思います。」
「では、料理自慢のお抱えシェフを先行させた甲斐があったな。」
そんな事までしてくれて居たとは、そんなに俺の評価が高かったと言う事か?
トンネルを出て暫くなだらかな坂を上ると、丁度キャンプの出来そうな、さほど広くは無い平坦な地形が目前に現れ始め、そこに、まるでおでん屋台さながらに改造された馬車と荷馬車、そして既に調理を始めているシェフがその結構な景観の中に不似合いな程に目に付き始める。
「お待ちして居りました、間も無く支度が終わりますのでお席についてお待ち下さい。」
使用人と思しき数名があっと言う間にテーブルセットを設置し、我々を即座に迎え入れる。
凄い統率だ、この動きからも、この代官が宰相よりどれ程信頼されて領地を任されているかが良く判る。
イヤ大変良い物を見せて貰った、この代官をうまく煽てて使えばどれ程の働きをするか見ものだ。
だが、今はこの機会を使って騎士団にでも取り立てて貰う方が早そうだが。
出された食事は、まぁそこいらの食堂よりは美味い物だろうとは思うが、俺達エリーにとってはまぁ中の下くらいと言った所だった、まぁ余計な事は言わないでおくが。
シェフ達に礼を言うと、嬉しそうに笑顔で答えてくれる。
気の良い奴らだ、こいつ等も糞皇帝のおかげで戦争に巻き込まれるのかと思うと心苦しい、助けてやりたいと思ってしまう。
だが今は、潜入して敵情視察をせねば成らないのだ。
兎に角何かしてやりたくても、俺は後で、出来る限りのことをする他は無いのだ。
出来る限り早く戦争を終わらせる為にも、むしろ戦争を阻止できる可能性を模索する為にもこのミッションを遂行する事が今俺に出来る唯一の事だ。
決意を新たに、王都への馬車に乗り込み、又長い旅路を行く。
この先は、岩山を切り開いた山道で、スーパー林道のような悪路だ。
もう少し丁寧に整地出来なかったのかと思える程に馬車が揺れる。
本当にこれが帝都に続くのかと不安にすらなる。
他に道は無いのかと聞いて見た、すると、戦車を通す為の整備された道ならあるが通行が禁じられて居て馬車は通る事が出来ないと言われた。
戦車とは? と問い質すと、思わぬ回答が帰って来た。
「私が知って居る事はそう多くは無いが、耳にした内容をそのまま言葉に出すとすれば、『化石燃料を使って走り、コルダイトNを炸薬装薬の両方に使用した大砲を実装し対空対策のSAMも実装した重戦車』だそうだよ、ああそうそう、意味は分からないけれど、『データリンク』にも対応しているとか言って居たな。」
この代官、いったい何処までの情報を持ち合わせて居るのだろう。
だが、大体の技術年代が判った。
これならば俺達の装備であれば問題無く撒けることは無いだろう、問題があるとすれば、原水爆がどのレベルで作れるかと言う所、そして細菌兵器、毒ガス等にも精通しているかどうかと言う所だろう。
特に細菌兵器に関しては、場合によってはこの世界の魔素がどんな作用を細菌に対して起こすかも読み切れない。
スーパー炭疽菌のような物が多彩に進化する可能性も否めないからだ。
そうなった場合、こっちもナノマシンで対応して行くのが最善の方法となるだろう。
ナノマシンに対する権限が最高のレベル10なのは本体だけだから、そうなった場合に対応し切れるのは本体だけしか居ない事になるから厄介なのだ。
日が落ちかけた頃、ようやく我々の乗った馬車は、帝都へと到着したのだった。
今日はもう遅いと言う事で、見学と謁見は明日へと持ち越され、宰相閣下が用意されたと言う高級宿で一泊する事となったのだった。
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翌早朝、私は朝の教練が見たいと言って、朝食前にこうして騎士団の兵舎前にて見学をしている。
5分前行動等も当たり前らしい、ちゃんと統率が採れた良い騎士団ではないか。
問題はこの騎士団が機甲科であると言う事だ。
さて、朝食を取った後の訓練が見ものだ。
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朝食を兵科食堂で頂く。
流石にこの国は軍事に対して金を使って居るだけはあると言う所か、市街で頂けそうな食事などよりは良い物が食えるようだ。
さぞかし栄養にも気を配って居るのだろう。
少々薄味なのは否めないが、まぁ味は悪くない方だろう。
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朝食を終えると、早速営内の服務規程の確認の為の予備知識に関する授業を受ける。
見学者であってもこの規定に違反する事は厳罰に値すると言う事だ、徹底した管理体制らしい。
まぁ、ここまで潜入出来れば後は、スパイナノマシンが色々と深く潜入してくれる事だろう。
実際の俺の任務はここ迄でも十分達成出来たと言えよう。
後は、万一の為の敵戦車の操縦法を覚えて奪ってでも生還する方法等を模索でもするとしよう。
仮入隊でもして、暫く教練を受けて見る事も吝かでは無い、何でも体験してみるのは良い事だろう。
それにしても、この標高だ、一寸した高地トレーニングだなw
取り合えず、この時点で俺は本体へと電脳でこれまでの情報をデータ送信して置く事にしたのだった。




