潜入6
潜入6
ベルファイアの街を収める領主は、現在首都アルファードで皇帝の右腕として宰相の座に収まっているらしく、この街自体は代官が取り仕切って居るらしい。
代官の名は、レビル・・・
あれ?またしてもどっかで聞いた名前な気がする。
何故だろう、ここに来て名前の趣向の偏りが変な方向にシフトしている気がしてならない。
この辺もアホなアスモデウスのやらかしなのでは無いだろうか。
まぁそれは良いとして、今はその代官が詰めているこの街の領主邸に来ている。
「すみません、代官殿に招聘されたルーデリヒと申す者ですが。」
「伺っております、英雄ルーデリヒ様、ご案内いたします!」
なっ!?
英雄、だと?
本気であいつらの騒ぎを真に受けたのか?
居城の衛兵に連れられて、この街の代官の執務室へと通された。
「ああ、君がルーデリヒ君だね、何でもB級の冒険者で旅をして来たそうだね?」
「はい、ユーノス公国はファーミールの出身です。
ですが、周囲で今言われている様な英雄などでは無いですよ、たまたま運が良かっただけです。」
「随分と謙遜するのだな、話は既に、“暗黒星の導き”のオルテガ君から聞いて居るよ。
アルファードにあるダンジョンとこちらのダンジョンの縄張り争いに巻き込まれたらしいな。
何方のダンジョンも無く成らないように干渉しないようにしてくれたそうじゃないか、どうやったのかは知らんが。」
あいつか、成程、言われてみればアイツだけは、生還出来た奴らが大盤振る舞いしたあの宴会騒ぎの中、姿を見なかった気がする。
あれか、三羽烏の連係プレーって奴か?
はぁ、異様な速さで代官に情報伝達されてるから何事かと思ったら、そう言う事か、ジェットなんちゃらアタックって奴か?w
全員戦士タイプにも拘らず、三人揃ってたらマジで強いかも知れんな、連携がすげぇな。
そんな奴らにあれだけの装備渡しちゃって大丈夫だったかな、敵に回ったら厄介かも知れない。
まぁ、それもあり得ない、か・・・
あいつらやたらと俺をリスペクトして来る、すっかり俺の信者みたいなノリだ。
まぁ、元々三人揃って来ようとも、俺達エリーに敵う者がいるとしたら、自分達の並列存在の何れかか、テディー、タカシの何れかだけだろう。
どっちみち、あの手の武装は本体が作った物である以上、安全装置位は作ってあるか。
此方の敵に回る様であればいつでもその特殊性能をカットする事が出来る、はず。
「いえ、たまたま知り合いの錬金術師が作った人工ダンジョンコアがあったので挿げ替えてやっただけなんですよ。
この街のダンジョンは珍しく上へと延びると言う珍しい特性だったので、それが原因で他のコアと喧嘩になったと考えて、下へ伸びる物にコアを挿げ替えただけなんですよ。」
「いや、それにしても咄嗟にそこに考えが至ると言うのはその判断力が君の実力に繋がって居ると思うのだ、是非一度、我が国の騎士団を見学しに来て欲しいのだが、どうかね?」
「いきなり騎士団、ですか?
守備隊や門兵では無く?」
「その通り、私はその位君を評価して居ると言う事なんだが、どうかね?」
「そうですね、命を掛けたダンジョン攻略をして自力で稼がなくても高給取りに成れるのは魅力的ではあります、ですが、新たな土地やダンジョンで出会う人や新たな魔物を楽しみにしている自分も半分は居るのです。
一晩考えさせて頂けないでしょうか?」
と、言って置こう、そんなに安く無いぞと言うアピールにも見せられてますます取り立てやすくなるだろう。
「うむ、確かにすぐに答えを出せと言うのは自由人の冒険者にとってとても難しい選択を迫る事になる、良かろう、明日今一度出向いて参れ、その時に答えを聞かせて頂こう。」
「ありがとう御座います、明日までには答えをご用意出来るよう、努力させていただきます。」
「うむ、おお、そうそう、この度の褒美を用意してあるのだ。」
そう言って代官は手を叩いた。
すると、部屋の前に詰めていたと思われるバトラーが、手盆に積んだ大金貨をこれ見よがしに掲げて俺に差し出した。
「ルーデリヒ様、此方をお納め下さい。
ダンジョンの攻略報酬、有力冒険者達の救出報酬、そしてダンジョンの保護報酬、大金貨1200枚で御座います。」
思ったよりも大きな額になって居た。
仕事をしなくても一生何不自由無く生活出来るだけの額だ。
こんなにデカイ額を出してしまうと欲の無い奴だったら騎士団にも行かずに冒険者も辞めてしまいそうだよな。
しかし、これだけ礼を尽くしてくれるのが、代官とは・・・
勿体無い話だと思う。
こんな器のでかい大物には独自の領地を与えてやった方が良い仕事をするのでは無いだろうか?
実に勿体無い事だ。
しかし、彼のような出来る代官のおかげで、俺の潜入も上手くいきそうだ。
翌日、お誘いを受ける事にしましたと伝えると、早速行こう、すぐ行こうとノリノリでこの代官は私を馬車に押し込むと、何故か居城の裏山の断崖へと馬車を移動させる。
驚いた事に、そこには立派な門があり、それを開くと、何処まで続いているのか判らない程のトンネルの闇が広がっている。
そして驚く事に、その天井には、等間隔に裸電球が下がってその闇を照らして居るのだ。
我々以外にこのような物が作れる奴がいると言う事か・・・
いや、我々の創る物はもっと上の科学力が必要な物ではあるのだが。
どの程度の科学力を保有して居るのかは未だ計り知れないが、それでも確実にこの国はそんな科学力を保有して居る事には間違いは無いのだろう。
「代官様、これは?」
「不思議かね? これはな、電球と言って、電機、要するに雷の現象を引き起こす現象を応用して光る道具だ。
これを、現皇帝、ブライト様が発明した物だ。
世の理を紐解く力、化学とか申しておられたが、それによって作られて居るらしい、ワシにも良くは分からぬが、お若いのにそのように学の深いお方だ。
これからそんな皇帝様の居られる首都へと、この通路は繋がっている。
地下道と言うらしい。
その内ここにも列車と言う物を走らせたいと仰って居られた。
鉄の電気で動く馬車を幾つか連結させたような物らしいが、それを作る前にやる事がある為に資金が必要との事だ。」
成程、この代官には戦争を仕掛ける為の資金を集めているとは伝わって居ないのだろう。
それにしても、随分と信頼されたものだ、他国の人間であることは明白な俺にこんなに国家機密に匹敵しそうな情報を良くぺらぺらと喋るものだ。
そうか、これが代官止まりである理由なのかもしれない。
何となくだが、このレビルと言う代官の人と成りが判った気がする。




