潜入2
潜入2
アッサリとアルファード帝国の都市のひとつに潜入できたが、もっと厳戒態勢を取って居るものと思って居たのにこうもあっさりだと肩透かしに感じる。
だが、その理由も意外とあっさりと解消されたのだった。
驕ると言ったとたんにサラッと尻尾を振って来たこの飲んだくれ冒険者、割と事情通で、何でもかんでもさらっと喋ってくれるのだ。
こいつに言わせると、この都市、ベルファイアはアルファード帝国の言わば外貨稼ぎの為に世界に門戸を開いた広報都市のようなものらしい。
つまりは、この都市を伝手として外国との貿易などをし、稼いだ外貨を使い軍備の強化に宛てて居ると言う事なのだろう。
驚いた事に、この国の産出物は、殆どが、冬の暖房器具の為の燃料だった。
石炭、灯油がその主だった輸出品だ。
魔道具のコンロが現存数が僅かである事も手伝って、大半がこの燃料を使って料理をして居ると言う事もあるようで、日用必需品らしい。
成程、燃料関連が概ね独占状態であれば外貨を稼ぐなど造作も無いだろう。
それと、私は山越をしてしまった為に大変なルートだと思ってしまって居たが、この都市から西へと移動する分には緩やかな下りで楽に移動できる上に、途中途中にある村には宿泊施設もしっかりと存在しており、その先には港街が存在して居た、海から潜入すれば良かった気がしないでも無いが、ファンレイがメンテナンス中な事を考えたら致し方が無い事だろう。
まぁ、就航してから初めてのメンテナンスだし、そう考えれば長い事故障も無く良く持ってくれたと思わなくは無いけどな。
しかし、今更ながら考えて見れば、ファンレイが2番艦を建造されて居ないと思って居たのは私の思い込みだけだと言う気がしてならない。
私の本体の事だから、二番艦くらいは建造して居た筈だった、なのに私にファンレイのメンテナンスを理由に地上からのアプローチをさせたのは、本体が楽しいから、だろうな、きっと・・・はぁ。
どうせ私の事だから間違い無いだろうな、何故今までそんな事に気付かなかったのだろう。
恐らくファンレイを使って港からアプローチすればあっさりとこの街へ辿り着いたであろうに。
まぁだが、フェンリルギアが私用にサイズ調整されて居たので、多分これを私に宛がう為の口実だったのではないかとは予測出来る。
まぁ、本体がそうしろと言うのだから何かしらの意味はある筈なので良しとしようじゃないか。
さぁ、何はともあれ今はこのお調子者冒険者が、ぺらぺらと喋ってくれる情報に耳を傾けるとしよう。
このお調子者はジュリアと言う名で、暫く前に相棒のクワドリフォリオと一緒にこの国の騎士団に所属して居たらしい。
その相棒は今どうしたのかと聞くと、彼は最近この街の近くにあるダンジョンのスタンピードでその若い命を散らしてしまったらしい。
この街の近くのダンジョンと言うのは、天然のダンジョンで、一説によると最下層の手前の階層で二つに分かれていて、帝都アルファード側へと繋がって居るらしい。
つまりは入り口が二つあるタイプのダンジョンらしい。
確かMkⅢもそんなダンジョンと遭遇して居る筈なので、そこには何ら不思議を感じる事は無いが、天然のダンジョンと言うのは入り口が複数ある物が多いらしい。
ようはこのお調子者は、国が管理して居たダンジョンのスタンピードに対抗する為に投入された騎士団員だったが、ボス部屋前に居たいレギュラーモンスターによって騎士団が壊滅、相棒を犠牲にして逃げ出し、こちら側の出口から脱出して来たと言う事らしい。
そして彼を探す為に冒険者と成って暫く活動を続けてきたが、アンデッド化した彼に遭遇した為にこうして絶望の内に飲んだくれている、らしい。
で、その国が管理してる筈のダンジョンがどうしてベルファイア側では冒険者が普通に潜れるのかと言う疑問に対して突っ込んでみると、こちら側のダンジョンはコアの場所も既に周知と成って居る浅い階層までしか無かった物だったが、最近そのスタンピードで繋がってしまったらしい。
そして騎士団が壊滅してしまった為に未だ国は繋がった事に気付いて居ないらしい。
どうやら潜入するのに使えそうだ。
もう一杯奢ってやると、今度は本国の事について話し始めた。
皇帝は現在病床に臥せって居て、実権を握るのは皇太子のブライトになるらしい。
これは既に二年程も前からと言う事で、恐らく国王は既に崩御されて居る可能性が高い。
何故公表せず、皇帝を名乗らないのかは判らないが、何らかの理由があるのだろうか。
そして実際に実権を握るようになってからと言う者、妙に外貨を稼ぐ事に躍起になって居たり、鉄を筆頭に金属類を輸入する量が大幅に増えた、とか、やけに硝石を採掘する事に人員を割くようになったりなど、おかしな行動が目に付くようになったのだとか。
今回のダンジョンが繋がってしまった訳は、鉛や銅が採掘できる階層を掘り進めて居た事が原因では無いかと、元兵士としては思う所らしい。
これだけでも十分な情報な気がするけれど、是非どんな武器を生産して居るのかが気になるので潜入して実際に見たいと思う。
どの程度の時代の武器なのかが判ればある程度対抗策が生まれるというものだ。
首都アルファードは厳戒態勢の為、現在、王族関係者並びに一部の軍関係者以外、一切の通行が遮断中らしい。
そうなると、この街で名を上げてスカウトされるしか、無いか?
まぁ、やれるだけやって見よう。
お調子者冒険者と別れ、依頼の貼り付けてある掲示板へ。
bランクで受けられる依頼は多いが、あまり簡単な依頼では名声が上がらないだけでなく、低ランク冒険者から白い目で見られることになってしまう、ここは難易度BからAの実力を見せ付けてやるためにも、高ランククエストを単独達成の偉業を達成でもせねば成らないだろう。
しかしこれが、そう言った物を探している時には良い具合の物が見つからないと言うのは良くある事で、ようやく見つけたクエストが、これだ。
「ダンジョン内で蔓延るオーガの里を駆除せよ」
誰がこんなヤバそうな依頼を受けるもんかと言わんばかりの物だ、こんなのしか無いとは・・・
ソロでは少々きついかも知れないが、致し方あるまい。
ジョブは、シノビと、アサシンを選択するか。
あ、言うのを忘れていたけれど、私達エリーは、ハイエルフに成った事で、同時に二つのジョブを装備する様にピックアップして使えるようになったんだ、まぁ、これも電脳やナノマシンと魔素の技術が生み出した特殊スキルではあるのだが。
だから本体やMkⅢ達がバトル時に魔法使いながら刀振ってたり、格闘術使いながら魔法使ったりしてるだろ?
あれは私達エリー並列存在だけのスキルのおかげなんだよね。
まぁ、魔剣士や魔法剣士であれば魔法使いながら斬り付けるのが出来ても可笑しくは無いのだけど、魔法剣士や魔剣士では刀は扱いきれないからな。
今回私の選んだのは、徹底的に自分の存在を消して暗殺のようにして倒して行く方向性で考えて選んだジョブ。
この都市、驚いた事に私が考えたダンジョン都市の姿をそのまま既に取っていた。
どんなスタイルかっつーと、ダンジョンの入り口の横に街を作り、そのダンジョンまでは専用通路を作って周囲を塀で囲む。
これでこのダンジョンは街とも隔絶して居るが許可の無い余所者にも勝手に潜られる事も無い訳だ。
ここのダンジョンは又妙なダンジョンらしく、入り口は下に向いて居るのに階層は上へと伸びて居るらしい。
それの何処が変わって居るのかと言うと、別に山のような所に開いた洞窟の様なダンジョンと言う訳では無く、地割れのような下へと向かう穴がダンジョンの入り口であって、その周囲はこの街の盆地そのままの上には延びようの無い地形だからだ。
なんでこんな不思議なダンジョンが存在するのに魔法等に誰も気付けなかったのだろう、考えれば考えるほど謎は深まるけれど、魔法を作り出してしまったお陰で、その内解明出来るのでは無いかと思って居る。
早速ダンジョンへと向かうが、ダンジョンへの通路の手前の門で、止められてしまった。
「貴様、見ない顔だな。」
「ああ、すみません、旅をして来たB級の冒険者なのですが、このダンジョン内に出来てしまったオーガの集落を駆除して欲しいと言う依頼を受けまして、この通り通行許可証も発行頂きました。」
と、書類を見せるが、まだ納得しない。
「偽の書類では無いのか?
公文書偽造の罪も付けてしょっ引くか?」
なんか、門番同士で物騒な会話をして居るのが聞こえてしまったので・・・成程、そう言う事か・・・
「もし、門番さん方、お仕事大変でしょうから、非番の日にでもこれで好きなだけ飲んで下さいよ、はい、貴方の方にも。」
そう言って大金貨を一枚づつ渡すと、目を丸く見開いて一瞬固まった後、強張って居た顔がゆるゆるに緩む。
「ああ、うん、問題無さそうだ、通って良いぞ、しかし、B級冒険者ともなると、稼いで居るようだな。」
次もよろしく頼むぞ、と言わんばかりに一言付け加えて通してくれた、チョロいな。




