番外編25:我が子の成長
番外編25:我が子の成長
-カイエン-
新発見のダンジョンに入って二日、40階層のフロアボスの軍隊蟻が厄介過ぎてエリーに打診を入れたが、彼女は来ない、らしい。
代りに、彼女の弟子と成って居た俺の子供達、タイカン、ボクス、パメラの三人を合流させるとの事だった。
多少心配ではある、が、かの大賢者のお墨付きなのだからきっとかなりの成長を果たしたのだろう。
期待はしている、けれど、我が子である事実が心配と言う方向へと俺の感情を持って行ってしまう。
我が子可愛さと言う事なのだろう、数カ月前、エリーがクリスの出産の手伝いをしに来た時に、俺とマカンヌの全身義体をバージョンアップして帰ったが、それ以来、人間らしい感情が徐々に戻って来て居るのは気のせいじゃない。
全身義体は、人として必要な感情等を促す分泌物を発生させる事が出来なかったのを、かの大賢者はその欠点すらも克服させたと言う事に成る、どれだけ末恐ろしい技術や知識なのだろうと思う。
兎に角今、俺の中には心配と期待が渦巻いて何とも落ち着かない気持ちなのだ。
それはマカンヌも同じ事のようで、俺の隣で複雑な表情をしている。
それにしても、これ程の規格外の存在のエリーが大丈夫と思って送り出したのだから、そう考えると少し期待の方が強くなる。
と言うか、今回のエリーはMkⅢの方では有るけれど、それでも並列存在である以上同一人物、信頼感は変わらない。
様々な思考を巡らせている内に、タイカン、ボクス、パメラの三人がこのダンジョンへ到着し、この40階層フロアボス部屋前に到着したらしい、思っていたより早かった。
ここ迄攻略し、せんめつしてきたからといって、新しく発生した魔物達を倒しながら来ている筈だ。
これ程の速さでそれを攻略して来た事に成る、この子達はいったいどれほどの力を付けて来たのだろう。
「パパ、ママ、会いたかったよ、久しぶり!」
パメラが少し成長して大人びているように見える。
「父さん、お待たせ、キースさんもお待たせしました。
僕らが来たのでもう戦力不足には成らないと思います、特にパメラは凄いですよ!」
自信が有りそうだけど、それ以上にパメラへの信頼感が半端じゃ無さそうなボクス。
「ホントホント、初めは俺達が護ってたのに、いつの間にか俺達が護られてる気がするもんな。」
少々呆れた風なタイカン。
そんなに凄いのか、パメラは。
期待以上かも知れない。
「お前達、久しぶりだな。
元気にしてたか?
済まないな、エリーに預けっぱなしで、寂しかったんじゃないか?」
「うん、寂しかった、けど、エリー師匠は優しかったしご飯も美味しいし、パメラも師匠のおかげで強く成ったんだよ?」
パメラは甘える時、一人称が自分の名前になる。
と言う事は今の発言は、既に俺やマカンヌに対して甘えている筈なのだけれど、そうは聞こえなかった気がする、だが最後の言葉で、褒めて貰いたかったのだろうとは理解出来る。
エリーは良い師匠だったみたいで少し安心したけどな。
「そう、良かったわね、パメラがどれ位強くなったか、ママにも見せて欲しいわ。」
マカンヌがパメラの頭を撫でながらやさしく褒める様にそう言った。
パメラは嬉しそうに笑顔でその手を受け入れて撫でられている。
俺も撫でてやる積りだったのに、マカンヌに先を越されてしまった。
仕方無いので、父らしく威厳のある言葉でも紡いで置くことにした。
「パメラ、押さなかったおまえが良くぞエリーの修行に耐えてここ迄になったものだ、父として誇りに思う。
今回は、期待して居るぞ。」
「パパ、口調が固い~。」
う、しまった、少しやり過ぎたか?
娘に嫌われては困る。
「パメラ、父さんはきっとかあさんに先を越されて拗ねて居るんだよ。」
なっ!? なんつー事を言うんだタイカン!
図星だけに少々きついぞ。
「何を言って居るのかな?タイカン・・・」
「父さんは判り易すぎるんだよ~、パメラを真っ先に撫でて褒めてやろうと思ってたのも母さんに先越されてちょっと拗ねてるのも、バレバレだよ?」
墓穴を掘ってしまった。
「も、もう良い、そう言う事にして置く。」
くっ、ここで否定しようものなら尚更煽られる、エリーのせいだな、この煽り体質になったタイカンは・・・
「あー、なんだ、兎に角、お前達が来てくれたおかげで手数はかなり増えただろう、あの軍隊蟻を壊滅させるさんだんはついた事だし、攻略する前に腹ごしらえと行こうじゃないか。」
「そうだったわねぇ~、久しぶりに私のご飯を食べさせてあげられると思うと嬉しいわ~。」
「ママの作るキッシュ大好き~。」
パメラは本当にマカンヌの作るキッシュが大好きだな。
「師匠の作る唐揚げと同じぐらい好き~。」
ちょっと今の追い打ちでマカンヌが傷ついてる気がするが・・・
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食事を終え、食休みの時間に作戦会議と行く事にしたのだが。
「手始めに私がレギオン級極大魔法で一気に半分以下に減らすとしてぇ・・・」
今のパメラの発言で、一瞬、場が凍り付いた。
そんなとんでもない魔法が使えるのか?
「パメラ、そんな魔法が使えるのか?」
訪ねて見ると、アッサリと返答が返って来た。
「うん、第8階梯魔法のトルネードとライジングフレイムを同時発動でフレイムトルネードの炎の竜巻を発生させるとかぁ、第7階梯魔法のロックミサイルと第6階梯魔法のフレイムウォールを組み合わせて溶岩と化したロックミサイルを広範囲にぶつけるマグマミサイルとか?」
聞いた事も無い複合魔法がパメラの口から出た。
これには俺やマカンヌだけでなく、最近第七階梯魔法迄使えるようになったオーブや、魔法剣も使い熟すカレイラ迄が驚いている。
それだけ難しいのだろう、パメラの発言にあった複合魔法と言うのは。
「カレイラが驚く程に難しい魔法なのか?」
そう俺が聞くと、カレイラは複合魔法の難しさを解いてくれる。
「お父さん、エリーさん以外で複合魔法が使えるって、凄いかも知れないのよ?
私にも無理だけど、同時に二つの魔法を発動させるって事なのよ。
それってとんでもない事なの。」
二つの魔法を同時に発動、それは確かに難しそうだ。
魔法が使えない俺にも何となく解る。
「一人でそんな高位の魔法を同時に発動するなんて、少なくとも私は、エリ―さんだけにしか出来ないと思ってた。」
カレイラに此処まで言わしめる程の難しい魔法と言う事か、パメラはそんなに凄い魔導士に成ったと言う事なのか。
エリーに預けて、正解だったと言えるだろう。
少なくとも、我が愛娘が簡単に死んでしまう弱い存在では無くなったのだから。
ゴブリンなどの下級の魔物に弄ばれて食われるような事が無くなったのだから。
「そうか、凄いぞ、パメラ。
いつかこいつと一緒に魔王を倒す旅に出る事に成るかも知れないな。」
俺はそう言うと、家族の再会の場だからと後ろに控えて大人しくしていたアキヒロを引き釣り出して背中をたたいて前に出した。
「師匠、やめて下さいよ!
もしかすると魔王も討伐するような対象では無いかも知れないって話しだったじゃないっすか。」
いきなり引き合いに出されて困惑するアキヒロを皆で笑い合って、結局はパメラの複合魔法に頼って一気に殲滅する方向で話は纏まってしまった。
しかし、こんなに凄い成長をして居るとは思わなかった。
実際のフロアボス戦でも、パメラだけではなく、タイカンとボクスの素早いだけでは無く力強さが目立っていた。
いつの間にか息子達にも追いつかれて居たかも知れないと思うと、嬉しいが、代わりに少し寂しい気もしたのだった。




