ギルマスに招待されました。
ギルマスに招待されました。
冒険者ギルドに帰ると、受付の所でさっきのアホの子が何だか毒づいてた。
やっぱ一回死んで見たら良いと思うよ?
大した腕も無い上にあんなトレイン引き起こして人様に迷惑掛けまくって、その上こんな所で何を毒づいてるのやら。
「あ、エリーさん、ちょっと来てください。」
「なに?私ちょっと今機嫌悪いんだけど。」
「すみません、あそこのウェイスさんがですね、貴女が不意打ちをして彼から解体中の素材を奪ったと主張してまして、お話を聞きたいんですけど。」
「あのさ、何であんなカスから私がそんな事せにゃならんのよ、あいつがファングの群れをトレインして私の採取してたポイントに突っ込んで来たから薙ぎ払ってむしろ助けてやったんじゃないか、そんな馬鹿にそんな事言われる筋合い無いよ、っつーか嘘付いたら判る魔道具っつーかクリスタル有るでしょうに、何で使わないのさ。」
「あ、そうでした、そうですよね、早速使ってみます。」
そんな事も頭から抜けちゃうほどの過酷な労働条件なのだろうか、やはりブラック企業だな、ギルドって・・・
冒険者は基本自由人だから良いにしてもギルドの職員にだけはならない方向で行こう。
それは良いとしてさ、クエストの達成報告したいんだけど順番待ちしなきゃいけない感じ?
あのおバカさんのお陰で?
面倒だな、仕方ないから先に毛皮でも売り払いに商業ギルドにでも行って来るかな・・・
て考えてたら。
「お待たせしました、エリーさん、ウェイスさんの処理の間にギルドマスターがエリーさんの達成報告を受けて下さるようなのでこちらに。」
「えー、ギルマスの部屋に行くの?めんどくさいなぁ。」
「まぁそう言わずに、あっちはもう暫く掛かりそうなので是非。」
「ん~・・・仕方ないね。」
ギルマスの部屋に呼ばれるなんて面倒事しか見えてこないんだけど仕方が無いか・・・
「エリーさんをお連れしました。」
「はいれ。」
入室する、どんな奴かと思ったら、早い時間に来るとびっこ牽きながらギルド内掃除してるおっさんじゃないか。
「何だ、あんたがギルマスなんだ、掃除のおっちゃんかと思ってた。」
ついポロっと言ってしまうと、笑っていなされた。
「いや、呼び立ててすまんな、実は色々と聞きたいことが有ってな。」
「なんか面倒事しか思いつかないんだけど何が聞きたい訳?」
「いやすまん、そう身構えないで欲しいのだが。」
「だってこんな高級そうなソファーに座らされて扉の前に職員立たせて逃がさない気満々じゃん。」
「そう言われると大変心苦しい所だが、ちょっと色々あってな。」
「まぁ、何となく察しは付くんだけどね~。」
「って事はやはりあのローポーションって奴は聖女様でもなんでも無くお前さんが齎したって事で良いのかな?」
「やっぱ気付く人は気づくよね~、そうだよ。」
「判った、でもこれは内密にって方向で間違って無いんだな?」
「当たり前でしょ、あんなもん私が作ったなんてバレたらどこぞのキチガイ貴族が黙っちゃいないんじゃない?」
「ああ、やっぱそう思って聖女を捏造したって事か。」
「で、ギルマスは私の敵?それとも味方?」
「随分ストレートに聞いて来たな、だが俺は、敵にはしたくないとは思っているが今の所味方でも無いと言うポジションかな?」
「ギルマスも物をハッキリ言うタイプですか、でもその方が探り合いに成らなくて良いですね、でも私の敵に回るのであれば全て叩き潰す気ですからそのつもりでお願いね。」
「おおこえぇ、でも、確かにお前の存在は俺には脅威に思えて仕方が無いんだ、もし敵に回ったらその通り街ごと潰されるんじゃ無いかと思ってる、だから敵にだけは回らないつもりだ、今の所中立と思ってくれ。」
「ふぅん、どんな相手に対して中立なのかは知らないけど、中立ってのは危ういよ?
一歩間違えると孤立すらし兼ねないから気を付けてね。」
「そうだな、気を付けよう、そこで、だ、そちらからの情報を引き出すだけでは信用されないのも当然だからな、こっちの情報も知らせておく。
実はな、この街の領主がちょっとな、頭を悩ませているんだ。」
「成程、つまり情報を相手に開示して良い物かどうなのかって所?」
「うん、それもあるんだが、あのローポーションってのはそう簡単に作れたりするものなのか?」
「う~ん、簡単では無いね、今の所作れるのは私と、作れるようになったあの教会の神父だけだからね。」
「やっぱりか、だが、作れるって事は他にも作れる人物が出る可能性が有ると言う事ではないのか?」
「無いとは断言しないけど、あるとも言い切れないかな?
私も少しこの世界の事が色々矛盾しすぎて居て理解に苦しんで居るからね。
かなり歪んだ世界だよね、実際。」
「その言い回し、少し引っかかるんだが、まるで他所の世界から迷い込んだように聞こえる。」
「そう聞こえた?
じゃあきっとそうなんじゃ無いかな?
私は、他所の世界で死んで、ここに連れて来られて転生したって事にでもしといて。」
ギルマスは驚きを隠せない様子でたじろいで居る。
「マジか、もしそうだとしたら、今このギルドにもいくつか存在する魔道具の制作者と同じと言う事に成るのか。
ハッキリ言ってあの道具は、なぜそう言う反応するのか、何故反応するのかすら解ってはいない。
何故ならば、あの道具を作った者は、その技を認めたがらない王族やそれに準ずる貴族達の手によって処刑されたからだ。
もしお前が本当にその人物と同じように転生して来たのだとしたら、お前にもあんな道具が作れる可能性が有る訳か・・・
俺まで頭が痛くなってきたぞ。」
今、なんか重要な事言ったよね、魔道具を作った人物も転生者だか転移者だったって事?
処刑された?
何で処刑なんてする?
「何故?そう悲観する事は無いよ、この世界には私の世界には無かった要素が存在して居る。
その使い方を誰も知らないと言うだけだ。
私もどんな物なのかを判らず調べてこの域に達しただけ、始めからこの世界に居た先人たちにはその要素を使えた者だって居たのでは無いかと思うよ。
むしろ居た筈、必ずそう言う事が出来る者は、言い方は悪いが奇形児が生まれるのと同じくらいの割合で生まれるはずだ。」
しかしそれを認めるにはこの世界は恐らく精神的に成熟していないのではないか?
最近色々調べている内に、もしかしたらと言う仮説の域は出ないものの、そこまでたどり着いて居たのだ。
「で、調べ上げたエリー君自体はどうなのだ?
それを使えるのかね?」
「まだ一部ではあるが使えるようになって来たからこそのあのローポーションなんだよね、何だったらあんたにも、使えるようにしてやろうか?
少なくとも体内に存在する物は、使おうと思えばだれにでも使える筈ではあるんだけどね。」
「そ、そうか・・・しかし俺はそんな能力要らん、狙われてはかなわんのでな。」
「ちょっと、鑑定させて貰ってもいいかな?
色んな人物を鑑定する事でこの世界の歪みの原因を探っているんだけどいかんせん今の所鑑定出来たサンプルが少ないのでね。」
「片っ端から鑑定して何かわかると言うのかね?」
「それは解らない、だけど、鑑定する事で現状は理解出来るようになってきている。
だからもっと鑑定出来ればもっと良い鑑定は出来るようになるし、もっと深淵に近づける事が出来るのでは無いかと思ってるよ。
実際にいくつか判った事は有るしね。」
「どんな事が判ったのかは、聞いていいか?」
「ああ、良いよ、この世界には、物質として存在しているかすら怪しいが、少なくとも私の居た世界には存在しなかった要素が有った、それは観測できたのだ。
さっきから話に出ている”ある要素”と言う奴がそれだね。
そして私はそれに魔素と名付けた、そして、その魔素は生き物の体内にもいくらか取り込まれて存在して居る。
しかも体内の魔素は自分の意思で使う事も可能で、様々な物に変化すると言える、私はそれを、自分の意思に支配された自在に使える魔素なので、既に元の状態から変質して居ると考え、敢えて呼び方を変えてマナと呼ぶことにした。
ここで尋ねたいのだが、奮い立たせる、と言うのか、自分の意思で自分の能力を底上げ出来る者は居るか?
言い方を変えてそんな経験が有るか? でも構わない。」
「まぁ、そう言う経験なら、現役冒険者だった頃に俺もある。」
「それはどう言う感じだった?明らかに変化が有ったのか?」
「ああ、明らかな変化ならあった。
今から10年程前、俺の妻とパーティーを組んで居たんだけどな、その頃の話だ。
ある時、そこでは観測された事のない強力な魔物が出てしまった、それも突然にだ。
その時、俺の妻がその魔物のターゲットになってしまい、必死でかばおうと飛び込んだ。
その時に、異常な脚力が発揮され、魔物にタックルをかます形になってしまったんだ。
そんなことをしたら普通なら魔物にぺちゃんこに潰されて居一巻の終わりだ。
ところが、大型だったその魔物を吹っ飛ばす形になった、俺の数倍はある巨体がな。
そいつは近くに有った崖まで吹っ飛ばされ、崖下に落ちて行った。
多分普通の人間にそんな力は発揮できないだろうな、あんなでかい、サイクロプスなんて鬼を吹っ飛ばせるなんて、在り得ないからな。
そしてその時に異常な脚力を発揮した俺の足は、その時に挫いて以来真面に動かない。
その後、俺は彼女を大事に思ってたんだと自覚し、冒険者を辞めてこうしてギルドに職員として入り、ここまでに至った。」
「成程、貴重な話が聞けた、じゃあアンタはマナを使いこなしたって事か、ちょっと協力して貰ってもいいかな?
少し調べたいことが有ってさぁ。」




