一体目の姉妹
一体目の姉妹
「あ、あの! 恵里衣様は一体何者なのでありんすか?」
「私は、タダの冒険者で聖女で賢者でハイエルフだけど?」
何処が”タダの”なのかはこの際置いておく事にした。
「あの、何処が、タダの、なのどす?」
そこ突っ込むんじゃねぇ。
「さぁさぁ、乗った乗った!」
強引にクリムゾンスパイダーに乗せる。
「あの、ちょ、ねぇ、どこが?」
「煩い、とっとと乗りなさい!」
強引に押し込むように乗せると、ブリッジへと移動。
「ここから5里ほど北って言ったわね、そしたらこの辺かな?」
表示させた島の地図の、現在地を確認してそこから少し北の付近をタップし、行き先設定とした。
そして、ストレージに入って居る食材を、クリムゾンスパイダーの食材用コンテナストレージへ移して、お茶でも頂く事にした。
「あの、何してはるんどす? 連れてってくらはるんとちゃいましたか?」
「ん?何言ってんの?もう走ってるよ?」
「は? どう言う事どす?」
「もう移動中だっつってんの、判んないかな?
そんじゃ見せてあげるわ。
外部映像出せ。」
『畏まりました、外部映像出ます。』
壁を一面使って、外部の映像が表示された。
「え?? えぇぇ~~!!???」
この子、わざと廓言葉使ってるよね、時折素に戻ると標準語っぽくなる。
「ねぇ、何で敢えて廓言葉なんか使ってんの?」
「何でって、おかしいどすか?」
「うん、おかしいね、素が出る瞬間はどう考えても廓言葉じゃ無いし。」
「そんな事おまへん、九尾の狐言うたら京は伏見、どこかおかしいどすか?」
「うん、おかしいね、京の都だとしても京言葉に成るだけで廓言葉には成らない筈でしょ?
それと、素が出た瞬間はどう聞いても江戸弁と言うか、標準語と言われる東京の言葉でしょう?
貴女、もしかして転生者ね?」
「う・・・ばれた・・・」
「ふぅん、転生して魔物に成る事もあるんだ、初めて見たけど。
じゃあさ、あんたは何年頃から来たの?」
「わ・・・わっちは、2200年の頃、激しい食糧難で、兄弟に殺されて・・・」
「へぇ、それでも今の姉妹を大事に思ってるんだ?
そんなにいい子達なのね?」
「す、少なくとも、姉妹同士では、仲良くしてます。」
「そうなんだ、仲が良いのは良い事よ?」
ソロソロ近くまで走ってきた感じだよね。
とか思って居たら、警報音。
あら~、何の警報かな~?
おぉぅ!早篭って奴?それが何か襲われてんのね、山賊?って風体か?
まぁこの位だったら、私が一人で出て行くとしよう。
袴姿に着替えて、折角だから邑雅を腰に差してっと。
着替えるっつってもナノマシンで瞬間的に着替えてるからね、あの時みたいに。
で、飛び出して走る。
「待て! 山賊ども!やらせん!」
と叫びながら抜刀して突っ込んだ。
こんな色の刀そうそう無いからね、一寸コッチ見てビビってる?ビビってるね。
上段から振り下ろして来る一人目の盗賊の刀を、邑雅の凶悪な硬さの嶺で受ける、すると当然のように相手の刀が折れて切っ先が飛んで行く。
そのまま嶺で更に小手打ちをして刀を落とさせる。
そのまま懐に飛び込んで裏拳で頬を殴りつけて意識を刈り取り、二人目の山賊へと向き直る。
突いて来たその刀を、左手で横へと払い、柄で鳩尾へ一撃。
三人目は所薙ぎに出たのでこれを飛んで刀の上に乗る気で足を降ろす。
素人に毛が生えた程度の山賊がその動きについて来られる訳もなく、横薙ぎにしたまま刃は地面に対して水平なので当然のように私の体重でも折る事が可能だった。4人目が刀を構えたまま蹴りを入れて来たので逆にその足を邑雅で切り落としてやった。
で、5人目、これがどっかで見たような鉄扇を投げつけて来たんだよ。
此奴だけ着物が女性的だったので女の人なのは間違いないと思いつつ、鉄扇はストレージに吸い込ませてウォーターボールを無詠唱で放って顔面にぶつけてやった。
これで無力化が完了。
取り合えずマカンヌ流緊縛術を見よう見まねで実行し、足ぶった切った奴は、治療魔法で繋いでおいてやる。
篭屋の二人も怪我して居るので治療。
「大丈夫? 中の人も生きてる?」
「助かった、ワシはこの先の小さな町で商売をしている番頭です。
御礼は致しますので護衛をお願いできませんか?」
篭から出て来たおっさんは、なかなかうまく商売をして居るようで丁寧で腰が低かった。
「良いわよ、ってか、その篭ごと送ってってあげるわよ。」
と言って、光学迷彩を張って近づいて居たクリムゾンスパイダーの姿を出させる。
「は!?魔物??」
「ああ、御免ね、これは私の作ったカラクリ、これに乗って行けば何も怖い事は無い。」
そう言って、駕籠屋の二人に、篭をスパイダーの格納庫に運ばせる事にした。
運び込んでいる真っ最中に、玉藻が出て来る。
「・・・姉さん、山賊してたのね?」
あ、やっぱそうだったんだ、どっかで見た容姿だし鉄扇も見た記憶があるなーって思ってたのよね。
「あら、あんた此処で何してんの?」
「強い人見つけたから姉妹集めに来たの。」
「そう、あんたが強いと言うのだからお母様より強いのでしょうね、ならば異論は有りません、貴女を前として私が尻尾となりましょう。」
そう言ったかと思うと、姿が搔き消えて玉藻の尻尾が2本になった。
へぇ、成程融合ですか。
玉藻の気配が2、5倍位に強くなってるね。
「融合したんだ、強くなったねぇ?」
「ええ、多少どすけど。」
「試しにどの位強くなったか、模擬戦しよ?」
「勘弁して下さい、恵里衣様、わっち如きでは8体揃ってもかないませぬ。」
「でもほら、どの位強くなったか判るじゃ~ン?」
「いえいえ、恵里衣様の覇気だけで失神する程の弱さだったのですよ?それは多少強くなったとて・・・」
「そうか、まぁしゃあないか。
さ、じゃあ次ぎ、行ってみようか?」
「はい! ありがとうございます。」
「んじゃ先ずこの番頭送り届けてからだね。」
こうして、実質9機め、新8号のクリムゾンスパイダーは走り出したのだった。




