番外編14.旅路にて。(ジ・アース)その6
番外編14.旅路にて。(ジ・アース)その6
―クリス―
あの村を出て、凡そ半日ほど走った。
カイエンさんもキースも、何だか変だったから、ここまで走ったら少しほっとした。
確かに玉藻さんはすっごい美人で色気もあって、私じゃ敵わないかも知れないけど、二人とも熱に浮かされたように玉藻さんに対して妙に優しく接して居た気がするの。
カイエンさんなんか、マカンヌさんなんて言う素敵な奥さんを差し置いて玉藻さんに付きっ切りだったから、だんだんマカンヌさんの機嫌が悪くなっていくのもすごく良く判ったもん。
あの人は、あまり構っちゃいけない人なんだと思う。
実は玉藻さんだけは、鬼人ではなく亜人だった事も私は見抜いて居たけど、キースは多分気が付いて居ない。
多分、玉藻さんはシルバーフォックス系の亜人だと思う。
何故かは解らないけどちゃんと小さな角もあったけれど、あれは間違い無く鬼人とは別の者だとおもう。
その辺、マカンヌさんも気が付いて居ると思う。
普通、鬼人の方がきつね亜人より身体能力も高く確実に強い筈なんだけど、どうしてあんな風に狐亜人の玉藻さんが鬼人を従えて居るのかも謎なんだよね。
完全に逆転してるもんね、立場。
もしかすると、魅了の常設スキルが隠しスキルとして持って居て発動し続けているのかも知れないって思う。
エリーの鑑定なら見る事も出来るんじゃ無いかな?
そろそろお腹が空いたし、お昼にしようと、キースから電脳通信が入った。
丁度、標高はかなり高めだけど、丘の様になった所に小さな湖があるので、その湖畔でスパイダーキャンプを張る事にした。
歩くのが面倒になった私達は、街道から少し離れた所をクリムゾンスパイダーで、木々を避けたり、時には森を切り開いて進んで来たので、この湖は周囲に人の気配は一切なかった。
逆に、動物や魔獣の気配はたくさんあるけど、カイエンさんの勇者覇気のお陰で周辺にはほぼ入っては来ないらしい。
まぁ、湖になんか居た場合は別だろうけど。
とかって思ってる矢先から、湖で巨大な魚がはねた・・・
って言うか、デカすぎなんですけど。
湖の面積の5分の一程になりそうな魚だったよ、今の、明らかに魔物化してるよね?
それを見て。釣りしようとか言い出したキース・・・流石に釣れないでしょう?
もしかして馬鹿なの?
カイエンさんまで一緒になって釣り竿担いで走って行っちゃった・・・
マジこう言う所は男ってバカだなーって思うわ。
マカンヌさんとカレイラも思わずため息ついてるし。
それにしてもエリーのくれた知識は凄い物だった。
ろくに料理なんかした事が無かった私がこうして料理を作って居るんだから、しかも、味見をして見てもムッチャクチャ美味しいと思う。
マカンヌさんも、まさか自分の料理の腕がこうも上がるとは思わなかったとぼやく程。
しかも、カレイラを含めた三人で料理の分担をするにつけても、これから作る料理を決めてしまいさえすれば、電脳で自動的に作業を割り振って次にするべき事を指示されて居るのと同じでとってもスムーズに分担作業が出来てしまう。
結果、あっと言う間に料理の仕込みが終わってしまい、直ぐに仕上げの料理を始められる段階へとたどり着いてしまう。
その上、完成までの所要時間までが脳内でカウントされている状態になる。
あと5分で料理が完成すると思って居た矢先、湖の方が騒がしくなった。
手を止めずにふと其方に視線を向けて見ると、キースの釣り竿がとんでもない角度に曲がって居るのが見える。
え?まさかとは思うけど、あれ、掛かったの?
とんでもない大物じゃ無いのよ!
カイエンさんが竿を上げてサポートに回ったみたいだった。
その大物がライズした瞬間、カイエンさんがジャンプしてあの巨大魚に蹴りを入れた。
あ~・・・あれは効くわよね~、脳震盪起こしたっぽい・・・
バーンと大きな音を立てて、脳震盪を起こした魚が湖にその巨体を打ち付けるようにして動きを止めた。
本当に釣っちゃったよ、キース達・・・
まぁエリーのお陰でちょっとやそっとじゃ驚かなくなったけど、やっぱ凄いよね。
「おーい! 釣れたぞ~! 一品追加だ~!」
キースのテンションがすごい、子供のように燥いで居る、こう言う所、可愛いって思っちゃうのよね。
「良いけどそんなデカイのそのまま持ってこないでよね~、ちゃんと血抜きして捌いてから持って来なさいね~。」
あんな巨大な魚直接持って来られても迷惑だしね。
「ふふふ、クリスちゃんもうまくコントロール出来てそうねぇ~。」
何だか良く判んないけどマカンヌさんに褒められた。
だけど、確かに最近キースの子供っぽい所とかがとても良く目につく感じで、可愛いって思っちゃう事が多いのは確かかな?
でも、あれ以来キースに守られて居る感もあって、心に余裕が出来たと言うか、ね?
それもエリーのお陰よね。
誰が何と言っても私の中ではエリーは師匠であり親友であり、私の神様みたいな存在。
もしもエリーを魔王に認定する国が有ったら、私はエリーの味方に付く積りだ。
まぁ、本人的には邪魔だからほっといてくれとか言い出しそうだけど。
此処に居る全員は、エリーのお陰で今こうして冒険者して居られるし、無類の強さをも手に入れている。
このメンバーで誰もエリーに仇成す気がある人は居ないだろうね。
次にエリーに会う日までにはもっと強く成っておきたいな。
少しでも追い付けるようにね。
取り合えず、お昼ご飯の予定料理は一通り完成
ジャイアントボアのお肉の豚丼と、豚汁、それに付け合わせの山菜のナムル。
そして、今到着した、湖の巨大ヒメマスの照り焼きでも作ろうかな。
ヒメマスって小さいマスじゃ無かったっけ?
何でここまで巨大になっちゃったんだろう・・・
ってかこのサイズの魚が湖のような限られた空間に居るって、他の物全てがこの魔物化した魚の餌となり、その上でもエサが不足してた筈。
多分だけど、湖の近くに来た他の生き物片っ端から食べてたんじゃ無いかな。
一歩間違えたら私達が逆に此奴のお腹の中にダイブしてた訳よね・・・
イヤすぎ。
魔物化して上位種になって行く程、その肉は美味しくなった。
魚でも一緒だったと思う。
これ程のサイズになって居ると言う事は恐らくこの魚の魔物化個体としては最上位種に達して居るんじゃないかと思うのでその美味しさには期待が持てるよね、楽しみ。
早速照り焼きのたれを作り上げた私は、焼きを担当して居たマカンヌさんにそのたれを渡して一通り仕事終了したので、豚丼と豚汁の配膳に回る。
おお~、美味しそうな香りがしてきた~、これは若しかすると、メインの豚丼を凌ぐ美味しさになるんじゃ無いだろうか、巨大ヒメマスの照り焼き・・・
カレイラと二人で配膳を済ませると、照り焼きが焼き上がってマカンヌさんが盛り付けを始めて居たので、カレイラが飲み物の用意、私が照り焼きの順二は以前に回って、今日のお昼は全部完成したのだった。
「「「「「いただきます。」」」」」
この挨拶は、エリーが使って居たご飯の前の挨拶で、このたった一言に凄く深い意味がある。
何度か聞いている内に私達も何時の間にか使うようになって居た。
早速、照り焼きに手を付けた。
「ん~~~!!! これ、最高~!!! うっま~!」
思わず声に出てしまった。
豚丼も豚汁も、全員で高評価を付けた。
旅の途中でこんな料理が食べられるようになったのもエリーのお陰、冒険を変えたよね、あの人は。
これからもエリーの知識にはお世話になって行くんだろうね、私達は。