平泉6
平泉6
御晩酌で師匠の息子さんを煽った翌朝。
「おはようございます。」
え、この人何で来てるん?
私があんなことしたから私に惚れちゃった?
うん、拙いな、やり過ぎたか?
私は少し引き気味に、「お、おはよう、ございます。」
奥から師匠が顔を出して来た。
「お、来なさったな?
それじゃ仕上げ始めるど。」
「あ、俺は見学です、多分今日の仕上げで完成する刀は親父の生涯最高の刀だと思うので、手は出さずに拝見させて貰います。」
「そんな事判るんだ?
何で?」
「隣の工房で、親父の打つ音が聞こえて来たので、聞き入って居たので判ります、恐らく、俺には、あんな音で叩く事は一生できないでしょう。
なので、どんな方に教示してるのか気に成ったんですよ、昨日は晩酌に顔を出したりして失礼しました。」
へぇ、私が煽らなくても一応向上心は強い方なんじゃ無い?
こんな奴なら私が煽らなくても良かった? いやそんな事は無い、遊びが足りなさ過ぎるんだよ此奴の場合、真面目過ぎるっつーか。
どんな事にだって遊びは大事なんだよ、全く遊びが無いとね、いとも簡単に色々破綻するんだよ、無理が出て来るっつーかさ、いざって時に踏ん張りが利かなくなるんだよ。
聞いた事があるんだけど、2回の世界大戦の頃に活躍して居たと言う牽引式の大砲の照準のハンドル、アレには結構な遊びが有って、照準が定まった時に時計回りに遊びを締め直す事でブレない様に撃つ事が出来るとか何とか。
要は遊びが有る事でその遊びにも使い道が出来たりもするものなんだよ、真面目な職人よりも遊びを知ってる職人の方が懐と言うか引き出しが大きく広くなる・・・って表現が良いかも知れない。
ようは人生経験が足りないっつー事かな?
良し、こいつにはこの平泉に存在する巨大遊郭街に何日か通って貰うとするか。
異性の良さも知らずに良い職人になるなんて無理と知るが良い、ふっふっふ。
いや私が筆下ろししてやっても良いけど流石に誰でも良いとまでは言わないのだよ、こんな年齢まで女っ気の一つも無いって事は未だなんだろ?
流石にそんな魔法使い君相手にするのは、一寸ねぇ・・・
ん?魔法使い?
鑑定して見るか・・・
あ、炎特化だわ、火属性通り過ぎて炎系の特化ってどう言うアレなのさ。
そう言う事なら魔導書-火・炎の章に小冊子”火・炎属性精霊について”を付けて置くか。
「あんたにこれあげるから、読んで見なさいな。」
「貰ってしまって良いのか? と言うかこれは何だ?」
「勿論、私が持ってても構わないけど、そんなもんイッパイあるからね、使える人が使ってこそでしょ? これは魔導書、魔法を使う為ノウハウを書いた書物よ。」
「イッパイあるって・・・」
「ん?見たい? ほら、こんなに。」
ストレージから今ある在庫の一部を出す。
「なっ!? こんなに? 何故こんな・・・」
「ああ、だってこれ、私が書いたんだもの、そりゃイッパイあるわよ、なんせ出版して貰おうにもこんなとんでもない物値段の付け方が判らないとか言われちゃってさぁ、私が適性がある人にあげるしか広める手が無い訳なのよ・・・」
つい目が泳いじゃった。
「さぁ、それじゃあそろそろ始めるぞい。」
「はい、師匠。」
「親父、今日は、大人しく見学させて貰うからよろしくな。」
「見学なんぞしてもお前の技は本来ワシを超えて居っても可笑しく無いのだ、遊んで来れば良いものを、全く真面目過ぎじゃのぉ。」
やっぱそうなんだ、って、師匠より技は上!?マジ??
こりゃ益々女遊び憶えて貰わないとダメよね。
女の私が言うのもなんだけどさ・・・
博打なんか憶えさせたら恨まれそうだもんな。
吞む打つ買う、この三大娯楽の内の吞むは、割と弱そうだから家吞みだけにして置いて貰いたい、周りに迷惑だからねw
で、打つ、の博打はこの位の年齢でハマっちゃうと心証潰すのは間違い無いので却下です。
なので後は、買う、の、女性を買って遊ぶしか無いでしょう?
私はお金貰って抱かれたりするのは嫌だけど、女性の最古の職業でも有るので否定はしない。
それで稼げるお陰で救われる命だってあると思うからね。
実際に孤児の大半が両親を事故や戦争で失った子が殆どで、まぁ極稀に両親に捨てられた子供と言うのも居ない事は無いけど、そう言う場合、お金が無いからという理由が殆どであって、奥さんは娼婦には成りたくない、旦那も日雇いには落ちたく無いとか、甘ちゃんな場合が殆どと言う事に成る。
それでも、子供を護りたい為に娼婦になる奥さんとかも当然居る訳で、そう言う場合は大概、子供を孤児にはしないのだ。
なので私は娼婦を否定はしない。
自分ではやらないだけでね。
って事で、斡旋してる飲み屋さんかなんかに連れてっちゃおう!
良し、方針は決まった!
そんな事を電脳の片隅で考えつつ、リソースの殆どはちゃんと刀の仕上げに向けてますよ?
折り返し鍛造は昨日一日で終わって居るので、後は伸ばして成型、その後の焼き直しを経て、最後に刃付で完成に至る、筈。
一番重要なのは焼き直しの時の粘土を使って作る刃紋の出来栄えになる。
この時の焼き直しでは、余り高温にし過ぎないように焼く、溶かしてしまっては身も蓋も無いしね。
焼き直しで炉から取り出した刀は、冷却用の油に突っ込み一気に冷ますのだ。そうしてできた刀の刃紋を確認する、うん、素晴らしい出来栄えだ。
最後の形成の為の叩きには私も参加させて貰って大変充実した刀作りだった。
何より、刃紋を作るための工程には大変興味を持った。
これは私の電脳にしっかり録画したので、何度でも見直しながら再現させて貰おう。
最終工程に入った、刃付、所謂、研ぎだ。
切れ味に直接影響するのでしっかりと研がなければいけないよね、私の技術を利用すれば、自動で砥げる性能になるけどね、ナノマシンを寄生させる事でね。
まぁ、つまりこの工程は一度しっかり覚えて、もっとも切れるようになるであろう研ぎ方だけ研究すれば良い訳だけど、逆に難しいんだよ、ここが一番。
シンプルな作業になる技が一番難しいよね、やっぱ。
こうして、ついに、師匠の渾身の作の刀が完成した。
私も玄翁を幾度か握らせて貰った作品、感無量だ。
完成した刀の柄に当たる部分に、銘を打つ。
師匠の付けた銘は、神刀|邑雅≪ムラマサ≫。
淡く日緋色に輝くその刀身は、実に神秘的だ。
その晩、私は師匠と師匠の息子さんを誘い、ナノマシンに検索させて見つけてあった、一見そう見えないが娼婦を斡旋して居る酒場へ連れて行った。
まぁ酒場と言うよか遊郭みたいなノリだわな。
少し高級な店なので師匠でも利用した事は無いと思う。
この店の2階、3階は店で接客をしている娼婦と仲良くなった客が利用する部屋となって居るらしい。
そこで御二方に一人づつ、一番人気のある子達を付けて貰うように支配人に金貨を4枚も握らせて置いた。
小判では無くあえて金貨にしたのは、その方が珍しがって喜んでくれると踏んだからだ。
そしたら大喜びで看板娘二枚付けてくれたね。
案の定、師匠も息子さんも気に入ったようで、師匠は会話がぐいぐい進んで居るし、息子さんの方はどうも女性と会話するのにやはり慣れていない様子で何だかモジモジして居たので、そこは流石No1になる子のようで、スキンシップもさる事ながら、耳元で囁くなんて高等テクニックも駆使して居る、いいね、ぐいぐい行っちゃってくれ。
ある程度まで盛り上がった所で、初めから師匠には授業料で私が全額払うと言って置いたので、支配人に女の子代の金貨も6枚置いて、そっと帰る事にした。
この支配人なら信頼に値するし、これだけ与えときゃ騙したりせんだろう。
トイレ行く振りして席を外して、支配人に帰る事を告げて、金貨をさらにチップとして二枚渡しておく。
したらな、この支配人、私が金持ちだから無理だろうし残念だけどこの店で働いたら付けてくれた二枚看板娘を出抜いてトップになれるのにとかボヤいたからちょっと英雄覇気漏らしたら、真顔になって謝ってくれたのでまぁ確実に息子さんの筆卸までは世話してくれるだろう。
さて、明日は一応世話になった師匠には挨拶して、この街の周辺で探索だね。




