平泉4
平泉4
「お前ら・・・何してんの?」
そりゃぁ、そう言う反応になるわなぁ~
座敷牢の畳を、通常だと牢名主が占有してしまって他は皆板の間になった所に居るものなのだが、畳はすっかり元通りに直されて、私がストレージから取り出したソファーに座ってミドルテーブルで七輪を炊き、これまで牢名主だった玉藻に鉄扇で扇がせ、他の連中に足や肩をマッサージさせつつ牛タンを焼かせ、1人で美味しくお食事しているのだから。
「見ればわかるっしょ、私のおやつタイムの続きだけど?」
「っつーか、それどっから出した!?」
「どっからでも良いっしょ、あ、食べる?」
「あのな・・・大人しくしろって。」
「大人しくしてんじゃん、大人しくおやつの牛タン焼いて食ってるでしょう?」
「この状況の何処が大人しいんだ? 牢名主の此奴は一体いつからお前の下僕に?」
「さぁね~、お前なんか言う事あるか?」
「いえ、何も御座いません。」
「ほらな? あ、おい、お前それ未だ生っぽいぞ、も少し良く焼けよ、全く使えねぇな。」
「は、はい、すみません。」
「お前らは良くやってんな、足も肩も気持ち良いぞ、一枚っつやるから食って良いぞ。」
「「「ありがとうございます。」」」
「なぁお前、自慢の鉄扇じゃ扇げねぇか?風来ないぞ?」
「す、すみません・・・もう腕が・・・」
「重くて腕が上がらんってか?そんな使い熟せもしねぇようなモン持ってるからだろ、もっとしっかり扇げよオイ。」
「なんか、牢名主変わったら途端に皆可愛そうに思えて来たな・・・」
牢付き番が哀れみを向けだした。
「何?何か私が悪者みたいにい追わないで下さる?
それともなぁに?
此奴ら可哀そうだから何も悪い事して無いのにこんな所入れられた私を開放する気にでもなったかしら?」
「お前、もしかして八つ当たりでやってんのか?これ。」
「それこそ人聞き悪いわ、私はお腹空いておやつ食べようとして準備してたら咎められて連れて来られたの、何も悪い事してない、で、お腹空いたまま連れて来られたからこうしておやつを今食べてるだけでしょう、何か悪い事してるかなぁ?」
「じゃあこいつらは何でこうなってるんだ?」
「おやつおすそ分けして欲しいからに決まってるじゃん?
そうだよね、お前ら。」
「「「「「はい、その通りです。」」」」」
「ほら。」
「はぁ・・・」
「そこ!何でため息!?」
「お前は一体何者なんだ?」
「私はただの、広場でおやつ食べようと思ってたらこんな所に連れて来られた可哀そうな美少女だけど?」
「全く、ああ言えばこう言う、何て奴だ。」
「私は絵理衣。」
「名前は聞いて無い。」
「んじゃハイエルフで賢者とか聖女と言われたりしてる只の冒険者。」
「もう良い!」
「え、もう出してくれるの?」
「んな訳ねぇだろ!」
「んじゃ何がもう良いのさ!
私は何の罪で此処に居るのよ!」
「もう勘弁してくれ!」
「じゃあ出しなさいよ。」
「あのなぁ、いい加減にしろ。」
「いい加減にして欲しいのはこっちでしょ?私の何が悪くて牢に入れられてるのか説明しなさい。
原稿用紙20枚に纏めて2時間以内に提出するように。」
「もう訳が分からん。」
「何が判んないのよ失礼な。
ちゃんと勉強しなさいな、話が通じないんじゃ会話も成立しないじゃ無いの。」
「もう勘弁してくれ~!」
「飽きた。」
「おーい!」
「じゃあそう言う事であんた達牢付き番のこの人と仲良くね~。」
転移で牢付き番と私の位置を挿げ替えて、外に出た。
「え?ええ?ええぇえ~~??」
「あ、そうそう、ソファーとテーブルはアンタ等に上げるから有効に使いなさいね、後これもあげるンじゃ。」
と、キングサイズベッドも出して設置し、普通に出て行く。
で、表の番屋の方に出て行きつつ、「あ、お疲れ様~。」
と外へ出ようとしたら。
「おいおいおいおい!!!」
呼び止められて肩を掴まれた。
「ん?なに?」
「どうやって出た?」
「別に?普通に置出て来たけど?」
「牢番は何してる?」
「あの子らとイチャイチャラブラブしてんじゃない?今頃。」
「はぁ??」
「心配なら見て来れば? じゃね~。」
「いや普通に出て行くんじゃネェよ!」
「良いじゃない、私悪い事して無いんだから。」
「いや、悪いだろ、あんな所で火鉢なんか出して肉焼いたら。」
「なんで? 駄目なんて法律有るの?
私この国の人間じゃ無いから解んないのよね~、判る様にして置いてくれないと~。
広場の入り口に注意書きするとかさ~。
私あそこなら広いから万一炎上がっても火事とか行く様な事には成らないだろうと思ってあそこにしたのに、ちゃんと考えたのよ?」
「ああもう此奴は面倒くせぇな、ああ言えばこう言うで話にならん。」
「何でよ、話に成らないと思ってるのはこっちよ、だってそうでしょう?何が悪かったのかもちゃんと説明受けないままにあんなかび臭い所に押し込めてさ、女の子の扱い方が成って無いわよ、そんなだからあんたモテないでしょう?」
「煩い!余計なお世話だ!」
「ほら、すぐそれ、ちゃんと解るような説明も無しにさっきなんかいきなり牢屋よ?
あの入ってた子達も只単にアンタを振ったから捕まえられてたとかじゃ無いの?可哀そうに。」
「ひ、酷い言われようだな・・・」
「どっちが酷いのよ全く。」
「はぁ、こっちが悪者扱いか・・・」
「だってそうじゃ無い、私は悪く無いわよ?」
「ああ、もうわかったわかった、帰って良いよ。」
「あ、そう、ありがと、なんか疲れてるみたいだからこれあげる、それとお礼と言っちゃなんだけどアンタ素養は有りそうだからこれあげるわ。」
そう言って、SP回復薬と緑の魔導書を手渡して番屋を出た。
さてと、おやつも食べた事だし、どうしよっかな~っと。
日が落ちるまでにはまだ少し時間が有るし。
暫く街ぶらをしていると、小気味の良いリズムを刻むような金属音が聞こえて来たので、その音を頼りに路地へと入って見る。
するとその先で、刀を打っている刀鍛冶を見つけた。
へぇ、知識として知っては居るけど、こうして実際に見る機会は初めてだな。
遠目に見ていたが、もっと近くで見たくなった。
鍛冶屋の戸の前に立ち、しげしげと眺めていると、背後から声を掛けられた。
「刀鍛冶に興味がおありかな?お嬢さん。」
「ええ、大変興味深いです、私は錬金術師なのでスキルで作れてしまうので打つ事はしたことが無いので、尚更に興味が有ります。」
「ほぉ、お嬢さんは錬金術師か、それはわしが逆に興味が有る、是非その技を見せて貰えぬだろうか?」
「良いですよ、大変に興味深い鍛造と錬鉄を見せて頂いたので、お見せします、何をお造りしましょうか?」
「そうだのう、ワシの作の刀を模倣して同じ物を作って貰えぬだろうか。」
この、今私に声を掛けてくれた人は、多分、今、刀を打っている人達の御師匠さんなのだろう、しかも相当の腕の持ち主だ、そう言った雰囲気がにじみ出ている。
「あはは、それは何とも難しい注文ですね、恐らく貴方はあちらの方々の御師匠様ですよね?
そんな方が打ち、更に幾度も打ち直しをしたと思われる大業物を、短時間で錬成してしまう錬金術で再現しろと言うのですか、どこまで出来るかは判りませんが、やれるだけはやって見ますけどね。」
恐らく、このお爺さんの打った刀の性能の半分も性能を引き出す事は出来ないだろう、その位驚異的な腕前の持ち主では無いかと推測される。
きっとね、日緋色玉鋼とか使わないで、普通の玉鋼から打つ刀で、日緋色の刀を超える性能を叩き出すと思う。
でもこの人になら、提供しても良いと思った。
「では私が勝ったら、その刀を頂いても宜しいですか?
で、私が再現し切れなかったら、その時は、私はこの金属を提供します。」
そう言って、私は日緋色玉鋼、ミスリル銀、オリハルコンの三種の金属を、其々5㎏づつ取り出し、並べて見せた。
「ほッほっほ、これは又豪儀な、宜しいのかな?このような最高の素材をこんなに。」
「ええ、私としては貴方のような方にならお譲りしても良いと思って居ますから。」
「左様ですか、お嬢さんは、見た目通りの年齢では無いようじゃ、恐らくわしなんかよりずっと長生きしてらっしゃるな、見た目の年齢からは推測も出来ぬほどの歳月を生きてらっしゃるな、ハイエルフ・・・と言う所じゃろうか。」
「あはは、流石にそれなりに道を究めた人の目は誤魔化せませんねー。
私は735歳、種族も正解でハイエルフです。」
「それでは、隣の工場を開けますじゃ。」
その工場には、狭いながらも立派なたたら製鉄用の炉と、刀を打つための立派な工場が有った。
数年使って居ないようではあったが、丁寧に掃除がされて居て埃の一つも見当たらない。
「素敵な工場ですね、私に打ち方を教えて頂けたりは・・・しないですよね?」
「いや、お嬢さんなら多分、ワシが教える事をすぐ吸収して隣で打っておる弟子達を軽く超えてくれる気がする、教えるのは吝かでは無いよ。
ワシの後を継ぐにはあ奴らは温い。
もし、ワシの技を伝えて頂けるなら、ハイエルフのお前さんに伝えて、新たな跡目を見つけて欲しい、ワシはもう長くは無いでの。」
「判りました、それでは、先ず、錬金の技をお見せしますので。
お手本の刀を拝見させて下さい。」
おじいさんは、工場の奥へと消えて、暫くすると一振りの長刀を持って現れた。
随分長い刀だった、そう、あの、某RPGで、敵キャラなのにむっちゃ人気があったあの長髪のイケメンが持っていた刀のように、背中に背負わねば持ち歩けない程の長い刀だった。
その刀を受け取った私は、鞘から抜いて繁々とその波紋を見つめる。
凄い、本気で凄い。
多分、反則技とも言える素材、アダマンタイト以外では、この刀に対抗出来るものは無いと思われた、いや、むしろ時間の止まった素材の筈のアダマンタイトさえ斬ってしまうのでは無いかと思われた。
なのに鞘を斬らずに鞘に収まっているのだ、これはとんでもない。
斬る事と斬らない事がその刀の中に混在して居るのだから。
アダマンタイトにも二つの要素が混在して居るとは思うが、それは、斬れる事と、斬れない事、こっちは、斬る事と斬らない事。
どう考えても混在出来る要素では無い物が混在して居た。
そして多分、マジでアダマンタイトも斬るのでは無いだろうか。
「す、すごい、これは・・・」
「ほッほっほ、流石じゃな、見て判るか。」
「ええ、これは私の完敗ですね、ですが約束なので、技はお見せ致します。」
そう言って、玉鋼を一つ取り出した私は、錬成を開始した。
これまでに無い程の長時間を掛けて、私の持てるスキルの限りを込めて錬成した。
終った時には、すっかり日が落ちていた。
「ふう・・・これが、私が錬金術で作れる最高の物です。
これ以上は私の魔力が持ちません。」
その刀を手渡した。
おじいさんは、それを眺めて、驚いたように目を見開いてこう言った。
「わしの弟子達の打つ物を遥かに凌駕しておる。
錬金術と言うのは恐ろしい物なのじゃな、やはりお主には、わしの技を見せねばならんようじゃ。
明日、又この工場へ来なさい、お主に貰ったこの日緋色玉鋼で、ワシの技をお見せしよう。」
何だかスゲェ貴重な体験させて貰えそうだ、楽しみ。
「判りました、あなたの技は、私が受け継ぎ、恐らく貴方の技を正しく伝えられるであろうドワーフの鍛冶師にでもお伝えします。
では、明日伺います。」
そう挨拶をした私は、お腹空いたなーとか考えつつ、宿へと戻るのだった。




