番外編4 聖女の弟子
番外編4 聖女の弟子
私はアリエッタ、港街ローデストの小さな教会のシスター。
でも只のシスターでは無い、異世界からの転生者です。
そして、前世の記憶を持つ、元男性医師、義体技師です。
この世界へ転生するに当たって、神より一つの使命を頂いたのです。
それはこの世界にて、聖女の現れるのを待ち、その聖女より教えを請い、この世界に信仰と救いを生む手伝いをせよとの事でした。
私は、生まれた街ローデストで、物心ついた頃、前世の記憶を取り戻した。
その頃には孤児で御座いました。
港街であるこの街では、孤児は割と少なくは無い、何故ならば港街特有の理由があったのです。
勿論、漁に出て帰らぬ人となった父親、子育てに掛かる負担に耐えられなくなった母親とか、旅の船乗りと一夜を共にした母と、何時立ち寄るかもしれない父親、そして待ちきれない母親が持て余した子供と言う良くあるパターンです。
私もご多分に漏れずその口だったのです。
私が、孤児院を兼任している教会で育てられた恩を教会に返す為にシスターとなったのは、14歳の時でした。
その後、聖女に出会うまで、4年と8カ月、その間に、前任の牧師様は気を病んで引退され、そこへ偶々、この街へと訪れた牧師服の御人、それがアスム牧師でした。
彼は不思議な力を持っているのは確かだったのですが。
しかし、それがどんな能力なのか、彼自身が何者なのかは一切語ってはくれません。
まぁ普通にご自分の能力をおいそれと人に語る人なんか要る筈も無いのでそれは当然ではあったのですが。
それにしても、今の牧師様の居ないままの教会では格好もつかない、私は、お願いしてこの教会へ留まって貰う事にし、必死で引き止めました。
もしも体を求められても構わないと覚悟を決めて居たのですが、彼はそれすら求めませんでした。
もしかしたら本当に高位の神官様なのでは無いでしょうか。
しかし、アスム牧師は、私に何も求めないだけでは無く、何もしたがらなかった、もしかすると只の残念な人?
もとい、世捨て人とか?
解らない人だった。
だが、やはりこの方には何か特別な力があったようだ。
ある日・・・
「近いうちに、この街に聖女がやって来るだろう。
そうだな、来月か、その辺りには来るだろう。」
それは突然の予言だった、むしろ、御神託を受けての発言、そのように私には感じられました。
なのに・・・
「私は聖女には会いたくない、この街を出ていく。」
そう言い、荷物をまとめ始める始末。
私は又しても必死に食い下がり、思いとどまらせたのでした。
何なんだろう、この人は、まるで何を考えて居るのか、理解できない。
聖女が現れると予言したかと思えば会いたくないと言って出て行こうとまでする。
何か聖女様と面識があり後ろめたい事があるとしか思えませんでした。
何故そのような、御使い様である聖女様に負い目の在るような方が御神託を受けられるのかも判らない。
どちらの視点から考えても意味が解らない。
そんな答えが出ないまま、明日には聖女様がやって来ると、アスム牧師は私に告げたのでした。
ですが、私が、この街の牧師様は貴方しか居ませんと言う一言で、出て行く事はしないと約束して下さいました。
これで何とか牧師様不在の状況は回避出来ました。
むしろ私は、聖女様にお会い出来るのを心待ちにして居りました。
何故なら、アスム牧師の受けた御神託で、私の前世の知識をようやく生かす事が出来るようになると判っていたからでした。
どのような形で生かせるようになるか迄は解りませんでしたが、私の医療知識を生かせるのであれば、それは街の為にも教会の為にもなります。
ましてや保護して居る孤児達を育てる為には領主様の支援金だけでは足りませんので、むしろこれからは必要不可欠とも言えるでしょう。
我々で稼ぐ必要性が有るので、医療が出来ると言うのは大変有り難い事なのです。
そして遂に、アスム牧師の御受けに成られた御神託の通りに聖女様は、この教会をお尋ねになられた。
そして、その聖女様は、私の思って居た通りの方だった、始めは解らなかったのですが、その方は私のかつての師、その人だったのです。
願わくば今一度お会いしたいと願って居た方だった。
そして、驚いた事に、アスム牧師は、この世界の神だったのでした。
私がこちらに来るとき、伊弉諾様は、『聖女を待ちなさい、その者が貴方を導くだろう。』と言って私を転生させて下さったのですが、この世界での神は、まるで別。
伊弉諾様では無かったので非常に違和感を持っておりましたが、その謎もこれで解けたのです。
そしてアスム牧師、いや、アスモデウス様が師匠に対して持っていた感情、それは、羞恥でした。
きっと、師匠が居なければこの世界は崩壊へ向かって居たのかも知れません。
私の師匠は、私が言うのもなんですが、兎に角規格外、常識の枠をぶち壊す天才とでも言いましょうか、一見出鱈目なのに数式を編み出して計算すると何故か理論的に証明出来てしまう。
そんな、全てを圧倒するような出鱈目理論と言いますか、人の知恵の斜め上を考え出せる常識の通用しない方でした。
ですので私は今更驚かないつもりでしたが、何とこの師匠は、此方の世界で魔法を生み出したと言うので流石の私も呆れました。
精霊迄生み出したと言うので、呆れるのすら通り越して恐れ入りました。
もう、この人こそ神で良いのでは無いか、そんな気になってしまいました。
ですから、これから私は、この人を信仰する事に決めました。
医療技術と医療魔法で生計を立て直し、領主様の支援金を貯金し、一年後くらいには、エリー師匠の聖女像を立てる事が出来そうだと言う試算に辿り着いた私は、さっそく実行に移す事にしました、このポンコツ・元神・残念牧師を差し置いて。
牧師として居てくれるだけで構わないので、引き籠って下さって結構。
後は私が全ての業務をこなすだけの事。
但し、一人ではきついので、師匠より頂いた新たな技術で作りだしたAIアンドロイドを、シスターとして働かせる事にした私は、私が牧師様のお仕事を代行し、シスターとしてのお仕事はアンドロイドに任せる方針を取る事にしました。
アンドロイドには、エリー師匠が私と別れた後に、最後の方で確立したと言う最新鋭の高効率型クワトロカーボンバッテリーを搭載し、教会の屋根に敷き詰めたソーラーパネルとシーガルウイングファン式風力発電で充電する充電式にした、何故レトロな充電式かと言うと、これだとエリー師匠から分けて頂いた物で全て出来る為、タダだからです。
ここが港町と言う事もあって、風には事欠かない事も幸いして、風力発電は非常に効率が良かったのも手伝い、この方式を見出すのに大した時間も要らなかったですしね。
子供達の為に少しでも食費を子供達の食い扶持に回してあげたい、かつてエリー師匠が宇宙中の孤児に支援をしていたように。
つまり今は未だ、貧乏教会なので少しでも食費に当てたくて充電式にしたのです。魔素給電式と言う新しい方式をエリー師匠は開発して居る様だったけれど、それだと出力が相当に高かった為に、普通の労働用アンドロイドには不向きと判断した部分も否めませんけど。
それにしても、魔素、師匠はどんな手段でこれを観測する事に成功したのでしょう。
やはりスゴイお方だと思う。
当面は、このローポーションと言う薬を作って行こうと思う。
そんなにしょっちゅう怪我人が運び込まれる事は無いだろうし、多少の怪我であればこの薬を使って貰えば良いようなので、間違いなく売れる筈です。教会をアンドロイドシスターズに任せて、今日は街へ出て病人が居ないか確認して周るつもりです。
病気の知識も色々貰った為に、特効薬なども創造魔法でクリエイトできるからまさにチートだと思う。
教会の地位もこれで上がる事でしょう、その為にも私は人を助けて行こうと決意致しました。
しかし、神すら超越してしまうなんて・・・
もうこれからはエリー師匠しか勝たん。




